裸のキングに対して、ダブルビショップが残っている場合と、ナイト+ビショップが残っている場合には強制手順でチェックメイトにできます。しかし、次の例のように、ダブルナイトだけではメイトにできません。
Baba (2202) - Kojima (2197)
百傑戦 2007
position after .77...Kxe3
78. Kg1 Kf3 79. Kf1 Kg3 80. Kg1 Ne3 81. Kh1 Nd3 82. Kg1 Ne1 83. Kh1 N1c2 84. Kg1 Nd4 85. Kh1 Nb3 86. Kg1 Nd2 87. Kh1 ½–½
87...Nf3だとステールメイトですので、メイトまで1歩足りず、ドローです。
しかし、相手に1ポーンでも残っていると話が変わってきます。
現在進行中のIsle of Manのトーナメントで、KarjakinがWorldクラスのテクニックを見せ、これが話題になっています。
Karjakin (2760) - Sevian (2634)
IoM Masters 2018
position after .92.Kf8 1-0
92…g2 93. Nd6 g1=Q 94. Nf7でメイトですので、黒のSevianはここでリザインしました。
局面を少し戻してみましょう。
Karjakin (2760) - Sevian (2634)
IoM Masters 2018
position after .61.Ng3
ちょうど片方のナイトでgポーンをブロックしたところです。g3のナイトはこのパスポーンをブロックしなければいけないので、動けません。黒キングは盤上をフリーに動き回れ、とても捕まるようには見えませんが、驚くべきことに白はキングと片方のナイトだけで黒キングを強制的にコーナーに押し込むことができるのです!
61...Kd4 62. Kf2 Kc3 63. Nd1+ Kd3 64. Ke1 Kc4 65. Kd2 Kd4 66. Nc3 Kc4 67. Nce2 Kd5 68. Kc3 Kc5 69. Nf4 Kc6 70. Kc4 Kd6 71. Nd3 Kc6 72. Ne5+ Kd6 73. Kd4 Ke6 74. Nc4 Kf6 75. Ne3 Ke6 76. Nef5 Kd7 77. Kd5 Kc7 78. Nd4 Kd7 79. Ne6 Ke7 80. Nc5 Kf7 81. Kd6 Kf6 82. Nce4+ Kf7 83. Kd7 Kf8 84. Nd6 Kg7 85. Ke6 Kg6 86. Nde4 Kg7 87. Ke7 Kg8 88. Kf6 Kh7 89. Nf5 Kg8 90. Ke7 g3 91. Nf6+ Kh8 92. Kf8 1-0
Karjakinのテクニックに酔いしれるのも良いと思いますし、きっと感銘を受けることでしょう。しかし、真相はどうでしょうか?
実際は黒ポーンがg4まで進んでいると、黒はドローにできたということです。Sevianの敗着は、gポーンをブロックしているナイトに近いコーナーに逃げたことです。代わりに、gポーンをブロックしているナイトから遠いコーナーであるa8に逃げたら、g3のナイトがファイナルステージで黒キングをメイトにしにいくのに手数がかかり、その間に黒はパスポーンをプロモーションさせることができます。例えば、78... Kb7! 79. Kd6 Ka6 80. Kc6 Ka7 81. Ne6 Kb8 82. Nc5 Ka7 83. Kc7 Ka8と、84. Nge4 g3 85. Nd6 g2 86. Nb5 g1=Qなど。
では、いったい相手のパスポーンをどこでブロックしていれば勝ちになるでしょうか?
答えはTroitskyというendgame study composerの鬼才が発見していました。
白黒両方でTroitsky'sのラインと呼ばれるものを示します。
このラインよりポーンが進むことなく片方のナイトでブロックできていれば勝ちだということです。
例えば、Karjakin-Sevianでは黒パスポーンがg4まで進んでいたので、Troitsky'sのラインを超えています。ですので、これは理論的にはドロー。もし、黒ポーンがg6にいるところでブロックできていれば強制的な勝ちがあるということです。
今回、私が学んだレッスンがChessbase Indiaにあります。2つあわせて見てもらえると理解が深まると思います。
What is Troitsky's line? An instructive endgame lecture
https://www.youtube.com/watch?v=VM9JWGbBQ4s
Update to what is Troitsky's line! Karjakin vs Sevian!
https://www.youtube.com/watch?v=gAPpIb51snQ
今回のテーマを見ていた時、次のゲームを思い出しました。
Higashishiba (2041) - Kojima (2463)
Japan Championship 2016
position after .44...Nxh5
白のポーンはTroitskyのラインより進んでない側で黒ナイトにブロックされるため、黒勝ちであることが分かります。実戦でも、黒が以下のように勝ちました。
45. Kf2 Ke5 46. h4 Ke4 47. Ke1 Kd3 48. Kf2 Kd2 49. Kf1 Nf3 50. Kg2 Ke2 51. Kh3 Ne5 52. Kg2 Ng4 53. Kh3 Ne3 54. Kh2 Kf3 55. Kh3 Nf4+ 56. Kh2 Ng4+ 57. Kg1 Kg3 58. Kh1 Ne3 59. h5 Ne2 0-1
白ポーンがプロモーションする前に、Ng4-Nf2#が入ります。
これまでのレッスンから、白キングがh1ではなく、ブロックしているh5のナイトから遠いほうのコーナー(a1かa8か)に逃げるべきだったと分かります。この時、実際に白キングをメイトにできるかどうか試してみるべく、自分の力でやってみることにしました。
46. Ke1
白キングはa1に向かいます。
46…Nb3 47. Kd1 Kd4 48. Kc2 Kc4 49. Kb2 Nd4 50. Ka3 Kb5 51. Ka2 Kb4 52. h4 Nc2 53. Kb2 Ne3 54. Ka2 Nc4 55. Kb1 Kc3 56. Kc1 Nb2 57. Kb1 Nd3 58. Ka2 Kb4 59. Kb1 Kb3 60. Ka1
白キングをコーナーに追い込め、いよいよパスポーンをブロックしていたナイトの出番です。
60...Nhf4 61. h5 Ne2 62. h6 Nc3 63. h7 Nb4 64. h8=Q Nc2#
何とかメイトまで持っていけましたが、実戦で間違いなくきちんと指せるようになるにはトレーニングが必要です。