ANNOTATED BY
Nanjo Ryosuke and Baba Masahiro
全日本選手権を前に、「これぞ全日本のゲーム!」というゲームを振り返っておきたいと思います。南條君のコメントが青字です。
□Nanjo Ryosuke (2169)
■Uesugi Shinsaku (2108)
全日本選手権 2008(9)
このときトップの上杉君はポイントを削れそうな上位に軒並み当たりつくしていて、出遅れた私以外にポイントを削れそうな人は見当たりませんでした。ドローでほぼ優勝が決まりなので、大会を盛り上げるためにも勝つ必要があります。
1.d4 Nf6 2.c4 g6 3.Nc3 d5 4.cxd5 Nxd5 5.e4 Nxc3 6.bxc3 Bg7 7.Bc4 0–0 8.Ne2 c5 9.Be3 Nc6 10.0–0 Bg4 11.f3 Na5 12.Bd3 cxd4 13.cxd4 Be6 14.Rc1
メインラインは14.d5ですが、この定跡に関して言えば相手のほうが圧倒的に知っているのは明白なので避けます。
14...Bxa2 15.Qa4 Be6 [Bb3] 16.d5 Bd7 17.Qb4 e6 18.dxe6 Bxe6 19.Rfd1 b6 20.Bc4!?
新手のようです。黒はキングサイドのポーンストラクチャーを崩されないためにクイーンを捨てなければいけません。(実際はこの交換は黒のピースがアクティブになるので、白にとって良いとは思えません。おそらく20.Bb5くらいのほうがよいでしょう)
20...Qxd1+ 21.Rxd1 Nxc4
マティリアルはQ vs R+B+Pなので、点数上はイコールです。白はクイーンを持っているので、黒の陣形を崩して攻撃を展開しようとし、黒はそれに耐えながら駒を交換して、クイーンサイドのパスポーンで決めようとします。お互いに勝ちを狙いにいける非常に面白い局面で、どちらが良いとは一概には言えません。
22.Bg5
まずはルーク交換を防ぐためにd8のマスを取ります。
22...a5 23.Qb5 Rfc8 24.Nf4!
白はただ待っているだけでは負けるので、黒陣に弱点を作らなければいけません。
24...Rc5
クイーンとビショップの両取りですが、駒損しないことは読みきっています。
25.Qb3 a4 26.Qa2 b5 27.Nxe6 fxe6
黒はポーンが前進、白は黒のストラクチャーを崩すことにそれぞれ成功しました。白はさらに良いプランを考えなければいけません。
28.Be7 Rcc8 29.f4
e4-e5でg7のビショップを遮断する狙いですが、黒が防いできた場合はf4-f5でキングへの筋を開くプランに変更します。
29...Bc3
ビショップが封鎖されるのを防ぐと同時にbポーンを突くスレットを作ります。これ以上進んでしまったら恐らく黒勝ちなので、白は何としてでも止めなければいけません。
30.Rb1 Kf7 31.Bb4 Bd4+ 32.Kh1 Ra6
b4のビショップがブロックに入ってしまったので、黒は簡単にパスポーンを進められなくなりました。f4-f5ブレイクの衝撃を少しでも和らげるためにe6を守ります。
33.Be1 Rb6
34.f5 exf5 35.exf5 Rc5
ルークをよりアクティブになる場所へ持っていき、b5を守りながらf5も狙います。35...gxf5は36.Qe2!で、盾にするポーンもないのでキングサイドからの攻めが止まらないでしょう。
36.fxg6+ hxg6
オンリームーブ。36...Rxg6? 37.Bf2!は白勝ちです。
37.g4
f5を抑えて、黒が持つキングの防御手段を取り除きにいきます。黒キングの危うさが表に出て、パスポーンを突く場合ではなくなったことに注目すべきです。
37...Kg7 38.Rd1 Rf6
ビショップを守るとRd1xd4!が入り、ビショップを動かすとRd1-d7+(あるいはBe1-f2)が入るので、反撃に出なければいけません。
39.Bh4
39.Rxd4 Ne3 40.Rd7+□ Kf8□ (40...Kh6? 41.g5+ Rxg5 42.Bf2 Ng4 43.Bg1+-) 41.Qe2 Rf1+ 42.Qxf1+ Nxf1 43.Kg1 Ke8 (43...Ne3? 44.Bb4 Ke8 45.Bxc5 Kxd7 46.Bxe3+-) 44.Rd6 a3 (44...Ne3? 45.Re6+) 45.Kxf1 a2 46.Ra6 Rc2はおそらくドローですが、これを白が正しく指すのは困難でしょう。南條君の選択は正しかったと思います。
39...g5 40.Bxg5 Rf2 41.Qb1 Rxg5 42.Rxd4 Ne3
ここで黒はドローオファーをしました。一見Rf2-f1+が止まらず、メイトや駒得の手段もないので、白はドローに甘んじなければいけないように見えますが、試合の結果を活きたままにできる方法がひとつだけあります。
43.Rd7+ Kf6 44.Qa1+ Ke6 45.Re7+!
イニシアチブのためにエクスチェンジサクリファイス。白はこれでテンポを取りながらe3のナイトを取れます。サクリファイス後の駒割はクイーン対2ルークで、点数計算上は1点足りませんが、ルークが連携するのに時間がかかることが分かったので、戦えると判断しました。
45...Kxe7 46.Qa3+ Kf6 47.Qxe3
47.Qf8+ Kg6 48.Qxf2 Nxg4とすることもできましたが、黒駒の連携が取れているため、勝つには不十分です。
47...Rf1+!
オンリームーブ。他の手は全てクイーンのチェックでルークが落ちます。(例えば47...Ra2 48.Qf4+ Kg6 49.Qd6+ Kg6 50.Qe6+)
48.Kg2 Rff5!
またしてもオンリームーブです。
49.Qd4+ Re5?
ここまで粘ってきた黒でしたが、とうとう致命的なミスをしてしまいます。49...Ke6! 50.h4 Rd5のあと、ルークを2つ5段目に並べてディフェンスすれば、イコールでした。
50.h4
これでルークの連携が切れます。白はマヌーヴァーを駆使して黒の陣を追い詰め、自分のパスポーンを進め、相手のパスポーンを取ります。
50...Rg8 51.Qd6+ Re6 52.g5+ Kf7 53.Qd7+ Re7 54.Qf5+ Ke8 55.Qxb5+ Kf7 56.Qc4+ Kg7 57.Qd4+ Kf7 58.Qf4+ Ke8 59.Qxa4+ Kf7 60.Qc4+
黒キングをfファイルでカットオフする60.Qf4+! Ke8 61.h5が早い勝ち方でした。
60...Kg7 61.Qd4+ Kh7 62.Qf6 Rgg7
勝勢の局面ですが、勝勢と勝ちは似て非なるものです。白は前進できなければ必然的にドローになってしまいます。この時点で残り時間がほとんどなかったので、時間を増やそうとするあまり50手ルールに引っかかるケースもあります。ここで分かったことは、白はポーンをどちらか一方でも安全に進めることができれば勝ち、ということです。ですが、63.h5?? Rxg5+!=のように、かなり難しいので明確なプランを思いつく時間が足りませんでした。しばらく白は時間を増やしながらいろいろ試行錯誤します。
63.Qf5+ Kh8 64.Kg3 Rc7 65.Qf8+ Kh7 66.Kg4 Rc4+ 67.Kf5 Rc1
67...Rxh4?には68.g6+! Rxg6 69.Qe7+でh4のルークを落とせます。Q vs Rはもちろんクイーン側の勝ちですが、Rowson-Kojima, Dresden, 2008のように、実戦でこのエンディングを勝ち切るのは容易ではないのは実証済みです。
68.Kg4 Rc4+ 69.Kh5 Rc6 70.Qf5+ Kh8 71.Qe5 Rcg6 72.Kg4 Kh7 73.Qe8 Rg8 74.Qe4 Kh8 75.Kf5 R8g7 76.Qe8+ Kh7
ここでようやく明らかな勝ちの筋が見つかりました。白はキングをf5、クイーンをh5に置けばブロッケードが崩せます。
77.Qf8 Rg8 78.Qf7+ R8g7 79.Qd5 Kh8 80.Kf4 Kh7 81.Qf5 Kg8 82.Ke5 Re7+ 83.Kd5 Reg7 84.Qg4 Kh8 85.Ke5 Kg8 86.Kf5 Kf7 (86...Kh7? 87.Qh5+)
キングをgファイルより中央寄りに引きずり出せたので、今度は黒のキングがhファイルへ戻れないようにしながらキングをh5、クイーンをf5に持っていきます。
87.Qc4+ Kf8 88.Kg4
ここは88.h5! Rxg5+ 89.Kf6!! でプロブレムのような勝ちがありました。
88...Rg8 89.Kh5 R6g7
89...Kg7は90.Qxg8+!で勝ちです。黒のg6のブロッケードを外せたので、今度はクイーンをf6、キングをh6に持っていきます。
90.Qc5+ Ke8 91.Qc6+ Kf8 92.Qf6+ Rf7
92...Ke8は93.Kh6でクイーンと2ルークの交換が防げません。これで黒駒の連携が完全に断てたので、あとは自然に崩れます。
93.Qd6+ Re7 94.Kh6 Rh8+ 95.Kg6 Rg8+ 96.Kf6 1–0
96...Rg7 97.Qd8+ Re8 98.Qxe8+ Kxe8 99.Kxg7で白勝ちです。
私が9Rのゲームを終え、食事をして戻ってきてもこのゲームはまだ続いていました。その後しばらくして勝負が決し、その瞬間ギャラリーからは拍手が送られました。私も二人のファイティングスピリットには魅せられました。このような称賛に値するゲームが増えると良いですね。