昨日ChessCafe( http://www.chesscafe.com/ )を見ていたらCaro-Kann B12のモノグラフの新版が15年ぶりに発売されるという記事がありました。
そもそもモノグラフとは?Caro-Kann B12とは?と疑問に思われた方に少し注釈を加えておきます。モノグラフとはChess Informant社が出版している、定跡本です。定跡本とはいっても、いわゆる”Sicilian Najdorf”のようにある程度幅広く網羅したものではなく、”Sicilian Najdorf Classical Variation”というように、さらに細かな分類の1ラインを扱った内容となっています。Caro-Kann B12のほうですが、B12とはECOコードのことで、ラインごとに分類されているのはご存知ですかね。その中でCaro-Kann B12とはCaro-KannのAdvance Variation(1.e4 c6 2.d4 d5 3.e5)を指します。
「だから何?」と思われるでしょうが、興味のあるラインなので、さっと目を通していたら、なんと自分の名前が出てきました!
9.Bd2 Be7 10.Na5 [10.Rc1 0-0 11.c4 dc4 12.Na5 Rb8 13.Nc4 Ndb6 equal; M.Baba - Loo Pak Kwan, Kuala Lumpur 2008] Rb8 [10...Qc7 11.c4 dc4 12.Nc4 Ndb6 13.Ba5 Qd7 equal] 11.c4 dc4 12.Nc4 0-0 13.Ne3 Bg6 [13...Be4!? Roiz] 14.Bc3 Ncb6 equal; E.Berg - Roiz, Plovdiv 2008 see 102/85;
http://www.chesscafe.com/informant/informant.htm
ゲームは去年のマレーシアでのものですが、ここで問題が一つ。
相手の名前が違う!
Loo Pak Kwanではなく、正しくはLoo Swee Leongでした。どこで間違ったかは分かりませんが、このまま間違ったまま出版され、後に残っていくのですかね。
何はともあれ、ゲーム自体は面白かったので、ここに解説を付けます。
□Baba Masahiro (2225)
■Loo Swee Leong (UR)
Malaysian Open 2008 (7)
1.e4 c6 2.d4 d5 3.e5 Bf5 4.Nf3 e6 5.Be2 Nd7 6.0–0 Ne7 7.Nbd2 h6 8.Nb3 Nc8
最もポピュラーな定跡の一つであるカロカンでは、次々と新しいアイディアが生まれてきます。特にアドバンス・バリエーションはその性質が強いと思います。近年のアドバンス・バリエーションにおいて、最も革新的なアイディアは、「黒がc6-c5と突かなくてもよい」という考え方です。以前は黒からc6-c5と突くのが筋であるように見られていましたが、これをせずにゆっくりピースをマヌーバリングして、違うところから手を作るというものです。
9.Bd2
モノグラフにもありましたが、結論から言うと、この手では白はアドヴァンテージを取れません。9.Be3 Be7 10.Nfd2 0–0 11.f4とするのが今のところはベストです。
9...Be7 10.Rc1 0–0 11.c4 dxc4 12.Na5 Rb8 13.Nxc4 Ndb6
モノグラフはこの局面をイコールと判断しています。私もそう思います。白はc2-c4でクイーンサイドを開いて攻め口を開いたように見えますが、逆にd5のマスが開いてしまい、黒ナイトの強力なアウトポストを作り出してしまいました。
14.a4 Nxc4 15.Bxc4 Nb6 16.Ba2 Bg4 17.a5 Nd5 18.h3 Bxf3
試合中は18...Bf5とビショップをキープしたほうが良いとを考えていましたが、黒には次のプランがありました。
19.Qxf3 Bb4!
困ったことにaポーンを守れません。なにも代償なしにワンポーンダウンでは負けるので、次の筋で何とかアタックを作ります。
20.Qd3 Qxa5 21.Bb1 f5 22.exf6 Rxf6!
ここはRxが正着です。22...Nxf6? なら、23.Bxh6! gxh6 24.Qg6+ Kh8 25.Qxh6+ Kg8 26.Qg6+ Kh8 27.Rc4!で次にd4-d5を狙い、白攻勢(おそらく勝勢)です。試合中は23.Bf4 Rbd8 24.Be5でも白にコンペンセーションはあると考えていましたが、23.Bxh6!が可能でした。
23.Be3 Rbf8 24.Qh7+ Kf7 25.Bd3
なんとか白マスビショップをh5にもっていきたいところです。
25...a6 26.Be2 Ne7??
Bh5+を防ぐため、黒クイーンの5thランクの横の筋を通します。しかし、これは勝負を決定づけるブランダーでした。正着は26...Nf4! 27.Bxf4 Rxf4³です。
27.Rc5!!
クイーンのh5への利きを遮断する、思い切ったエクスチェンジ・サクリファイスです!
27...Bxc5 28.Bh5+ Ng6 29.dxc5 Qd8 30.Bxh6!
間違ってはいけないのは、30.Rd1?? Qxd1+! 31.Bxd1 Rh8 32.Qxh8 Nxh8–+です。ルークをdファイルに回す前に、まずg7にプレッシャーをかけます。
30...Rg8 31.Rd1 Qe8 32.Rd3+-
白の駒は全てアタッキングポジションにあり、Rg3やRf3などのスレットが強力です。
32...Kf8 33.Bg5
33.Rg3??には33...gxh6です。
33...Rh8 34.Qxh8+ Nxh8 35.Bxe8 Rf5
35...Kxe8には36.Bxf6 gxf6 37.Rb3!+-でクイーンサイドのポーンを取って終了です。
36.h4 Kxe8 37.Rd8+ Kf7 38.Rxh8 Rxc5 39.Rd8 Rb5 40.Rd2
b2のポーンを守り、あとはテクニックの問題です。白はまず、b2を守っているだけのルークをアクティブにするため、キングをクイーンサイドにもっていき、b2をキングで守ります。
40...e5 41.f3 Ke6 42.Kf2 a5 43.Ke2 a4 44.Kd1 Rc5
cファイルをカットされましたが、焦る必要はありません。白はゆっくり相手の出方を見ます。
45.Rd3 b5 46.Rd8 Rc4 47.Kd2 c5 48.g3 Rb4 49.Kc2 Rc4+ 50.Kb1 Rb4 51.Rd3 Rc4 52.Rd2 Rb4 53.Rc2 Kd5
53...Kd6も54.Be3 c4 55.Bd2 Rb3 56.Rc3でルークを交換し、白勝ちです。
54.Be7 Rc4 55.Rxc4 Kxc4 56.h5 Kd4 57.Bf8 Ke3 58.Bxg7 Kxf3 59.Bxe5 1–0