WRITTEN BY
Shinoda Taro
今回はR5の解説です。R4まで勝ち星のなかった私と三村さんは、「今日こそ二人揃って勝とう」と誓い合って試合に臨みました。
□Shinoda Taro (1861,JPN)
■Duflou Andre (1626,FRA)
Cappelle la Grande 2011 (5)
1.d4 Nf6 2.c4 c5 3.d5 b5 4.cxb5 a6 5.b6
Benko Gambitはとても強力なオープニングです。5.bxa6でacceptすると、白は1ポーンのmaterial advantageを得ますが、セミオープンファイルとなったa,bファイルから黒のクイーンサイドアタックを受けることになります。
5…Qxb6 6.Nc3 d6 7.a4 g6 8.a5
ピースを展開したり、センターポーンを突いたりする前にaポーンをa5まで伸ばすのは不自然に見えますが、b6をポーンで抑えることには大きな意味があります。Modern Benoniのゲームでは、Nf3-d2-c4というmaneuveringは珍しくありません。c4のナイトはb6,d6,e5と非常に重要なマスを狙います。黒としてはナイトをc4に安定させたくないので、Nb6やNe5で交換しに行きます。a5にポーンを置くと、白のナイトがb6に入るサポートになるばかりでなく、黒のナイトをb6に跳ばせないようにすることが出来ます。
8…Qb7 9.e4 Bd7?
Bc8-d7-b5というmaneuveringはあり得ますが、この場合は機能しません。10.Nf3 Bb5? 11.Nxb5 axb5 12.Qb3 Nbd7(12…b4 13.a6 Qc7 14.Qa4+ Nbd7 15.Qc6 Qxc6 16.dxc6) 13.Qxb5 Qxb5 14.Bxb5 Nxe4でa5のパスポーンが非常に強力です。d7に行ったビショップは、その後に行くいいマスがないだけでなく、b8のナイトを邪魔してしまっています。
10.Nf3 Bg7 11.Be2 0–0 12.Nd2 Rc8?(ただの手損です) 13.Nc4 Rd8 14.Nb6 Ra7 15.0–0 Be8
白もキャスリングを終え、ピースはそれぞれいい位置にあると言えます。一方黒はピースの配置がちぐはぐですが、白がもたもたしていると改善出来てしまいます。こういう時は、いかにテンポ良く攻めるかが大切です。
16.Ra3!
Modern Benoniの試合ではよくある手です。c1のビショップを動かしづらい、動かすいい場所がない時に指されます。
16…Nbd7 17.Rb3 (17.Nc4! Ne5(17…Qc7 18.f4) 18.Nxe5 dxe5 19.f4) 17…Nxb6 18.Rxb6 Qc7 19.Bxa6 Nd7?
相手はほとんど時間を使わずにこの手を指して来ました。正直に言って、この時私は「今日は楽に勝てそうだ」と思いました。
20.Nb5 Qxb6 21.axb6 Rxa6
material balanceが崩れ、クイーンvs.ルーク+ピースになりました。白は、黒のピースが上手く連係出来ないように指さなくてはいけません。
22.Nc7 (22.Bd2! Nxb6 23.Nc7 Ra2 24.Nxe8 Rxe8 25.Bc3) 22…Rxb6 23.Nxe8 Rxe8 24.Qa4 Rb7 25.h3 Reb8
ここまで指して、どうやら簡単には勝てなさそうだと思い直しました。b2のポーンが落ちるとc5がパスポーンになります。重なったルーク、g7のビショップも非常に強力です。b2のポーンは守れないので、代わりに取り返せる何かを探します。
26.Bg5 Nf6 27.Rb1? (27.Bd2 Rxb2 28.Bc3 R2b3 29.Qa1がベスト) 27…h6?
27…Rb4 28.Qc2 Nxe4 29.Bxe7 Bd4で黒優勢です。
28.Bd2 Nd7?
28…Rxb2 29.Rxb2 Rxb2 30.Be3はslightly better for Whiteです。
29.b4
b2のポーンを落とさずに済ませることが出来ました。c5との交換であれば、白の望む展開です。
29…Kh7? 30.b5
問題児だったb2のポーンがパスポーンになりました。これで楽になるかと思いきや、難しい試合は続きます。
30…Nb6 31.Qa6 Nc4 32.Bc1 Ne5 33.b6 Bf6?
狙いがよく分かりません。Bf6-g5で換えに来るのかな?と思いました。
34.Bd2 Nd7 35.Ba5 Bd4
b6のパスポーンは強力ですが、これ以上進めるのは難しそうです。b2のポーンに悩まされ過ぎて、この時私の持ち時間はあまり残っていませんでした。あと5手指せば、30分の時間追加です。
36.Kf1 e6 37.dxe6 fxe6 38.Ke2?
黒に簡単にd6-d5と突かせてしまうと、反撃のチャンスを与えてしまいます。38.Qc4がベストです。
38…d5 39.exd5? (39.f4! dxe4 40.Qc4) 39…exd5 40.Qb5 Ne5
ここで持ち時間が30分追加されました。b6のパスポーンは依然強力ですが、黒もe5のナイトとd4のビショップがいい位置で、更にc5とd5にパスポーンを置いています。持ち時間は増えましたが、このポジションをどう改善すればいいか、私には分かりませんでした。
41.f4?!
e5のナイトを動かしに行きましたが、あまり良くありません。41.Bd2がベストのようです。以下41…Nc4 42.Qc6 Rxb6 43.Qc7+ Bg7 44.Qxb8 Rxb8 45.Rxb8 Nxd2 46.Kxd2と続きます。
41…Nc4 42.Qa6 Nd6 (42…Re7+ 43.Kd1! Ne3+ 44.Kc1) 43.Re1!
ナイトが外れたところでルークをオープンファイルに回します。不安定な黒のキングを脅かしに行きます。
43…Nc4 44.Kf3 Nxa5 45.Qxa5 Rxb6 46.Re7+ Kg8
47.Qa7と指すつもりでしたが、g7を押さえられているため機能しません。47…Rb3+ 48.Kg4 Bf6でequalizeされてしまいます。 必死にどうすべきか考えていたら、次の手を思い付きました。
47.Kg3?
h2に逃げられるように、と指しましたが、悪手でした。正解は47.Re8+! Rxe8 48.Qxb6です。これもまだまだ続きそうですね・・・。
47…Bg1?
47…Rb3+ 48.Kh2 Bf2で黒はドローに持ち込むことが出来ました。そしてこの瞬間、ようやく私は勝利を確信しました。
48.Qa7 Bd4 49.Rh7 Rb3+ 50.Kh2 Rf8 51.Rxh6 Rf7 52.Rxg6+ Bg7 53.Qa8+ Kh7 54.Rg4 Rd3 55.Qc6 Rf6 56.Qd7 Re3 57.Qxg7# 1–0
5時間に及ぶ熱戦でした。237番とかなり下位ボードでの試合でしたが、終わった時には何人かのギャラリーがいました。黒のクイーンがあっさりと行き場を失った時、こんな試合になるとは全く思っていませんでした。チェスで勝つというのは、何と大変なことだろうかと、心の底から思いました。それだけに、本当に嬉しかったです。それまでなかなか勝てなかったこともあって、涙が出るほど嬉しかったです。振り返ってみると甘いところが多く、いい試合と言えないかも知れませんが、私にとっては忘れることの出来ない試合になりました。
試合中、実は私はもう一つの強敵と闘っていました。相手の巨漢のおじいさんは、とてつもなく強い体臭を持っていたのです。そのため途中で頭痛や吐き気にも襲われました。以前Behind the Sceneで「試合中に許可出来るもの、出来ないもの」についての記事が掲載され、体臭も項目の一つに挙がっていました。キツ過ぎる体臭は相手プレイヤーの妨げになると実感しました。
三村さんもこの日、約4時間半の熱戦を制して初勝利を挙げました! 試合前の誓いは果たされ、二人で祝杯を挙げました!最高の気分でした!
今回はここまでです。いかがだったでしょうか? 次回はR9の解説を書かせていただきます。そちらもよろしければお読み下さい。お付き合いいただき、ありがとうございました。