全日本選手権2012 -Turn Over-

初日の今日は観戦に行きました。R.1では塩見さんとAlexが黒星スタート、R.2では南條くんがドローとupsetが相次いで起こりました。これは、R.1の組み合わせが意味のない加速式であったことも絡んでいますが、全日本では簡単なゲームはそうないということを象徴していると思います。南條くんは初戦、敗北の危機がありました。

 

Misaka,Susumu (2081)

Nanjo,Ryosuke (2280)

Japan Chess Championship 2012(1)

 

1.c4 e5 2.g3 Nc6 3.Bg2 f5 4.Nc3 Nf6 5.e3 f4 [Dubiousに見えますが、どうなのでしょう?] 6.d4 fxe3 7.fxe3 exd4 8.exd4 Bb4 9.Nge2 Bxc3+ 10.Nxc3 Qe7+ 11.Ne2 Qb4+ 12.Bd2 Qxc4 13.00 Nxd4 14.Nxd4 Qxd4+ 15.Kh1 00 16.Qb3+ Kh8 17.Bc3 Qb6 18.Qa4 d6? [白に決定的好機を作らせてしまう悪手です。ここが第1のターニングポイントです。]




19.Rxf6!! gxf6 20.Qh4 Qc5 21.Rf1 Bf5 22.Bxf6+ Kg8




23.b4
[本譜でも白のアドヴァンテージは続きますが、ここは決定的な決め手がありました。23.Qg5+! Bg6 24.Bd5+ Rf7 25.Bxf7+ Kxf7 26.Bd4+でクイーンを素抜いて白勝ち。] 23...Qc2 24.Bd5+ Rf7 25.Bxf7+ Kxf7 26.Bd4 Rf8 27.Qf6+? [このチェックのあと、黒勝ちとなります。ここが第2のターニングポイントです。] 27...Ke8 28.Re1+ Be4+ 01

 

南條くんは、明日からは、国内モードから海外モードに切り替えて試合に臨んでくれると思います。

 


全日本選手権2012 -Upcoming-

今年も全日本選手権の季節です。あれからもう1年ですか... 早いものですね。

 

周りには話していましたが、日程上の都合もあり、私は今年、全日本には出場しません。代わりにゴールデンオープンに初参戦します。裏情報から、おそらく今年はゴールデンもいいレベルになるのではないかと読んでいます。

 

とにかく明日から1年で最も熱い1週間が始まります!


Cappelle la Grande 2012 -Round9-

WRITTEN BY

Kanda Daigo

 

中村(尚)、カテゴリー優勝!310日(土)、第9ラウンド]

最終第9ラウンドはこうなりました。

 

南條 =/= Bokros, Albert (2472,IM)

篠田 1-0 Lantoine, Gauthier (1630)

 

PAPP, Petra (2296) - NOGUCHI, Koji (2040)

1.e4 c5 2.Nf3 g6 3.d4 Bg7 4.d5 Nf6 5.Nc3 O-O 6.e5 Ne8 7.h4 d6 8.h5 dxe5 9.hxg6 hxg6 10.Bh6 Bxh6 11.Rxh6 Kg7 12.Qd2 Nd6 13.O-O-O Rh8 14.Rxh8 Qxh8 15.Nxe5 Nd7 16.f4 Nf6 17.g3 Bf5 18.Be2 Qh2 19.g4 Nfe4 20.Nf3(23) Qf2(29) 21.Qd3(22) c4(22) 22.Nxe4(16) cxd3?? (23) [22…Bxe4ならば黒やや良し野口] 23.Nxf2 dxe2 24.Re1 以下略1-0

Janev戦同様、チャンスはあったのですが、相手よりも時間を使わず、勝負所で雑になったのが悔やまれます。対戦したGMIMは皆、勝負所でしっかり時間を使い、必死に勝ちを取ろうとするところが自分には一番勉強になりました。」(野口さん談)

 

Doluhanova, Evgeniya(2269,WGM) - NAKAMURA, Naohiro (2000)

1. e4 c6 2. d4 d5 3. Nc3 dxe4 4. Nxe4 Bf5 5. Ng3 Bg6 6. h4 h6 7. h5 Bh7 8. Nf3 Qa5+ 9. Bd2 Qc7 10. Bc4 e6 11. Qe2 Nf6 12. Ne5 Bd6 13. O-O-O Nd5 14. Rhe1 O-O 15. Qg4 Kh8 16. Qf3 Bxe5 17. dxe5 Nd7 18. Qe2 a5 19. f4 Nb4 20. Bxb4 axb4 21.Qd2 Nb6 22. Qxb4 c5 23. Qb3 Nxc4 24. Qxc4 b5 25. Qb3 c4 26. Qb4 c3 27. bxc3 Rfc8 28. Qb3 Ra4 29. Ne2 Rca8 30. Kd2 Rxa2 31. Rc1 Qc5 32. Nd4 R8a3 33. Qb4 Qxb4 34. cxb4 Rd3+ 35. Ke2 Rxd4 0-1

Caro-Kann Classicalで、今までほとんど指されていない妙手を選択して、早々に定跡を外しました。私が格下だからか、いきなりキングを狙って来ましたが、何もなく凌いで、Qサイドの反撃につなげました。ポーンを2つ切って攻めにいったところで、相手からミスが出て勝ち。」(中村尚さん談)

 

総合成績は

南條(2280)=5.5p(423), performance=2355

中村(尚)(2000)=5.5p(423), perf.=2236

野口(2040)=4.5p(333), perf.=2188

篠田(1906)=4.5p(441), perf.=1913

神田(1933)=3.5p(341), perf.=1830

 

南條さんはその実力を遺憾なく発揮しました。GM四人とIM一人に当たりながら5.5ポイントを挙げて二つ勝ち越し、カテゴリー賞金95ユーロを獲得しました。performance2355と、レイティングを大幅に上回る素晴らしい成績です。FM誕生の日もそう遠くないことでしょう。

 

中村(尚)さんもお見事でした。総合5.5ポイントでカテゴリー(2000-2099)優勝です。壇上に呼ばれ、トロフィーが授与されました。賞金250ユーロを獲得。大会スタート時のレイティング2000ですからこのカテゴリーで一番低い位置にいながら、全員をごぼう抜きして一位!昨年のカペルの雪辱を果たすべく、一年間、積み重ねて来た努力が大輪の花を咲かせました。拍手!!

 

このお二人が余りにも素晴らしい戦績を残したので目立ちませんが、実は野口さんも特筆ものの好成績でした。GMIMFM一人ずつ、WGM二人にWIM一人と対戦。9試合中6人がタイトル保持者という厳しい当たりなのに総合成績が五割の指し分けで、レイティング100以上も上回る高いperformanceを叩き出しました。6ラウンドのFantasticなゲームは日本の棋界で長く語り草となることでしょう。指し盛りの勢いそのままに、全日本選手権での活躍が大いに期待されます。

 

篠田さんも勝率五割に到達し、かつレイティング以上のperformanceで、「招待選手として最低限の結果を残せたから、ホッとしています」と慎ましい感想。でも実際は、カテゴリー賞金25ユーロを獲得しましたから十分に健闘したと言えます。毎年カペル大会には日本人が多く参加して来ましたが、過去において、同じ年に3人が賞金を獲得したことがあったでしょうか?皆さん、おめでとうございます!!

 

私はご覧のとおり、不甲斐無い成績でした。一から出直しです。

 

他人を知る

大会の始まる三日前、私は下見を兼ねて会場に行きました。折しも運営ボランティアの人たちが長テーブルを並べるなど、設営の真っ最中でしたので、邪魔にならぬよう、遠くから見学していると、ジャージ姿のおじさんが「こんにちは!」と気さくに声をかけて来ました。過去の大会写真を見ていたので、すぐに誰だか分かりました。地元のチェスクラブの会長であり、大会運営委員長でもあるグヴァールGouvart, Michelさんでした。

 

彼の話によれば、このカペル大会の目的は「他人を知ること」だそうです。今の世の中、至る所で人と人とが“衝突”している。戦争や内戦といった文字通りの戦いもあれば、言葉と言葉をぶつけ合う外交の角突き合いがあり、国の中での住民同士のいがみ合いもある。形はさまざまだがその原因は共通で、自分と意見の違う相手を“知らない”からだ。知らないから、疑心暗鬼で簡単に“敵”になって衝突する。こんな悲しい状況を何とかしたい、という思いでチェスの大会を立ち上げたのだそうです。チェスを通じて「他人を知る機会を作りたいんです」、と。

 

こうして始まったカペル・ラ・グランド大会、1985年の第一回の参加者は68人でした。それが年々、回を重ねるごとに参加者が増え続け(と言いますか、グヴァールさんたちが努力して増やし続け)、十年後の1995年には500人の大台を超えました。スイス式9ラウンドという競技のことだけを単純に考えれば、人数が多すぎるかも知れませんが、ゲームすることだけが目的ではないのです。いかなチェス大国フランスでも、参加者が500人規模の大会は皆無です。また、今年の参加者497人の内、フランス人は「たった」265人しかいません。参加者の半数近くが外国人なのです。「他人を知る」という方針で大会が企画されていることを雄弁に物語っています。

 

大会が始まって二日目、ゲーム開始のしばらく前に席についてぼんやりしていると、年配の男性から「日本の方ですか?コインを譲ってくれませんか?」と話しかけられました。外国の硬貨を集めているのだそうで、手持ちの100105円玉をあげたら、とても喜んでくれました。数日後、会場でまたこの男性を見かけたので、どうです?と聞いたら、「今日はブラジルのコインをもらえた」と嬉しそうに話していました。この男性はきっと、自宅でコインを眺めることで外国旅行を楽しんでいるのでしょう。チェスの試合には出ないこの男性にとってもまた「他人を知る」機会となっています。大会がもたらす相乗効果と言えましょう。

 

来年もまた多くの日本人がカペルに参加し、老若男女、さまざまな国の選手と盤をはさんで対戦し、チェスを続ける喜びを体験されますよう願ってやみません。数次にわたり長々と書き連ねたレポートにお付き合いいただき有難うございました。日本人選手の記録を残す貴重な機会を提供してくださった馬場五段に深く感謝いたします。(了)

 

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訂正:カペルのレポート中に2か所、誤字がありました。訂正してお詫びいたします。

R4のミニコラム

【誤】フランスのIMイアンPayen, Arnaud 2336さん。

【正】フランスのIMイアンPayen, Arnaud 2336さん。

R6のミニコラム

【誤】勝っていました!WIMのドルハノヴァ

【正】・・・WGMのドルハノヴァ


Baba Masahiro on Simul Event

前日のCheck Mate Loungeの興奮が冷めやまぬ中、4/22(日)は北千住マルイ11階のシアターにて、Short30面指しが行われました。参加者の中には名古屋、大阪等、遠来の方もいらっしゃり、各自みな、特別な思いでShortとの対戦に臨まれたと思います。

 

さて、私もちゃっかり同時対局に参加しました。当初の予定では、参加者の中にこっそり紛れて指す予定でしたが、そうはいかず、ご丁寧に小島くんはセンサーボードを用意してくれました。会場にはスクリーンがあり、私のゲームのみが映し出されるような仕掛けとなっていました。

 

多少、プレッシャーに感じる中、13:30にゲームはスタートしました。

 

Short,Nigel (2697,GM)

Baba,Masahiro (2233)

Simul 2012

 

1.e4 c5 2.Nf3 [No Closed Sicilian!] 2...d6 3.d4 cxd4 4.Nxd4 Nf6 5.Nc3 a6 6.Qf3!? [私は100戦を超えるNajdorfのゲームをしてきましたが、この手は初めてです!] 6...e6 7.Be2!? [7.Bc4ならSozinになり、割と自信ありだったのですが...] 7...Be7 8.Qg3 b5? [8...0–0 9.Bh6 Ne8ならノーマルなプレーです。しかし、せっかくですからリスクを背負ってでも、シャープな変化に飛びこもうと考えていました。期待していたのは、9.Qxg7 Rg8 10.Qh6 Rxg2です。] 9.Bf3! [恥ずかしながら、完全に見落としていました。g2を守られた上に、e4-e5が強力なスレットになっています。この時点で自分のオープニングのプレーがまずいことに気付き、ここから局面をアンクリアーにすることに注力します。] 9...b4 [e4-e5が来るのが分かっていても、この手はいれないといけません。] 10.Nce2 [あまり時間をかけず、このおとなしい手が来たのには、少し驚きました。10.e5! dxe5 11.Bxa8 Qxd4なら、やはり黒のコンペンセーションは不十分です。] 10...e5 [これで何とかなったかなと思っていたら、大間違いでした。]




11.Qxg7!
[A surprise! Shortはしばらく考えたのち、この手を指してきました。黒はd4のナイトをとってもe4-e5で駒を取り返されてしまいます。指されるまで全く見えていませんでした!] 11...Rg8 12.Qh6 exd4 [深く考えはしませんでしたが、12...d5!?はありだと思います。] 13.e5 dxe5 14.Bxa8 Bf5 15.Ng3! Bxc2 16.0–0 [白はc2のポーンを落とす代わりにキングの安全性を選択。] 16...Nbd7 17.Qd2 Bg6 [引き続きe4のマスを睨むべく、こちらのダイアゴナルを選択します。黒としては貧弱ですが、一応パスポーンという切り札ができました。] 18.Bc6 Qc7 19.Ba4 h5!




[
がむしゃらに攻めます。が、実際、白にとっては嫌な手だと思います。黒はgファイル、h2-b8のダイアゴナルとNg4の合わせ技、e5-e4からのセンターのポーン等、リソースに溢れています。ゲームは面白くなってきました。] 20.f4 Ne4 [20...e4 21.f5 Bh720...h4 21.fxe5 Qxe5 22.Re1もいまいちです。本当はg3のナイトはh5-h4で追い払いたかったのですが、方向転換です。] 21.Qe1 [21.Nxe4 Bxe4 22.Rf2 d3は黒として悪くないと考えました。] 21...Nxg3 22.hxg3 [22.Qxg3 e4は何か起りそうな気配を感じますw] 22...Bd3



 

[とても心地よい1手です。23.Rf2? e4はもちろん白が指しにくいので、白がエクスチェンジを返すのは必須です。この時点で、だいぶ盛り返したと感じました。] 23.fxe5 Bxf1 24.Kxf1 Kd8! [まずはピンを外し、Nd7-c5の跳び出しから反撃を狙います。] 25.Bf4 Qc4+ 26.Kg1 d3 [はじめ私は、26...Nc5 27.Rc1 Qxa2のラインはa4のビショップに当たっているから黒OKと読んでいましたが、突如28.Qxb4! (△Qb8+!)があることに気が付きました!] 27.Rc1 Qd4+ [27...Qxa2? 28.Qe4!+-] 28.Be3 Qxb2! [28...Qxe5? 29.Bb6+で終了です。取っている暇はないように見えても、ここはポーンを取っておくのが絶対手です!] 29.Bxd7 Kxd7 30.Qf1!




[Qf5+,Qxf7,Qxd3+
3つの強力なスレットを瞬時に作ってきました。このあたりはShortのタクティクスの能力の高さを感じます。] 30...Qxe5! [またしても危ないポーンをかすめ取りました。30...Qxa2? 31.Qxd3+ Ke6 32.Rc6+で即死亡です。] 31.Qxd3+ Qd6? [ここにきて決定的なミスが出ました。32.Qc2! で白勝ちだと考えています。代わりに31...Bd6だったらまだ難しかったでしょう。] 32.Qf5+? [これは黒にディフェンスするチャンスを与えます。] 32...Qe6 33.Qf3 Rb8 34.Rd1+ Ke8 35.Bf2 Qg6 [ここでShortは数分、考え込みました。おそらく、白に勝ちはないと判断してか、このあとドローのラインに直行します。] 36.Rd5 Qg4 37.Rxh5 Qxf3 38.gxf3 Bd8 39.Bd4 [ここでShortからドローオファーがあり、1周回った後にアクセプト。局面は完全にドローです。] ½–½ [終始、非常にスリリングなゲームでした!!]



                                                                 Photo by Ishizuka Mirai
 

ゲームが全て終了したのは19:00を回っていた頃でした。スケジュールではもっと早く終わる予定で、Shortによるゲーム解説が用意されていましたが、さすがにお疲れのため、これはキャンセル。最終結果はShort264ドロー(馬場、佐野、馬屋原、北野)でした。危ない局面を作っても負けないところが、ShortのトップGMであり続ける所以ですね。

 

さて、イベント終了後はShortを連れ、小島くんの予約した日本料理屋へ。この会食で出た話の内容は、いくらBehind the Sceneだからと言って書くことはできませんw

皆、Shortの若さにパワーに圧倒されましたね!

 

最後に、この素晴らしい2日間をプレゼントしてくれた小島くんにもう一度、感謝を。周りでサポートした人も多かったですが、今回の立役者は彼以外ありえません。オーガナイザーとして良い経験を積んだ彼には今後とも期待しています!

 

そして同じく、この素晴らしい2日間をプレゼントしてくれたNigel。これからもチェス界のスーパースターであり続けてほしいと思います。また日本に来てチェスやくだらない話で盛り上がりましょう!


Baba Masahiro on Check Mate Lounge



昨日は
Check Mate LoungeGM Short2面指しを観戦。間近で試合をずっと見ていたわけですが、やはり相手は大物。見ているこっちのほうが緊張するような雰囲気でした。

 

試合を通して、どちらのゲームもShortがちょっと圧していました。しかし、羽生さんは冷静にエンドゲームを指し、ドローをもぎ取りました。途中、羽生さんからドローオファーがありましたが、Shortは観客に分かるような形にするため、ブックドローとなるも、最後まで指し続けました。

 

Short-羽生戦が終わり、残すはShort-小島戦になりました。いよいよ両者時間切迫になったからか、指すスピードが速くなりました。最後は結局ポーンの数で上回り、反撃を許さなかったShortが勝ち。厳しい状況とは言え、まだ駒が多く残った中で試合が終わったため、私も含めて観客は、どうしてゲームが終わったのか、困惑していたと思います。あとで小島くんに聞いたところ、負け局面で指す手が思い浮かばなかったため、リザインする代わりに時計が0秒になるのを待ったということです。

 

試合のあとは少し間をおいて、Short、羽生さん、小島くんの3名に対してのインタビューが行われました。Shortの通訳は南條くんが務めました。事前に通訳テクニックの本を1冊読んできたという南條くんは、やや緊張しながらも、初の通訳の仕事をしっかりこなしてくれました! 質問は、このあいだのラジオでの羽生さんと小島くんに対するインタビューと同じような内容でしたが、その中で次のShortのコメントが印象的でした。

 

「これまで公式の世界チャンピオンは19人いますが、その中の12人と指したことがあります。そして12人全員に勝ったことがあります(!)」

 

おそらくKorchinoiはもっと多くの世界チャンピオンと対戦したことがあり、全員に勝ったことがあると思います。しかし、ShortKorchinoi30歳以上歳が離れていることを考えれば



 

インタビューのあと、一般客がShort、羽生さんとブリッツで対戦。時間の関係上、希望者全てが対戦できるわけではなく、抽選でした。こういう時、引きが強いのか、Shortに挑戦できるラッキーな5人の中に私も入りました。

 

Baba,Masahiro (2233)

Short,Nigel (2697,GM)

Check Mate Lounge blitz 2012

 

1.e4 e6 [ShortFrenchです!] 2.d4 d5 3.Nd2 h6!? [この手については以前、このページでも触れました。] 4.Ngf3 Nf6 5.e5 Nfd7 6.Bd3 c5 7.c3 Nc6 8.0–0 g5 9.dxc5 Nxc5 10.Bb5 Bg7 11.Re1 0–0 12.Bxc6 bxc6 13.Nb3 Ne4 14.Be3 Qc7 15.Nc5 a5 16.Bd4 Rd8 17.Qc2 Nxc5 18.Bxc5 g4 19.Bd6?! [次のエクスチェンジサクリファイスは予測していましたが、次の手のあと、白は非常にやりづらくなります。ここは19.Nd4! をいれるのがよく、狙いとして19...Bxe5? 20.Rxe5! Qxe5 21.Nxc6を作っておくべきでした。19.Nd4のあと、Qc2-e2くらいで黒の弱いキングサイドを狙いに行けば、白が少し指しやすいように見えます。]




19...Rxd6! 20.exd6 Qxd6 21.Nd2 e5
[センターの分厚いポーンとダブルビショップで駒損不利なしというよりも黒良しです。] 22.Rad1 Qe7 23.c4 Be6 24.Qa4 Qb7 25.Nb3 Qb6 26.cxd5 cxd5 27.Rc1 d4 28.Rc6 Qb4! 29.Qxb4 axb4 30.Nc5 Bxa2 31.Ra1 Bf8?! 32.Nd7 Bg7 33.Nb6?! [ここは辛抱強く33.Nc5で相手の出方を待つべきだったと思います。] 33...Ra6 34.Rc8+ Kh7 35.Nd7 Bc4 36.Rxa6 Bxa6 37.Rd8 f5 38.Nc5 Bc4 39.b3 Bf7 40.Rd7 Kg6 41.Nd3 e4 42.Nxb4 d3 43.Nxd3 exd3 44.Rxd3 Bf8 45.Kf1 [これ以降の手は覚えていません。このあと10手も指さないうちに私の時間が落ちました。といっても、じっくりやれば黒が勝つポジションです。ちなみにShort44秒残していました。] 0–1

 

ブリッツとは言え、これほど緊張したゲームは久しぶりでした。でも、これでチケット代を払ってCheck Mate Loungeに参加した価値は十分あったと思います! ちなみにブリッツはShortも羽生さんも5戦全勝でした。



 

このあと、パーティーに。そしてパーティー終了後はおなかがすいているというShortを連れ、有志10名ほどで塩見さん行きつけの表参道の居酒屋で。おいしい料理とくだらない話でShortもきっと楽しんでくれたと思います! 最後は南條くんとタクシーでShortを南麻布の滞在先まで送り届け、その後帰宅。充実した1日で非常に満足。

 

Check Mate Lounge関係者の皆さん、お疲れ様でした。本日の同時対局もきっと成功するでしょう!


Bronのスタディから

先日、我が家にTimmanThe Art of the Endgameが届きました。本の前評判通り、濃い内容で、面白いテーマが次々と出てきます。実戦的なものが多く含まれているため、Endgameのスキルアップにもつながります。

 

http://chessplayer.jugem.jp/?eid=718

 

一通り見た中で、一つ非常に考えさせられるスタディがありました。


 

Bron, ‘Sovietskaya Rossiya’ 1957

White to move and draw (incorrect)

 

白は黒の危険なパスポーンを止めに行きます。ここで、R vs BR vs Nは理論的にドローのエンディングだということを予備知識として持っていなければいけません。つまり、たとえルークに取り返されても、ナイトかビショップのどちらかでパスポーンを取れればOKです。

 

1.Nb5 [Nc3-Bg5] 1...d2

 

ルークの横の利きで2.Nc3ができなくなりました。もう、パスポーンは止めようがないので、白は違う狙いを作り出します。

 

2.Kc8 Rf5

 

2...d1Q 3.Nc7+ Ka7 4.Bc5#が白の狙いでした。黒がこれを防ぐには本譜の1手のみです。

 

3.Nc7+ Ka7 4.Bb4 [Bxd2=] 4...d1Q 5.Bc5+ Rxc5 =


 

 

これでステールメイトが完成。

 

極めて簡明で美しいスタディだと思いますが、冒頭で「incorrect」とあるように、実はこのスタディにはグレーな部分があります。どこでしょう?

 

4…d1B!

 


 

このプロモーションがありました!

 

もちろん、エンドゲーム作者のBronはこのプロモーションの可能性にも気付いていた上でこの作品を発表したことでしょう。それなのになぜ?という問いにはこのRB vs NB (ビショップは異色)というマテリアル・バランスに対する評価がからんでいます。このマテリアル・バランスは長い間ドローだと考えられていました。そのため、このスタディは「correct」であり続けたわけです。

 

しかし、人工知能の発達とともにテーブルデータベースなるものが開発され、今では盤上に数個の駒しか残ってない場合には、全てのケースにおいて、結果と手順が解明されています。このマテリアル・バランスも例外ではありません。

 

上のポジションは、79手で黒が白キングをメイトにして黒勝ちです。

双方が最善手を指し続けた結果、黒勝ちになるのです!

 

ここで、OTBチェスのルールに精通している方であれば、50手ルールで白がメイトにされる前にドローになるのではないか?と思われるかもしれません。しかし、50手ルールはあくまでOTBチェスの現行のルールです。そもそも50という数字には特に根拠はありませんし。テーブルデータベースの開発で、色々と真実が見えてきた今日この頃、50手ルールも改めて見直したほうが良いのでは?と考えているプレーヤーも少なくはないでしょうが、それはまた別の話です...

 

さて、上のマテリアル・バランスで黒勝ちの手順は簡単ではありません。以前に私自身のゲームでも、このマテリアル・バランスが現れたことがあります。


 

Kuwata Susumu – Baba Masahiro

TOTOVS 2009 (1)

Position after 84.Ne2xg3

 

黒の最後のポーンが取られたところでこのマテリアル・バランスとなりました。黒はできるだけ白キングを隅に追いやり、メイトを狙います。

 

84...Kg5 85.Ne2 Kh4 86.Bd5 Rd3 87.Be6 Bd6 88.Kf2 Bc5+ 89.Kg2 Re3 90.Bc4 Kg4 91.Ba6 Re8 92.Bb5 Re7 93.Bd3?!




93.Bc4!
なら、作戦を練り直さなければいけなかったことでしょう。

 

93...Rf7! 94.Bb5 Rf2+ 95.Kh1 Kf3 96.Ng1+

 

96.Nc3 Rc2 97.Bc6+ Kf4 98.Ne4でも良かったと思います。このあと黒がどのように指せばよいのか、私はまだ分かっていません。

 

96...Ke3 97.Bc6?

 

勝敗を決定づけるブランダーです。97.Nh3 Rb2 98.Bc6 Bd6 99.Kg1 Be5 100.Kf1で、これまた私には黒の指し方が見えません。

 

97...Bd6! [Rh2#] 98.Nf3 Rc2 99.Bb7 Kf2 0–1

 

 

白はメイトを避けられません。

 

このテーマ1つでも何時間も考えさせられます!


Cappelle la Grande 2012 -Round 8-

WRITTEN BY

Kanda Daigo

 

日本vsハンガリー、男女混合戦39日(金)、第8ラウンド]

チャリンと刃の先が触れ合う音がしたかと思ったら、もう斬られていました・・・

 

前夜遅くに発表されたペアリングを見たら、第8ラウンドの私の相手はパップPapp, Petra(2296)さん。不勉強の私は知りませんでしたが、ハンガリーの若手女子のホープでした。

http://ratings.fide.com/card.phtml?event=739049

 

1993年生まれなので未だ10代の彼女は、2009年に16歳以下のハンガリー女子選手権で優勝し、同年の16歳以下の女子世界選手権に出場して8位となりました。翌2010年には欧州女子選手権に出場。こちらは年齢制限が無く、元世界チャンピオンらが参集する大会(優勝はクラムリン)でしたので79位でしたが、それでも5.5pt/11ときっちり五割の星を収めていますから、ただ者ではありません。そして、なんと、昨年のカペル大会ではWGMのノームを一つ獲得しています。仕事の関係でこの第8ラウンドが最後の試合となる私にとって、最後に最高の相手と当たりました。とても大きな「プレゼント」です。

 

日本に帰国してから調べたら、更にもう一つ、衝撃の事実(と言うと大袈裟ですが)が判明しました。カペル大会ではエントリー時そのままに「WIM」と表示されていましたが、実はそのひと月前、27日から15日にモスクワで開かれたアエロフロート・オープンBクラスに出場したパップさん、自身三つ目となるWGMノームを達成していて、FIDEHPでは既に「WGM」と表示されていました。私はWGMと指していた!

 

当日、会場にて「大物と当たりましたね。うらやましい」とか、「人間は誰でもミスしますから、大丈夫、きっとパップだってミスしますよ」と日本人同僚たちから激励され、背中を押されて試合に臨みました。



                                                           Photo by Nakamura Naohiro
  

KANDA, Daigo (1933)

PAPP, Petra (2296)

Cappelle la Grande 2012(8)

 

ChessBaseに載せられているゲームを見ると、1.d4に対する黒番のパップさんは、ほぼ全てダッチ防御のレニングラード変化を指しています。これは嬉しい。黒で指されて困るラインを白でぶつけ、パップさんの指し方を「盗もう」と勇んで臨みましたが・・・

 

1.d4 d5

がっくり。スラヴかぁ・・・

 

2.c4 c6 3.Nf3 Nf6 4.e3 e6 5.Bd3 Ne4 6.Nbd2 f5

でもやはりダッチ防御のポーン型がお好みのようです。

 

7.0-0 Nd7 8.b3 Bd6 9.a4(86) 0-0 10.Ba3

ここまでずっとノータイムで飛ばして来たパップさんが、ここで少し時間を使いました。ちらっと見ると、両手を額に当て、顔を隠すようにして、うつむいて考えています。プロ棋士たちの大会写真でよく見かける思考のポーズなので、「うわぁ、私を相手にして考えているよ〜」と舞い上がりました(苦笑)。まぁ、試合中にこんなことを感じるようでは、そもそも勝負になりませんね。局後の感想戦でパップさんは「a4からBa3でピショップ交換を目指す手法は、ある手だが、その先の白の指し方が難しい」と教えてくれました。実際、難しさを肌で感じるゲームとなります。

 

10... c5(89)



 

11.Rc1 ?(77)

時間を使って考えた上で指した手ですが、良くありません。正着は11.cxd5 exd5 12.Bb5 Ndf6 13.dxc5 Nxc5 14.Rc1 Nce4 15.Bxd6 Qxd6 16.Nd4 (Fritz)で、a3の黒マス・ビショップをさばき、d5に黒の孤立ポーンを残してそれを標的にしよう、という発想で指すべきでした。

 

11...b6 12.cxd5(73) exd5 13.Qc2(68) Bb7 14.Rfd1(66) Qe7(86)

白はどこかでNf3-e5と跳ねねばならないのですが、どう準備したらいいか分からぬまま、漫然と指し手ばかりが進みます。その間にどれだけ事態が深刻化しているか、私は気付いていません。

 

15.Bb5(60) Ndf6(80) 16.h3(57)

Fritzの局面分析によれば、既に黒がかなり優勢(1.27)

 

16...a6 17.Bf1 Rae8(74)

黒が何を狙っているか、ここまで進んでも私は未だ気付きませんでした。とにかくNf3-e5と跳ねたい一心で指した途端・・・終わりました。

 

18.Bb2(49) Nxf2(69) 0-1

 

代償なくポーンを取られ、陣形もつぶれ形ですから、リザインは当然でしょう。最善は18.Re1と守る手でしたが、以下18...g5 19.Ne5 g4(Fritz)となって明らかに劣勢。もっと前の、中盤の作りに問題がありました。また、パップさんは局後に「18.Ne5と指して来るかと思った」と言っていました。18.Ne5 Bxe5 19.dxe5 Qxe5 20.Nf3と進めば白はポーンを一枚損しますが、悪いながらも駒をさばいてマギレを求めようという、とても実戦的な指し方です。こんな手すら読んでいる所にパップさんの豊富な実戦経験がうかがえます。

 

試合前には、「記念になるから、ボコボコにされて泣きベソかいている姿も写真に撮っておいてね」と同僚に軽口を叩いていた私でしたが、ボコボコにされる時間も無かった(泣)。力量が段違いですから負けるのは仕方ないとしても、もう少し歯ごたえのあるゲームをしたかったというのが率直な感想です。

 

ぶざまな負けで沈み込んだ気持ちを、野口さんが一新してくれました。ハンガリーのWGM、ルドルフRudolf, Anna (2323)さんと渾身のドローです。

 

NOGUCHI, Koji (2040)

RUDOLF, Anna (2323)

Cappelle la Grande 2012(8)

 

1.c4 e5 2.g3 Nf6 3.Bg2 d5 4.cxd5 Nxd5 5.Nf3 Nc6 6.O-O Nb6 7.d3 Be7 8.Nbd2 O-O 9.a3 a5 10.b3 Be6 11.Bb2 f6 12.Qc2 Qd7 13.e3 Rfd8 14.d4 exd4 15.Bxd4 Bf5 16.Qb2 Bg4 17.Bxb6 cxb6 18.Nc4 Qf5 19.Nd4 Qc5 20.h3 Bd7 21.Rac1 Ne5 22.Nxe5 Qxe5 23.b4 Qd6 24.Qb3+ Kh8 25.Bxb7 Rab8 26.Bg2 axb4 27.axb4 Qxb4 28.Qf7 Be8 29.Qe6 Qd6 30.Qg4 Qe5 31.Nf3 Qd6 32.Nd4 Qe5 33.Nf3 Qh5 34.Qe6 Bc5 35.Rfd1 Qf7 36.Qe4 Qe7 37.Qg4 Bd7 38.Qh5 Ba4 39.Rxd8+ Rxd8 40.Nd4 g6 41.Qg4 Bd7 42.Qd1 Qd6 43.Nb3 Ba4 44.Qxd6 Bxd6 45.Nd4 Be5



 

46.Ne6 Rd1+ 47.Rxd1 Bxd1 48.Bc6 Bb3 49.Nd4 Bc4 50.Nb5 Kg7 51.f4 Bb2 52.Kf2 f5 53.Nd6 Bd3 54.Kf3 Ba3 55.Nb5 Bc5 56.Nc3 Bb4 57.Bb5 Bc2 58.Ne2 Be4+ 59.Kf2 Kf6 60.Nd4 Bc3 61.Nf3 h6 62.Ng1 g5 63.fxg5+ hxg5 64.Nf3 g4 65.hxg4 fxg4 66.Nh2 Kg5 67.Be2 Bf5 68.Bb5 Be5 69.Nf1 Bc3 70.Nh2 Be5 71.Nf1 Bc3 72.Nh2 Be5 73.Nf1 Kf6 74.Nh2 Be6 75.Be2 Kg5 76.Bb5 Bc3 77.Nf1 Bb2 78.Nh2 Bc1 79.Nf1 Kf5 80.Bd3+ Ke5 81.Nh2 Bf5 82.Be2 Ke4 83.Nxg4 b5 84.Bf3+ Kd3 85.Ne5+ Kc3 86.g4 Bh7 87.Bd5 Ba3 88.g5 Bc2 89.Nd7 Be7 90.Nf6 b4 91.Ne4+ Bxe4 ½–½

 

中盤のねじり合いからエンディングに進み、白の野口さんがB+Nで、黒はB+B、二枚ビショップの威力を頼りに防御線を突破しようとするルドルフさんと、がっちり受け止める野口さんのやり取りは、そばで観戦していて見応えがありました。ルドルフさんが一手指すたびに「なるほど!こうやって手を作るのか!」と私は感心し、しかしよく見直すと「だけど、その先をどうやって勝つの?」と首をかしげていると、野口さんが迎え討って押し戻し、「そうだよね。これはドローだろう」と思うと、すかさずルドルフさんの二の矢、三の矢が飛んで来ます。勝利を目指すWGM の執念がビンビン伝わりました。結局、80手まで書ける棋譜用紙一枚では足りず、二枚目に達し、250面のボードが並ぶ会場で文字通り最後の一試合となる大熱戦となりました。

 

局後、野口さんは「この局面はドローだろうと思っていても、読んでいない指し手が来ると、ドキッとしますよねぇ。」としみじみ感想を披露してくれました。「でも、受け切れたので、自信になりました」とも。プレイヤーとして大きな財産を得たゲームだったようです。観戦者にとっても至福の時間でした。



                                                           Photo by Nakamura Naohiro
 

昨日までは加速スイス式でしたが、この第8ラウンドから単純スイス式になったため、対戦者のレイティング差が大きい組み合わせが続出します。南條さんの相手は1751、中村(尚)さんの相手は1479でした。勝ったお二人にとっては事実上の「休憩日」でした。

 

篠田さんの相手はマルタさん。苗字は・・・読めません(泣)。Prezezdzidecka, Marta (2250)さん、ポーランドのWGMです。白番で1.d41.c41.Nf3とを使い分ける人なので、黒番の篠田さんはヘッジホッグ(ハリネズミ)を採用することにしました。昨年のカペルで知り合ったフランス人のIMペイアンさんが、昼食を一緒に食べながらヘッジホッグの戦い方を教えてくれたそうです。また、今年のカペルで知り合ったドイツ人のIMスプリンガーさんからは「女性プレイヤーはエンドゲームがヘタなことが多いから、エンドゲームに持ち込め」とのアドバイスをもらって、いざ、出陣です。

 

「準備はしていましたが、実はヘッジホッグを指すのはこの試合が初めてだったのです。普段よりも少し長くオープニングに時間を掛けてしまいましたが、形は上手く作れていたと思います。また、少しでも長く集中して試合に向かうため、この試合ではトイレ以外にはほとんど席を立ちませんでした。」

「お互い明らかにオーバーペースで時間を使い、時間追加である40手になるだいぶ前、25手目頃には既に全然時間がありませんでした。両者の時間が無くなるのとは裏腹に、どんどん局面はシャープになっていきました。相手のミスにも助けられ、割といい感じに試合を運べていたと思います。時間が追加される直前までこちらの良くなる手がありましたが、結局、残り1分のチェスで自分の力ではそれを見付けられませんでした。判断を誤り、時間が追加された時には既に遅し。そのまま負けてしまいました。」

「オープニングの時点でもっと時間を節約できていたら・・・と思う心もありますが、しかしこの試合の時の経験不足な自分では、あれよりも短時間でこの試合を作ることは出来なかっただろうと感じています。経験不足やタイムトラブルでの弱さを痛感しましたが、一方で自分も十分このレベルの相手に戦える、という自信を密かに付けた一局ではありました。結果は残念でしたが、内容は決して悪いものではなかったと思います。」(篠田さん談)

 

WGMに善戦した篠田さん。貴重な経験を積んだようです。

 

そしていよいよ明日は最終日。ここまで色々なことがあったカペル2012でしたが、果たして日本人選手団は「終わり良ければ、すべて良し」となるのでしょうか?[続く]


来週末

4/21()のチェックメイトラウンジはS席で観戦、4/22()の同時対局には参戦します。


大阪春の陣2012 -レポート-



先日の大阪選手権を簡単に振り返ります。まずは結果から。

 

1R 高槻さん(1578 0-1 馬場(2222 Sicilian Najdorf

2R 馬場(2222 1-0 大竹さん(1774 French Classical

3R 水本さん(1890 0-1 馬場(2222 Grunfeld 4.Bf4

4R 馬場(2222 ½–½ 平尾くん(1770 Scandinavian

5R 鵜飼さん(2062 0-1 馬場(2222 English-Grunfeld

 

結局4.5P/5Rで首位でした。全国選手権の権利を獲得したのは4Rで私と引き分けた平尾くんで4P/5Rでした。

 

Baba Masahiro (2222)

Hirao Satoshi (1770)

Osaka 2012(4)

 

1.e4 d5 2.exd5 Qxd5 3.Nc3 Qa5 4.d4 c6 5.Nf3 Nf6 6.Bc4 Bg4 7.h3 Bh5 8.g4 Bg6 9.Ne5 Nbd7 10.Nxg6 hxg6 11.g5 Ne4 12.Qf3 Nxg5? [これには驚きました。私が考えていたのは12...Nd6のみです。] 13.Bxg5 Qxg5 14.Bxf7+ Kd8




15.Qe4?
[15.Ne4 Qf5 16.Qxf5 gxf5 17.Ng5±で白が良いのは分かっていましたが、黒のダブルポーンを解消したくありませんでした。いろいろ考えた挙句、このおかしな手が出てきました。] 15...Rh4! 16.Qe3? [16.Qxg6 Qxg6 17.Bxg6 Rxd4とするしかなかったでしょう。] 16...Qf6! [f7d4のダブルアタックを全く見ていませんでした。この簡単な見落としに愕然としますが、黒のキングサイドのポーンの形が悪くf8のビショップが眠ったままなので、たとえd4を落としても白には十分なコンペンセーションがあると判断しました。] 17.Be6 Rxd4 18.Rd1 Rxd1+ [18...Rd6!?] 19.Kxd1 Nc5 20.Qxc5! [20.Bg4 e5!]




20...Qxe6
[正しいチョイスです。ここで20...Qf3+でルークを取りにいくと、21.Kd2 Qxh1 22.Qd4+ Kc7 23.Qf4+! Kb6 24.Na4+ Ka6 25.Qc7で白のアタックが先に決まります!] 21.Kc1 b6 22.Qd4+ Kc7 23.Rd1 Qxh3 24.Kb1 Qf5 25.f4 g5 26.fxg5 e5 27.Qc4 [白にはNd5(b5)+Rf1-Rf7+など複数の有力な筋があり、この時点で黒にディフェンスはないだろうと考えていました。] 27...Kb7 28.Rf1 Qc8? 29.Rf7+ Kb8 30.Ne4 a6




31.Qc3?!
[ストレートな勝ちは、31.Qf1! Bb4 32.c3+-です。いくら時間切迫とは言え、この簡単な手筋が見えなかったことが残念です。以下、白にアドヴァンテージは残るものの勝ちにはつながらず。] 31...Ra7 32.Qxe5+ Ka8 33.Rxa7+ Kxa7 34.g6 Qd8 35.Kc1 Kb7 36.c4? Qc7 [36...Qd3!] 37.Qf5 Qe7 38.Kc2 a5 39.b3 Qa3 40.Qd7+ Ka6 41.Qc8+ Ka7 42.Qd7+ Ka6 43.Nc3 Qd6 44.Qxd6 Bxd6 45.Kd3 Be5 46.Ne2 a4 47.Ke4 axb3 48.axb3 Bb2 49.Nd4 Kb7 50.Ne6 Kc8 51.Kf5 Kd7 52.Nf4 Kd6 53.Nd3 Bc3 54.Nf2 Bd4 55.Ne4+ Ke7 56.Ng5 Kd6 57.b4 b5 58.Nf7+ Ke7 59.cxb5 cxb5 60.Ne5 Bc3 61.Nd3? [61.Nc6+ Kd6 62.Na7 Bxb4 63.Nxb5+=] 61...Kd6 ½–½

 

3550分+10分という持ち時間は初めてでした。各ラウンドが2時間以内に終わるため、3Rある2日目も11:00から試合開始と、ゆったりしていました。今回はなんばを拠点に、空き時間は通天閣〜天王寺〜大阪城を散策。前回、梅田〜心斎橋付近を観光したため、これで大阪の名所はだいたい見て回ったかなと勝手に思っています。

 

大阪遠征、楽しかったです。また行きます!




Cappelle la Grande 2012 -Round 7-

WRITTEN BY

Kanda Daigo

 

プレゼント、あれこれ38日(木)、第7ラウンド]

38日(木)の試合直前、篠田さんがちょっと嬉しいハプニングに見舞われました。

 

彼にとって前日の勝利は、実は余り気分の良くない勝ちでした。勝勢の局面で相手が考え込んだので、気分転換に会場のあちこちを見学してから席に戻って来てみると、相手がいない。そうか、もう指してどっかに行ったのか、と思って自分も考え始めると、「あれっ?」、ナイトが一枚足りない!あるはずの所に、無い!困惑した篠田さん、慌ててアービターを呼び、事情を説明している所へ相手が戻って来て、リザインの意思表示。なんだよ、それ・・・気付かなければ、誤魔化そうとしたのか?

 

白星が付いたけれどもすっきりしない、もやもやした一日を過ごした篠田さんでしたが、翌8日(木)の試合前、その問題の人物が近寄って来て「昨日はごめんなさい。これはお詫びの印です」と言って、ワインを一本くれました!

 

一方的な負けゲームで頭に血が上ったおじちゃん、つい魔が差してしまったけれど、一晩寝て冷静になってみれば深く反省したのでしょう。中国の格言に「過ちて改めざる。これを過ちと言う」があります。過ちを何とか償おうとした努力に免じて、前回のレポートでは敢えて「紳士」と書いた次第です。

 

気分がすっきり晴れた篠田さん、この日の相手はルフィニャックRouffignac, Marie(1657)さんです。私が第5ラウンドで負けかかり、辛くもドローにした相手を、篠田さんは全く寄せ付けずに完勝しました。これで勝率五割に到達!

 

南條さんはル・パップLE PAPE, Valery (1987)さんに楽勝。格下相手とのゲームが続くので、連勝したとは言え、南條さんはやや欲求不満気味の様子でした。ちなみに、この人の苗字を翻訳すると「法王」です。スゴイ名前ですね!

 

野口さんはブルガリアのGMジャネフJanev, Evgeni (2484)さんと対戦。以下の図は、戦いが始まる直前の局面です。


 

                Position after 17...Qd8-e7

 

ここから白のジャネフさんは18.d4 cxd4 19.f4と強引に中央をこじ開けて来ました。eファイルが開けば、ルークが黒クイーンを縦ピンするのでd5のナイトを落とせる。そこに賭けた、思い切った手です。狙いを看破した野口さんは19...Rbd8と一歩も引かずに強く応戦します。続く20.fxe5に対し、20...Ne3を効かせれば黒が優勢となったようですが、実戦では20...Bxe5と単に取ったため、白のパンチ21.Rxe5が炸裂します。以下、盤上のあちこちで駒がぶつかり合う激戦となりました。全棋譜がhttp://www.chessgames.com/perl/chessgame?gid=1659707に掲載されています。

 

22...Rxd6 ?が間違いで、白が主導権を取りました。代えて22...d3なら黒のセンターが厚く、黒優勢だったと思います。また、25.c4 ?もおかしく、25...Rd7 !なら黒優勢です。試合中は全く気付かず、ノータイムで25...Nxc4とやってしまいました。」(野口さん談)

 

この一局、GMの底力を感じた所はどこでした?の問いに対し、野口さんは「特にありません」とキッパリ答えてくれました。「3.g315分使い、18.d4のところでは残り27分と、Janevは無理をして勝ちに来ている印象があります。レート400以上差があるので、なめてしまうのはしょうがないですね。無理をとがめられなかったところに敗因がありました。GMIMといっても間違えないわけではなく、日本人が彼らを神聖視してしまう傾向が弱まればいいのに、と思っています。」と、ゲームを静かに振り返ってくれました。

 

中村(尚)さんはフランスのIM SIMON, Olivier (2323)さんと対戦しました。「Caro-Kann Advance Short Variationになりました。複雑なミドルゲームで、1ポーンを切ってアタッキングチャンスをつくりました。攻めが決まったと勘違いして勝ちにいったら、やや読みにくいタクティクスのカウンターを食らって負け。正確に指していれば強制ドローでした。悔しい試合のひとつです。」

 

最後に私です。昨日まで連日、四苦八苦する姿を哀れに思ってくれたか、チェスの女神様が「プレゼント」をくれました。13手目で相手のルークをタダ取りです。いくら調子の悪い私でも、さすがにこれは勝てます。ちょっと拍子抜けする不思議なゲームでしたが、でもとにかく勝ちは勝ちで、この結果、今大会で初めて勝率五割に到達。喜びのあまり、会場でまだ戦いを繰り広げている日本人の同僚たちを見捨て(ごめんなさい!)、バスに飛び乗りダンケルクに戻った私は、町で一番と評判のケーキ屋さんでケーキを買い込み、部屋で一人、祝杯ならぬ祝ケーキをしたのでありました(笑)。

 

翌日、もっとビッグな「プレゼント」が贈られることを、この時の私は未だ知りませんでした。

(続く)


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