ゲームをたくさんすれば、たとえ相手がレイティング下位であっても必ず自分の局面が悪くなる場合があります。ジャパンリーグのR.6では、まさに自分がこの状況に陥りました。悪い状況下でいかに負けずにドローに逃げ切れるかは、レイティングを保つためにもトーナメントで生き残るためにも非常に重要です。今回解説するのは、首の皮一枚でドローに逃げ切ったゲームです。
□Uehara Shinpei (2016)
■Baba Masahiro (2237)
Japan League 2011(6)
1.e4 e5 2.Nf3 Nc6 3.Bb5 a6 4.Ba4 Nf6 5.0–0 Be7 6.Re1 b5 7.Bb3 d6 8.c3 0–0 9.h3 Na5 10.Bc2 c5 11.d4 Qc7 12.Nbd2 Nc6 13.d5 Nd8 14.Nf1 Ne8 15.Ng3 g6 16.Bh6 Ng7 17.Nh2 f6 18.a4 Rb8 19.b3 Nf7 20.Bd2 Bd7 21.axb5 axb5 22.Ng4 Qb7
ここまで白も黒も指す手に選択肢が少ないのでほとんどノータイムです。このルイロペス・チゴリンのややマイナーなラインは、黒の組み方が分かりやすく今まで何回か指していますが、手の可能性は乏しいのでおそらくこれから指すことはないと思います。
23.Qf3 Bxg4?
私はめったに自分からマイナー・エクスチェンジ(自分のビショップを相手のナイトと交換する)をすることはありませんが、この時は、23...Ng5 24.Bxg5 fxg5 25.Nh6+ Kh8 26.Nf7+ Kg8 27.Nh6+のパペチュアルのラインを嫌ってこの交換に行きました。しかし、f6を受ける手として23...Kh8!? という手があり、24.Nxf6? には24...Nd8 25.Bg5 Ne8でピンを利用してピースを落とせます。b5の弱いポーンを守るビショップを自ら手放すことにより、このあと黒は苦しくなります。
24.hxg4 Ra8 25.Qe2 Rfb8 26.Bd3 Ra6?
27.Rxa6なら27...Qxa6でaファイルを取り、ここを黒のカウンターの拠点としようと考えていましたが、次の1手でaファイルを制圧するのは白になります。
27.Qf1! (△28.Rxa6 Qxa6 29.Ra1) 27...Rxa1 28.Rxa1 Qd7 29.f3?!
これは白キング周りの黒マスを弱くするため、私だったら、堅く29.Qe2と指したいところです。
29...Bd8 30.Kh2
これで黒が何もアクションを起こさないと、Ra6-Qa1でaファイルから侵入され、黒がディフェンス一方になります。私はそういう戦い方は好きではないので、この手を見て自分からゲームを動かそうと決めました。具体的な思考としては、以下の通りです。
クイーンをh4に持っていってチェックすればg3のナイトを落とせる→そのためにはf6-f5としてQe7-h4のルートを開けなければならない→今、f5を突くと単純に駒が足りないのでf5に利いている白の駒を一つ減らしたい
次の1手は自ずと見えてきます。
30...c4!? 31.bxc4 bxc4 32.Bxc4
ポーンを1つ捨てることでg1-a7ダイアゴナルとbファイルを開き、クイーンサイドでディフェンスに徹していたルークとビショップにアクティビティーを与えました。次は予定通りキングサイドを開きます。
32...f5 33.gxf5 gxf5
ここで33...Qe7をしばらく考えましたが、34.Be1! Qh4+ 35.Kg1 Bb6+ 36.Bf2 Qxg3 37.Bxb6 Rxb6 38.Ra8+は白が良い形でピースを取り返せます。
34.Nxf5 Nxf5 35.exf5 Qxf5
36.Qd3 Qh5+ 37.Kg1 Qh4!
h4は黒クイーンのベスト・スクエアーだと思います。c4のビショップに当てておくのもポイントです。狙いは38...Bb6+ 39.Be3 Bxe3+ 40.Qxe3 Qxc4 -+
38.Be3 Ng5
ここでもスレットを作ります。狙いは39...Nxf3+ 40.gxf3 Qg3+
ゲーム中、本譜のナイト跳びしか考えていませんでしたが、今思えば38...Rb2! も強力です。
39.Bf2 Qf4 40.Qe2 Bb6 41.Bxb6 Rxb6 42.Qf2 Rb7 43.Bd3 Kg7 44.Kf1
30...c4!? で勝負に出て以降、私も上原くんもかなりベストな手の応酬をしています。このボードを見に来る多くのプレーヤー達は、優勢な上原くんがこのあとどう勝つか期待していたと思います。
44...h5 45.Ra6 Nf7 46.Qc2 h4?! 47.Ra4!
この手は完全に見落としていました。黒キングに危険が迫ります。
47...Qh2 48.Rg4+ Kf8 49.Qa2 Rb8
50.Bh7?!
自然な流れですが、次のディフェンスの1手がばっちりと決まります。おそらく白は50.Qa7! Qh1+ 51.Qg1! Qxg1+ 52.Kxg1 Rb3 53.Rc4±としてクイーン交換するのが最もアドヴァンテージがはっきりする形だったと思います。黒のh4のポーンが落とされるのは時間の問題です。
50...Nh6! 51.Rg6
51.Qa7? Qh1+ 52.Ke2 Rb2+はいきなり黒勝勢と逆転します。
51...Qf4 52.Qc2 h3
白キングのガードを崩します。このあと、黒にとってドローに十分なカウンターが入ります。
53.gxh3 Qxf3+ 54.Kg1 Rb7!
55.Rg2
55.Rxh6 に55...Qe3+?? とすると56.Qf2+! で失敗しますが、55...Rf7! とすれば白が危険です。ここまでスリリングなゲームを戦い、白黒これ以上ファイトする気は起きず、ゲームはパペチュアルでドローに落ち着きました。
56.Qg6 Qf1+ 57.Kh2 Qf4+ 58.Kh1 Qf1+ 59.Kh2 ½–½