Cappelle la Grande 2012 -Round 5 & 6-

WRITTEN BY

Kanda Daigo

 

南條遼介vsゼレビュークY.36日(火)、第5ラウンド]

この日は、何と言っても55番ボードが最大の話題でした。南條さんがウクライナのスーパーGMゼレビュークZherebukh, Yaroslav(2642)と対戦です。

 

一昨年のカペル2009の優勝者(!)であり、昨年9月のワールドカップ・ハンティ=マンシスク大会にて、一回戦でエリアノフ(2697)を退けたばかりか、三回戦最大の番狂わせ、「18歳のゼレビュークが、世界王座挑戦者決定戦に出場したマメジャロフに勝った」を演じて一躍世界の注目を集めた棋士です。

出典:<World Cup R3 Tiebreaks: Navara wins, and Mamedyarov falls to Zherebukh>

http://www.chessbase.com/newsdetail.asp?newsid=7510

 

過去に日本人選手が国際大会で対戦したプロ棋士の中でも屈指の“大物”ですが、南條さんは堂々と渡り合います。黒番ゼレビュークのダッチ防御に対してシャープな攻撃ラインを選び、主導権をずっと握り続けた末に指した27.Rd4、「試合中はこれで決まったと思っていましたが、読み抜けがあり」、57手で投了。最後は残念な結果となりましたが、観戦者が周囲をぐるりと取り囲み、固唾を呑んで見守る大熱戦でした。詳しい解説はこちらです。http://chessplayer.jugem.jp/?eid=746

 

 

篠田さんの相手はドュヴェルヌDuverne, Jean-Marie(2144)さん。中年のフランス男性です。序盤で間違えて非勢となり、頑張ってだいぶ盛り返したけれど、「基本は勝ちが無い、ドローを目指すだけの疲れるゲーム」となったあげく、終盤で手番が回って来たから負けになるという、「まるでエンドゲームのスタディのような面白い局面」となってリザインしたそうです。結果は残念でしたが、でも試合内容は濃く、次に期待が膨らみます。

 

野口さんの相手はラフィーユLafeuille, Bernard(1870)さん。「木の葉」という面白い苗字です。腕に覚えのある地元フランス人を、しかし野口さん、軽く一蹴しました。いよいよエンジン全開です!

 

中村(尚)さんの相手はフェレイラFerreira, Jorge Viterbo(2339)さん。ポルトガルのFMです。第3ラウンドの対ガラ戦と全く同じ戦型となり、相手が一手一手に時間を使いながら、考えながら指したのに対し、中村(尚)さんは「序盤からサクサクと指せました」。そのため一時は持ち時間に40分以上も差がついたようですが、「中盤以降、勝ちに行くための方法が分かりませんでした。とりあえず負けないような堅い駒組みをしていたら、駒の交換が進んでしまい、けっきょく白黒ともに手が作りにくい閉じた局面になったので、ドローに落ち着きました」。指し方の分からない難局を、しかし負けない。中村(尚)さんの実力を示す一局でした。

 

私の相手はフランスの13歳のお嬢さん、ルフィニャックRouffignac, Marie (1657)さんでした。U12のフランス選手権に二回(2009,2010)出場したりしていますので実戦経験は豊富そうですが、どうやらあまり定跡には明るくないようで、シシリアン防御から黒の私が難なく主導権を取りました。正直に言って、「やはりまだ若いな。1657の子なんだな」と思ってしまいましたが、その楽観が災いの元でして、「ここが決め所」と思って踏み込んだ手が実は大悪手で、たちまち白の全軍が躍動し、私のキングに殺到して来ました。敗色濃厚でしたが、最終盤でルフィニャックさんが間違えたため、かろうじて首の皮一枚つながってドローとなりました。

 

しかしそれにしても、「なんで一手であんなに悪くなるんだ?」と腑に落ちなかったので、宿舎に戻ってからFritz君に局面解析をお願いしましたら、なんと「白が指しやすい」(0.64 by Fritz)とおっしゃる。あらま。冷静な目でもう一度、じっくり局面を見直すと、なるほど、と一応うなずけました。均衡した局面で“決めに出た”のが暴発だったわけです。実戦では「盤面を見て考える」のが肝心で、相手のレーティングなど、他の要素を考慮に入れるのは禁物だと改めて思い知りました。いい勉強になった(はずの)ゲームでした。

 

野口、2382FMを撃破37日(水)、第6ラウンド]

大会六日目の第6ラウンドは、日本選手団にとって最高の一日となりました。5人で41分の4.5ポイントを取ったのです!

 

特に素晴らしかったのが野口さんです。フランスの39歳のFMカリストリCalistri, Tristan(2382)さんと対戦。66番ボードなので、日本選手のこの日の最高位です。ゲームは野口さんお得意の、フィアンケットした総力戦となりました。駒と駒があちこちで複雑にぶつかり合う中、27手目にルークを切り飛ばしました。盤面の緊張が一気に高まり、断崖絶壁の綱渡りです。将棋解説でよく言われる「一手指した方が優勢に見える」難解な局面で、野口さんは二回目のサクリファイスを敢行!四時間を超える激戦をついに制して勝ち名乗りを挙げました!!ルークを切ってビショップを取る交換損が一局に二回ある試合なんて、私は見たことがありません。「これまで勝った相手の中で一番レーティングが高かった」そうで、自己ベストを更新するというおまけつきの大金星でした。馬場さんの総括「Fantastic Noguchi-san!!」はまさに至言です。http://chessplayer.jugem.jp/?eid=747

 

 

南條さんの相手はマルツェフMaltsev, Leonid(1907)さん。二日目に私が注目したウクライナの少年です。下位の相手には危なげなく勝ちを重ねる強い少年も、好調の南條さんが相手ではひとたまりもありません。「今日は“仕事した”気はしません」という楽勝でした。

 

篠田さんは銀髪のフランス「紳士」(1682)を“秒殺”しました!対局開始してから一時間ほどたった頃に見学に行ったら、もう盤と駒が片付けられていたので驚きました。時間にたっぷり余裕ができたお蔭で「今日は強い人たちのゲームをゆっくり観戦できました」と語る篠田さん、ひたむきにチェスに打ち込む姿はとても頼もしく、これからますます強くなる人でしょう。(ちなみに、なぜ相手が「紳士」なのかは、明日のレポート参照)

 

私の対戦相手はフランスの中年男性モーパンMaupin, Gervais(1731)さんでしたが、篠田さんとは対照的に、冷や汗をかかされました。序盤から主導権を取ったものの、思い切って踏み込んだ手がまたもや悪手。まったく、バカにつける薬はありません(泣)。1ポーン損に加えて相手の猛攻撃を食らいましたが、懸命に踏んばっている内に相手がミスを重ね、ビショップ対ナイトのエンディングに突入。74手で辛くも逆転勝ちしました。もしも負けようものなら日本選手団最高の日に水を差す羽目となり、いわゆる“日本に帰れない”身となる所でした。危なかった・・・

 

中村(尚)さんはウクライナの32歳、ゾズリアZozulia, Anna(2342)さんとドロー。日本人選手五人の中で「そうかぁ、俺だけドローかぁ」ととても残念がっていましたが、相手はWGMですよ!こんな相手とドローにしたのが“悔しい”と言うんですから、今大会の彼がいかに高いレベルで指しているかを如実に示します。ゲームは「準備通りのKing’s Indian Fianchettoに持っていくことが出来ましたが、相手のうまい指しまわしで、() Q+R+B+B (相手)Q+R+R+2P のやや不利なエンドゲームに突入しました。しかしダブルビショップが予想以上に堅く、カウンターチャンスを見せることが出来たため、ドローになりました。」

 

試合後、会場に併設された食堂で夕食が供され、大会ボランティアのおじさん、おばさんがいつも甲斐甲斐しく給仕してくれます(フランス式にスープ、メイン、デザートを順番にテーブルに出す方式)。選手の顔色とか雰囲気からその日の結果が分かるんでしょうか、今日は特に冗談とか、あれこれ話しかけて来る気がしました。特に篠田さんは「飲むとすぐに顔が真っ赤になるカワイイ坊や」として、おばさんたちのアイドルになってました!

 

こうして日本人五人は意気揚々と宿舎のホテルに引き揚げました。大会も残りわずか3試合。さぁ、もうひと頑張り!

[六日目に続く]

 

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ミニコラム:永遠のヒーロー

 

カペル・ラ・グランドのようなビッグな大会に出る楽しみは、自分が試合することに加え、これまで雑誌の顔写真でしか見たことの無かったプロ棋士を生で見られることです。将棋に例えれば、大会に出たアマ初段が自分の試合中にふと顔を上げると、向こうの方で瀬川四段vs田丸八段、先崎八段vs畠山七段の竜王戦が行われている、という感じでしょう。いくらボードが遠く離れているとは言え、プロと同じ屋根の下で盤を並べて試合するなんて、アマチュアにとっては夢のような体験です。

 

チェスを始めてから30年このかた、シシリアン定跡の黒番ではシュヴェシニコフ変化(B33)を愛用して来た私にとって、ラトヴィアのシュヴェシニコフGMは永遠のヒーローです。1950年生まれなので御年62歳。最近のカペル大会の写真で見つけて注目していましたが、今回、初めてご本人を拝見。「この人なんだ・・・とうとう会えた・・・」と、間近で見詰める私の眼には星がキラキラ輝いていたはずです(笑)。

 

初日の第1ラウンドが開始してから四時間近くたった頃、そのシュヴェシニコフGMが対局場で(周囲のゲームがもう終わっていることもあり)小声で局後の検討をしていましたので、見に行きました。対戦相手の女性が節目の局面を一つずつ、最終盤から中盤へとさかのぼりながら変化手順を丹念に調べて行き、シュヴェシニコフGMもそれにいつまでも付き合います。

 

後で結果表を見てビックリ。相手の28歳のお嬢さんが勝っていました!WIMのドルハノヴァDolukhanova, Evgeniyaさんでした。2009年のウクライナ女子チャンピオンで、昨年アルメニアに移籍した人です。いくら初戦には番狂わせが多いからって、よりによって・・・と私はとても口惜しかったのですが、日本人が敵討ちしてくれました。最終日の第9ラウンドで中村(尚)さんがドルハノヴァさんを破ったのです GMに勝った人に勝った!!

 

余談ですが、シュヴェシニコフさんの名前はEvgeny、ドルハノヴァさんはEvgeniyaなので、同名です。日本語で言えば「正男vs正子」の勝負でした。

 

参考:ドルハノヴァさんのプロフィル

http://ratings.fide.com/card.phtml?event=14112035

アルメニアへの移籍を報じる記事

http://www.chessdom.com/gm-dragan-solak-and-wgm-evgeniya-doluhanova-change-federations/


大阪春の陣2012



明日から
2日間は、大阪選手権に出場するため、いざ大阪へ。

人生初の大阪から早5ヶ月。今度はプレーで大阪を訪れます。

 

会場はアンパッサンチェスクラブ。全5Rで、初日は15:00から、2日目は11:00からと、温めなスケジュールも実は魅力的。

 

とりあえず、久しぶりの2連休を有意義に使ってこようと思います。


GM Chernin@日仏学院(3/28)



3/28
(水)、飯田橋の日仏学院にて、GM Cherninがゲスト15名と同時対局を行います。以下、主催者のピノーさんより頂いたイベントの詳細です。

 

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日時 2012328日(水)14:00

会場 日仏学院 2階廊下部

ゲスト:

日本チャンピオンクラスのテーブル

権田、小島、竹本、南條、中村(龍)、塩見、岩崎、桑田、井上(敬称略) 9

ゲストのテーブル

ギリシャ大使Tsamados、ベルギー公使Verheyden、詩人 松浦寿輝氏、慶應大学 小沢教授、北尾まどか女流初段、Richard Sams 6

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同時対局の後、日仏学院院長Jean-Jacques Garnier氏、GM Chernin、森内俊之名人の3名が、このチェス&将棋の文化交流のイベントについてインタビューを受けます。

 

また、このイベントの後の19時〜21時にはチェス&将棋クラブがあります。GM Cherninに直接チェスの質問をできますし、もしかする1局指してくれるかも!

 

滅多にないチャンス、しかも参加費無料なので、チェスファンの皆さん、是非、足をお運びください!


Cappelle la Grande 2012 -Round 3 & 4-

WRITTEN BY

Kanda Daigo

 

中村(尚)、IMを倒す35日(月)]

春うららの穏やかな陽気が続いていたフランスでしたが、35日は一転して冬に逆戻り。朝から冷たい雨が降り続く、あいにくの天気となりました。夜のテレビニュースによれば、北フランスの各地で大雪となり、送電線が雪の重みで切れて8000世帯の家庭で停電したり、駅構内に止まったままの列車の中で夜を明かす乗客がいたりと、大混乱の一日でした。

 

私にとっては、涙雨の一日でした・・・

 

この35日(月)だけは午前9時に第3ラウンド、午後2時から第4ラウンドと、一日に二試合が組まれています。

 

午前の私の相手はPace, Colin(2149)さん。ペースとお読みしていいのでしょうか。マルタ共和国の人です。1979年生まれの33歳。数えで17歳だったエレヴァン(1996)を皮切りに、エリスタ(1998)、ブレッド(2002)、カルヴィア(2004)、トリノ(2006)、ドレスデン(2008)、ハンティ=マンシスク(2010)と合計7回もオリンピアードに出場している“郷土の英雄”でした。シシリアンで黒の私が中盤以降、いい感じで攻め始めましたが、そこから先が難しく、仕舞いには息切れして38手で投了。局後の検討では、私の攻撃を「interestingだがrisky。たぶん受け切れると思った」と評してくれました。こういった“太刀先の見切り”が実力の差です。納得の負けでした。

 

午後の第4ラウンドがひどかったです。相手はボナルBonnal, Louis(1670)さん。50歳くらいのフランス人でした。18手目で中央にパスポーンを作ったまでは良かったのですが、そこから暴走し、空中分解して31手でリザイン。終局時点の私の残り時間は2分でしたが、ボナルさんは70分、つまり20分しか使ってません。完全に独り相撲でした(泣)。

 

日本人の他の四人は、悲喜こもごも。

 

南條さんは、午前の第3ラウンドでは49番ボードでウクライナのGMシュナイデルShneider, Aleksandr(2529)さんに惜敗。「途中までは今大会のベストゲームでしたけど、後半は全然でした」と控えめに総括してくれましたが、12のボードが並ぶ長テーブルで最後まで残る一局となり、他のGMやらIMらが何人も観戦する熱戦でした。詳しい解説が当ブログ(http://chessplayer.jugem.jp/?eid=745に掲載されています。気を取り直して臨んだ午後は1949の相手に「ちょっとヒヤリとする局面もありましたが」、終わってみれば大差の勝利。その結果・・・(明日のレポートに続く)

 

篠田さんは午前の第3ラウンドでは1814の相手を一蹴して初勝利。「勝ったお祝いをしたくて」、会場内のカフェで山盛りのフライドポテトを平らげます。この後がまだ昼食なのに、大丈夫なのか?(笑)。午後はオランダの19歳、ブクマBeukema, Stefan(2263)さんに負けてしまいました。「中盤の大事な所で自分に読み落としがあったせいですけど、まあ、とにかく相手が強かったです」としみじみ語ってくれました。悔しいけれど実力差も感じて、ある程度は納得の敗戦だったようです。

 

野口さんは午前は77番ボードに座り、ポーランドのIMピエニアゼクPieniazek, Arthur(2368)さんと互角以上の勝負を繰り広げました。終盤、互いに持ち時間の残りが5分か6分という局面で「向こうからドロー・オファーされ」、確かにこの局面は勝てないよな、ということで引き分け。両者合意のドローですが、IMが相手ですから野口さんにとっては胸を張れる結果でしょう。午後の相手はボリッチ Boric, Elena(2315)さん。BIHと表示されているのでどこの国かと思ったら、ボスニア・ヘルツェゴビナでした。ChessBaseにはゲームが一局も載っていない人(!)ですが、WIMです。こんな人が埋もれているのですから、東欧のチェス層の厚みは想像を絶します。ゲームは「形勢はずっと自分が良かったけれど、残り5分で“暴発”して負けた」そうで、野口さんには悔しい結果となってしまいました。

 

そして、本日一番のハイライトが中村(尚)さんでした。第3ラウンドは83番ボードで、ハンガリーのIMガラGara, Anita(2341)さんと対決。女性ですが、男性のIMノルマを達成した歴戦の強者です。カロカン防御のAdvancedライン。黒の3...Bf5に対し「マイナーな4.Nd2を指して来る人のようなので、準備した」そうで、事前の備えも万全なら、中盤の難所で「盤上で考えて指した手が、どうやら新手らしい」と、常日頃からの精進の成果を十二分に発揮してIMを圧倒。最後は2ポーン得のルーク・エンディングになって完勝しました。拍手、拍手! 棋譜が慶応大学チェスクラブのHP(http://keiochess.blog130.fc2.com/36日付けページ)に載っていますので、是非皆さんも盤面に並べてみてください。午後は48番ボードに躍進し、ハンガリーのGMホルヴァットHorvath, Adam(2487)と対戦。結果は残念ながら負けでしたが、「15手目の時点でお互いに残り時間が20分弱」という難解な勝負で、複雑に絡み合う駒を「結局、うまく捌かれてしまった」と、GMの底力を肌で感じる貴重な経験となったようです。

 

かくして波瀾の三日目が終了。気分を入れ替えて、また明日!

[四日目に続く]

 

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ミニコラム:人さまざま

 

今年のカペル、なにしろ参加者が500人近くですから、色々な人がいます。

 

「ひと月に一回はスシを食べる」と言う親日家で、会場行きのバスを待っている時に人なつっこく話しかけて来たフランスのIM、パイアンPayen, Arnaud 2336さん。また、遠くから眺めていただけで会話はしてませんが、お笑いタレントのようなひょうきんな肥満体形で、試合前の昼食時にいつもワインを一本あけていた(!)ロシアのGM、ナウムキンNaumkin, Igor 2452さんら、皆さんとても個性豊かです。

 

中でもひときわ目を引く人が、同じホテルに泊まっていました。中国なら仙人、西洋人だから魔法使いみたいな、眼光鋭い痩身白髪のお爺さんです。盤上のネームプレートをのぞいたら、ホワイトレーWhiteley, Andrew J.(2280)さんでした。1947年生まれの、65歳のイギリス人です。現在のレーティングは高くないですが、列記としたIMです。70年代には2400近くありました。チェスは本当に長く楽しめるスポーツなんだなぁ、と実感しました。


百傑戦2012 -Habu Yoshiharu-

今年の百傑戦には将棋プロの羽生さんが出場。関係者には事前に情報が回っていたため、羽生さん目当てで参加する人も多かったようです。

 

結果は羽生さんが5.5P/6Rで優勝。最終ラウンドで羽生-小島戦が実現しましたが、小島くんがややパッシブに指したこともあり、ビッグファイトになることなく、羽生さんの勝利に終わりました。なお、羽生さんから0.5Pを削ったのは先日のCappelleで活躍した中村尚広くんでした。彼もその試合までは良かったはずですが

 

今回、印象的だったR.5の三阪-羽生戦での検討の場面を。

 

 

                           Black to move

 

次にBxg7g3などのスレットがあります。黒はこれらのスレットにどう対処すればよいでしょうか?

 

1...Qc6!

 

一度ルークにクイーンを当て、ビショップを引くマスを作ります。

 

2.Rg5?!

 

ベストではありませんが、検討の筋ということで。ちなみに2.Rh5 Bb8 3.Bxg7? には3...Qg6! で白は駒損します。

 

2...Qh6!

 

g7への当たりを気にすることなく、メイトを狙います。この手が成立することを一瞬で読み切る羽生さんの力に感動。

 

3.Rxg7+ Kf8

 



4.g3
[4.Ba3+? Bd6+] 4...Bxg3+ 5.Kg2 Qh2+ 6.Kf3 Be5 7.Bxe5 Rxe5 8.Rg3 Rf5+ -+


Cappelle la Grande 2012 -Round 1 & 2-

神田さんよりCappelleのレポートが届きました。Cappelle参加者の視点からのレポートをお楽しみください。

 

WRITTEN BY

Kanda Daigo

 

201233日(土)から10(土)まで、北フランスの町カペル・ラ・グランドCappelle la Grandeでチェス大会が開催されました。今年で28回目となるこの大会、日本ではもうすっかりおなじみですが、今年初めて私(神田)も参加しました。見るもの、聞くもの、想像以上に素晴らしい七日間でした(仕事の関係で八日目は不戦)。日本人五人のゲームを中心に、大会の様子をレポートします。

[選手人名のカタカナ表記はフランス語リスト等からの類推ですので、原音とは異なる可能性があります。ご容赦ください。]

 

南條、GMからドローをもぎ取る[初日33日(土)]

「いきなりGMですかぁ・・・」

午後3時半。壁に張り出された第1ラウンドのペアリング表を見た南條さんはこうつぶやきました。

 

相手はメヒタリアンMekhitarian, Krikor Sevag(2512)さん。26歳のブラジルのGMです。苗字からしてアルメニア系でしょうか。2003年にブラジルの20歳以下の選手権で優勝。2006年からレーティングが急上昇しています。

 

南條さんの席は58番ボードです。聞きしに勝るカペル・ラ・グランド大会。上から58人目でもGMがいるのです!

 

初日早々からの試練。しかし南條さん、やりました! 15手の時点で互いに80分以上使ったので、そこからの25手を「残り時間78分で指しました」という際どい戦いの末に、見事にドローを勝ち取ったのです。危なげなく勝ちを収めた中村(尚)さんと共に、他の三人(痛恨のドローの野口さん、無念の逆転負けを喫した篠田さん、惨敗の神田)の溜飲を下げてくれました。拍手! 詳しいゲーム解説は当ブログ(http://chessplayer.jugem.jp/?eid=743をご覧ください。

 

戦い済んで日が暮れて、夜8時半から食堂で夕食です。食堂のテーブルには、ミネラルウォーターのボトルと並んでワインの瓶が無造作に置かれています。セルフサービスで好きなだけどうぞ、というのがフランスらしいところですが、今日の日本人選手団は122ドローですから、雰囲気は沈みがちです。皆、黙々とフォークを動かして食べました。

 

ちなみに食堂の入口にて、招待選手は顔写真入りのネームプレートを見せるだけの“顔パス”ですが、私は一食につき10ユーロ(約1100円)を登録時に払った、その領収書を係員に見せ、許可を得てから入室します。「招待選手」と「庶民」の違いです(笑)。

 

こうして初日の日本人五人はやや沈滞ムードで静かに宿舎へと帰ることになりました。

 

南條、またもGMからドロー獲得[二日目34日(日)]

大会二日目。私は前日の負けでボードが163番まで下がりました。一つ置いた165番が篠田さんですが、その間の164番に青と黄の二色の国旗が立っています。ウクライナじゃありませんか!

 

ネームプレートを見ると、マルチェフMaltsev, Leonid、レーティングは1907と書かれています。へええ、ウクライナ人でもこの程度の人がいるんだ。どんな人だろう?と待っていたら・・・子供でした。2000年生まれなので、今年やっと12歳になる坊やです。

http://ratings.fide.com/card.phtml?event=14116413

 

とても小柄で、見た目は小学校低学年にしか見えない可愛い少年ですが、MegaDatabase2012には172局も掲載されていて、公式戦歴はもういっぱしの大人です。地元フランスの中年のおじさん(1689)を相手に始まったゲームを横からちらちら見ていたら、黒番でダッチ防御のレニングラード変化を採用。私が愛用の定跡なので、ますます興味津々で見ていたら・・・17手で終わりました(驚)。それも、12手目くらいまで既成手順なので、定跡を外れて組み合ってからは、実質5手でノック・アウトです。ウクライナ人、恐るべし!

 

私の相手は若いフランス人のサン=ジルSaint-Gilles, Damienさん(1698)。苗字が「聖ジル」(7世紀後半に事績を残したキリスト教の聖人)という、ちょっと珍しいお名前です。2009年にフランスのU-20選手権に出場していました。データベースのゲームを調べると白番は全て1.d4 で、黒が1...Nf6 でも1...d5でも、どちらに対しても2.Nf33.Bf44.e3と組んでいます。ほう、これがお気に入りの駒組みなのね、と準備して臨みましたが、・・・いきなり1.f4ですよ。やれやれ。乱戦となって、終盤に形勢が二転三転する、いかにもスポーツという感じのゲームでしたが、何とか勝てました。

 

この第2ラウンド、南條さんはハンガリーのベルチェスBerczes, David (2544)さんと対戦。1990年生まれの青年で、未だ10代だった2008年にGMとなっています。そんな上り坂の強豪と南條さんは互角に渡り合い、時間切迫の局面で「互いにブランダーの応酬でした」(南條さん談)と謙遜して話してくれましたが、前日に続いてまたしてもGM相手にドロー獲得ですから、お見事です! 解説は当ブログ(http://chessplayer.jugem.jp/?eid=744を参照。

 

中村(尚)さんはドイツのFMワへディWahedi, Ahmad Siar (2290)さんと対戦しました。終盤、優勢のルーク・エンディングに持ち込みながら勝ち切れず、とても悔しそうでした。レーティングで300近い上位相手にドローですから決して悪い結果ではないのですが、それを「悔しい」と感じる。今年のカペルで彼が大活躍する予兆でした。

 

篠田さんはフランス人の1690のお嬢さんを相手に終始攻め続けましたが勝ち切れず、口惜しいドロー。初勝利は明日に持ち越しです。

 

そして、この日の“主役”は野口さんでした。ベルギーの1870の選手を攻守に圧倒しつつ、最短距離の勝ちを何度か逃したので、「ヒドかったなァ・・・ほんと、俺は弱いよなァ・・・いやんなるなァ」と夕食の席で愚痴を連発しますが、でも勝ったからご機嫌で、昨夜は頑として禁酒してましたが、今日は食堂のテーブルに座るなりワインのボトルを引き寄せ、最初のスープが出る前から、パンを肴にしてぐびぐび飲み始めます。「大丈夫ですか? ペース、速すぎませんか?」と心配する周囲の声を聞き流し、結局、一人でボトル一本あけました(笑)。

 

こうして大会二日目の日本人は23ドローで合計3.5ポイントを挙げて気分一新、大会はさぁ、ここからです。

[三日目に続く]

 

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ミニデータ:

今年のカペル大会の参加者は497人でした。国別の内訳は、

フランス:265人、ベルギー:39人、ドイツ:23人、ウクライナ:19人、ロシア:15人、ポーランド:13人、ハンガリー:10人、オランダ:10人。その次に多いのがイギリス、ブルガリア、ポルトガル、ブラジル、そして日本の5人です。海峡をはさんだ隣国のイギリスと、直行便でも11時間かかる日本が“引き分け”でした!


When Queen is completely powerless...

Facebookで見つけた小さな感動。

 

                    White to move and win

 

1.Bd8+ g5 2.Ba5! [Be1#] 2...Qe2 [黒クイーンはg2のポーンをピンにしながらBe1#を防がなければいけません。2...Qe4 3.g3#] 3.Bc7! [Bg3#] 3...Qf2 [3...g4 4.Bd8+] 4.Bd6!! [Zugzwang!! 4…g4には5.Be7+からメイトです。]

 


4…Qe1 5.g3+ Qxg3+ 6.Bxg3#
[Beautiful!]


Cappelle la Grande 2012 -Nanjo vs Bokros-

南條くんから最終ラウンドのゲームが届きました。最終ラウンドもとても面白いゲームを見せてくれた南條くんは2355のパフォーマンスで終了。あと1トーナメントでFMでしょう。

 

ANNOTATED BY

Nanjo Ryosuke

 

Nanjo,Ryosuke (2280)

Bokros,Alberto (2472,IM)

Cappelle la Grande 2012(9)

 

1.e4 g6

 

ここに来て初めてSicilianDutch以外の定跡になります。

 

2.d4 Bg7 3.Nc3 d6 4.f4 Nc6 5.d5

 

定跡は5.Nf35.Be3などがありますが、この手も悪くはないと思います。

 

5...Nd4 6.Be3 c5 7.dxc6 Nxc6 8.Nf3


 

 

形はSicilian Dragonに似たものになりました。白が有利かはわかりませんが、指せることは間違いありません。手順を活かすのであれば8.Be2からBe2-f3Ng1-e2と組むのもありだったかと思います。

 

8...Qa5 9.Qd2 Bg4 10.Be2 Bxc3!?

 

この後はダブルビショップ対ダブルナイトの戦いになります。白はポーンストラクチャーが崩れているので黒には十分代償がありそうですが、閉じていない局面のダブルビショップと開いたbファイルとgファイルの力は侮れません。

 

11.bxc3 Nf6 12.Bd3 Bxf3 13.gxf3 0–0 14.Kf2 Rac8 15.Rab1




b7
のポーンを当てると同時にRb5を狙います。b7のポーンを交換しては白のc3のポーンを抑えきれないので黒は退くしかありません。

 

15...Qc7 16.h4 Nh5 17.Rb5

 

キングサイドではRb5-g5Rb5xh5の狙いを作り、クイーンサイドではRh1-b1の狙いを作ります。ダブルポーンになった以上白はそれによって開いたオープンファイルを最大限に使わなければすぐにイニシアチブが黒に渡ってしまいます。

 

17...e5 18.f5 b6

 

ここまでのいずれかのタイミングでa7-a6?と黒がした場合、Be3-b6!でクイーンサイドを封じられてキングサイドで一方的な展開になったでしょう。この手によって黒はNc6-a5からQc7xc3の筋を可能にします。

 

19.Bh6 Rfe8 20.Qg5 Qe7?




20...Kh8
は必須でした。

 

21.Qxh5! gxh5 22.Rg1+ Kh8 23.Bg7+ Kg8 24.Bf6+

 

白勝勢ですが、時間が残りわずかだったので少しでも時間を増やすため、インクリメントに近づくため手数を稼ぎます。結果から見ればこれでも指す時間は足りなかったのですが・・・

 

24...Kf8 25.Bg7+ Kg8 26.Bxe5+ Kf8 27.Bg7+ Kg8 28.Bf6+ Kf8 29.Bg7+ Kg8 30.Bf6+ Kf8 31.Bxe7+ Kxe7




白は
1ポーンアップで、両サイドにポーンがある開いた局面でビショップ対ナイトのアドバンテージがあります。勝つには十分すぎるでしょう。

 

32.f4 Na5 33.f6+?

 

この後で白はセンターを伸ばすために必要なポーンが足りないことを痛感します。白のf5のポーンを黒のh5のポーンと交換することは指す前から違和感を感じていましたが、正しいプランがどうしても思い浮かびませんでした。33.Rg5h5のポーンをb5のルークではなくg1のルークで取りに行けば楽に勝てたでしょう。

 

33...Kxf6 34.Rxh5 Rh8 35.e5+ dxe5 36.fxe5+?

 

 

このポーンはf4にいれば安全でしたが、e5では黒のナイトの射程圏内に入ってしまいます。ここもできればルークで取りたかったのですが、読んでいた36.Rxe5では黒にイニシアチブを渡してしまうので指しませんでした。36.Rf5+! Ke7 37.Rxe5+と指すことができればまだ勝てたでしょう。

 

36...Ke7 37.Rg7 Rxc3 38.Rf5 Rf8 39.Rxh7 Nc6

 

これで黒はポーンを取り返すことができるのでドローです。

 

40.Ke3 Rc5 41.Ke4 Nb4 42.e6!? Nxd3 43.cxd3 Kxe6 44.Rh6+ f6 45.Rxc5 bxc5 46.Rh7 Rd8 47.Rxa7 ½–½

 



勝勢の局面を勝ち切ることはいつになっても難しいことですが、今大会では特に実感出来ました。


                                                           Photo by Nakamura Naohiro


Cappelle la Grande 2012 -最終ラウンド-

最終ラウンドが終了した様子です。尚広くんはWGM2269)に勝ち、南條くんはIM2472)とドローで5.5Pと大きく勝ち越し、フィニッシュ!

 

残りのメンバーの結果は入り次第、お伝えします。

 

P.S. 野口さんは負け、篠田くんは勝ち。皆さん、お疲れ様!


                       PAPP Petra 2296,HUN,WGM


Cappelle la Grande 2012 -Noguchi vs Calistri-

R.6では野口さんがフランスのFMに勝利。ゲームを送ってもらったので早速見てみました。並べている途中から野口さんの力強いプレーに魅せられました。

黒の
Calistriさんとは、私も2005年のCappelleで試合をしました。甘い笑顔がステキなお兄様で、私達のゲームの検討はさることながら、それまでのラウンドのゲームも見てもらい、色々と教わりました。自分の手を指すとすぐに席を離れてしまうので、試合中は「なめられているのかな」と思っていましたが、検討時に、「日本人のゲームを洗いざらい見てきたよ」と言われ、誰に対しても手を抜くことのないマスターの姿を見せられました。今でも強く印象に残っているプレーヤーの一人です。

 

Noguchi,Koji (2040)

Calistri,Tristan (2382,FM)

Cappelle la Grande 2012(6)

 

1.c4 g6 2.g3 Bg7 3.Bg2 d6 4.Nc3 Nf6 5.d3 0–0 6.Bg5 h6 7.Bd2 a6 8.e4 c5 9.Nge2 Nc6 10.0–0 Rb8 11.h3 Ne8 12.Be3 Nd4 13.Qd2 b5




14.cxb5
[h6のポーンは罠です。14.Bxh6? b4 15.Nxd4 bxc3 16.bxc3 cxd4] 14...axb5 15.Nd5 Nxe2+ 16.Qxe2 e6 17.Nf4 Qa5 18.Bd2 b4 19.a3! Qb5 [19...Bxb2 20.Bxb4! cxb4 21.Qxb2 b3 22.Rfc1は白を持ちたいところ] 20.axb4 cxb4 21.Ra7?! Bd4 [21...Bxb2だったらどうだったのでしょう?] 22.Ra2 Ba6 23.Rfa1 Nc7 24.Ra5 Qb6 25.R5a4 g5?! [キングの前を弱くするので、これは少しリスキーに見えます。] 26.Rxb4 Qc5




27.Rxd4!!
[強力なd4のビショップを消し去る思い切りのよいサクリファイスです!] 27...Qxd4 [27...gxf4? 28.Qg4+ Kh7 29.Qxf4 Qxd4 30.Qxh6+ Kg8 31.Bc3+-] 28.Bc3 Qc5 29.Ra5 Rb5 30.Qh5?! Kh7 [30...Rxa5 31.Qxh6 e5 32.Qxg5+ Kh7 33.Qh5+なら白にパペチュアル以上はないと思います。] 31.e5 d5




32.Rxa6!?
[本局2回目のエクスチェンジ・サクリファイス。正しいかどうかは別として、野口さんの一連の手には勢いが感じられます!] 32...Nxa6 33.d4 Qe7 34.Bf1 Rb6 35.Bd3+ Kg7 36.Qg4 Rh8 37.Nh5+ Kf8 38.Qe2! [Playing on the both sides!] 38...Nb4 39.Bb5 Na2 40.Ba5 Qb7?! 41.Bxb6 Qxb6




42.Nf6 Ke7 43.Nd7 Qa5
[43...Qxd4には44.Qf3!!で決まっています。] 44.Nc5 Rf8 45.Ba4 Qb4 46.Qa6 Rd8 47.Qa7+ [クイーンが相手陣に突入し、白に具体的な勝ちの筋が見えてきます。] 47...Kf8 48.Qc7 Ra8 49.Qd6+ Kg8 50.Qc6 Rf8 51.Nd7 Qe1+ 52.Kg2 Nc1 53.Nf6+! [黒の最後の狙いである、53.Nxf8 Qe4+ 54.Kh2 Qxd4!!からのパペチュアルの筋を消し去ります。] 53...Kg7 54.Qc2!




54...Rd8
[54...Rh8 と防ごうとすると、55.Nh5+ Kg8 56.Qc8+ Kh7 57.Bc2+でメイト一直線] 55.Qh7+ Kf8 56.Qxh6+ Ke7 57.Qxg5 Rf8 58.Nxd5# 1–0 [Fantastic Noguchi-san!!]





Calistriと局後の検討                                          Photo by Nakamura Naohiro


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