Japan Openが終了して早4週間。今年5月の全日本選手権と今大会は、来年Georgiaで開催されるBatumi Olympiadの代表権がかかった大会でした。最終的に5人が5P/6Rで並んだ結果は、オリンピアード代表権の行方に大きく影響し、今もどう決定していくか方向性が見えません。情報が不確定なのでここでは詳細は書きませんが、Olympiadは一生に一度立てるか立てないかの大舞台なので、皆さんが納得できる形で決着がつくことを願っています。
さて、今大会の自分のゲームから、ポイントとなった場面を2つ紹介します。まずはR.1ドローとなり迎えたR.2のゲームから。
Asaka,Samuel (1417) - Baba,Masahiro (2410)
Position after 35...exf4
[f4を取りにいくかc6を取りにいくかの2択ですが、ここでの選択が勝負の分かれ道になります。]
36.Qxc6?!
[36.Bxf4 Qg4 37.Rf1が正着ですが、横と縦のピンが気持ち悪いのと、このピンを具体的にどう外すか短時間に判断するのは難しいと思います。]
36...f3!
[ここまでイコールよりは白に分があった形勢ですが、この1手で黒に形勢が傾きました。白の2連ポーンより黒のfポーンのほうが強力であり、さらに白クイーンはキングのディフェンスからカットオフされました。]
37.Rf1 Qh3 38.Rf2 Qf5!
[白のバックランクの弱さをついて、Qb1+を狙います。以前紹介したHabu-Baba戦、Katsuta-Baba戦でもこのクイーンの動きがありました。]
39.Qa6 Bd4 40.Qa2 Qd3!–+
[c3やf1といったマスをおさえ、これで勝負ありです。焦ってはいけないのは40...Bxf2?? 41.Bc3++-]
41.Be1
[41.Qe6でパペチュアルを狙われるほうが黒としては考えることが多く嫌ですが、幸いなことに黒キングは逃げることができます。]
41...Bxf2 42.Qxf2 Re8 43.Kg1 Rg8+ 44.Kh1 Rg2 0–1
つづいては2日目のR.3から。
Baba,Masahiro (2410) - Shinoda,Taro (2082)
Position after 42.b6
[マテリアルはイコールですが、bポーンが走り出し、黒はこのパスポーンにどう対処すべきか決める重要な局面です。]
42...Re3
[私は42...Nxb6 43.Qxb6 Rf8とすれば、QB vs RRで白がアップしていても、fortressではないかと考えていました。というのは、同じマテリアル・バランスが現れたVolokitin-Morozevich Biel 2006のゲームを知っていたからです。(このゲームについては最後に紹介します。)白が勝つためにはf7のポーンを落としにいかなければなりませんが、2ルークで頑なに守られると、このポーンをどう落とすか白にはプランがありません。]
43.Qb5 Nf6?
[ここは43...Nxb6! 44.Qxb6 でfortressにするラストチャンスでした。また、必要はありませんが、43...Rxf3!? 44.gxf3 Nxb6 45.Qxb6 Re8でもQ vs Rのfortressだと思います。この後、はっきりとした勝ちのプランは見えませんが、局面を進めてみます。]
44.b7± Ree8 45.Bc6 Rf8 46.Kf2 Rb8 47.Ke3 Rfd8 48.g4 Kg8 49.Kf4 Ne8 50.h4 Nd6
51.Qa6 Kf8 52.Ke5 Ke7 53.Qa3 f6+ 54.Kf4
[54.Kd5 Kf8 55.Qxd6+? Rxd6+ 56.Kxd6とエンドゲームに持ち込むのも考えましたが、56...h5! 57.gxh5 Kg8 58.Kc7 Rxb7+ 59.Bxb7 Kh7 60.Bd5 Kh6 61.Bf7 f5 62.Kd6 f4 63.Ke5 f3 64.Kf4 f2 65.Bc4 Kxh5 66.Kg3 g5でドローにしかなりません。本譜のようにf6を突かせて白マスが弱くなるのは、白にとってメリットありと判断して、もう少しチャンスをうかがうことにします。]
54...Kf7 55.Qa5 Ke7?
[55...Kg8 56.Qc7 Kh8とポーンの陰に隠れるほうがベターですが、57.g5 fxg5+ 58.hxg5で黒キング前を崩して白が勝てるでしょう。]
56.Qc7+ Kf8 57.Bd5+-
[これで黒は完全にzugzwangです!]
57...g5+ 58.Kg3 Ke8 59.Qg7 gxh4+ 60.Kxh4 f5 61.Bc6+ 1–0
*****************************************************
Volokitin – Morozevich Biel 2006
Position after 43.Rxb2
43...Bc5!
[このゲームをliveで見ていた多くのチェスファンはここでMorozevichがなぜ43...Bd6+ 44.g3 Bxb8とルークを取りにいかなかったのか悩んだと思います。(私もその中の1人でした)しかし、45.Rxb8のあと、白はR vs Qのfortressに持ち込むことができるため、Morozevichはこれを避け、f2のポーンを狙いにいきます。]
44.R8b3?
[44.R8b5! Bd4 45.Re2! Qf1 46.Rbb2! と2段目でディフェンスすれば白がドローにできる可能性は高かったと、MorozevichのsecondだったKuzminは主張します。(New In Chess Magazine 2006/6)]
44...Qe1 45.Kg3 Bd4 46.Rb1 Qxf2+
[このポーンを落として黒勝ちとなります。]
47.Kh2 Be5+ 48.Kh1 Qf4 49.Kg1 Qh2+ 50.Kf2 Bd4+ 51.Kf3 h5 52.Rb5 Kh6 53.Rd5 Ba7 54.Rbd1 h4 55.R5d2 Qe5 56.Rd6+ g6 57.R1d3 Qg3+ 58.Ke2 Qxg2+ 59.Kd1 Bb8 0–1