New In Chess Magazine

言わずと知れた、チス界のベストマガジン。年間8冊刊行のNew In Chess Magazineは、最新のニュースや大会レポート、ゲーム解説、豊富な読み物コーナー等で、いつも非常に楽しませてくれます。私自身は2004年から、かれこれ8年間、購読しています。以前は次の号が届くのをまだかまだかと首を長くして待っていましたが、1.5ヶ月に1号とハイペースなので、今となってはきちんと読み終わらないうちに次の号が来てしまったりしている状態です。

 

今回の号は、カバーからも分かる通り、イスタンブール・オリンピアード特集です。Open優勝のアルメニア、女子優勝のロシアに加え、地元トルコのオリンピアード秘話が中心にレポートされています。

 

今はAmazonでも買える時代です。New In Chess Magazineはますます身近で気軽に読めるようになりました。


The Stress of Chess... And its Infinite Finesse

昨年、”Grandmaster Chess Strategy”がリリースされ、1970-80年代に活躍したスウェーデンのGM Ulf Anderssonのゲームを多くの人が目にすることができました。この1冊については前にレビューを書きましたので、そちらをチェックしてみて下さい。

 

http://chessplayer.jugem.jp/?eid=636

 

さて、Anderssonと同じように1970-80年代に活躍したアメリカのGM Walter Browneが、自身のチェスキャリアを1冊にまとめました。それが今回紹介する”The Stress of Chess...”です。

 

BrowneFischerの次の世代のアメリカのチャンピオンです。多くの国際トーナメントで成功を収め、特に1974年と1980年にはチェス界のグランドスラムの一角、Wijk aan Zeeでのトーナメントで優勝しています。

 

一時期は世界のリーディング・プレーヤーとして活躍していたBrowneですが、私が知っていた彼のゲームは10コもなかったと思います。あらためて今回、彼自身のベストゲーム101局を見てみると、非常に受け入れやすいストレートな棋風で、どのゲームも楽しませてくれます。ポジショナル・プレーやエンドゲームを得意とするAnderssonの棋風とは全く違い、タクティカル・プレーを得意とするのがBrowneの棋風と言えます。Fischerの背を追って成長したということもあり、101ゲームの中にはSicilian NajdorfKing’s Indianのゲームが多く含まれています。

 

予想以上に分厚く、読みごたえは十分です。今年はあまり本を購入していないのですが、良書に出会えたと思っています。2012年の1冊として、私が自信を持っておススメします。


Fighting Chess with Magnus Carlsen

評価:
Adrian Mikhalchishin,Oleg Stetsko
Edition Olms
¥ 2,337
(2012-02)

今年もWijk aan Zeeでのトーナメントが始まりました。初日は最近の勢いの通り、CarlsenAronianGiri3名が勝ち星を手にしました。長いトーナメントなのでまだ先は分からないですが、AグループはCarlsenAronianのレースになると見られています。

 

最近、これまでのCarlsenのチェスプレーヤーとしての軌跡をまとめたFighting Chess with Magnus Carlsenという本が発売されました。著者はCarlsen本人ではなく、トレーナーとして有名なウクライナのGM Mikhalchishin+アシスタントとしてStetsko)です。そのため、本書はこれまでのCarlsenについて書かれた数多くの雑誌、web等の記事から抜粋したものをつなぎ合わせたような客観的な内容に仕上がっています。基本的にはゲーム集であり、全63ゲームが収録されています。普段からチェスニュースを追いかけている私にとっては、9割方のゲームは知っていましたし、特に新しい発見はありませんでしたが、1冊にまとまっているのは便利だなと思いました。

 

Wijk aan Zeeのトーナメントが始まったということで、今日はCarlsenの鮮烈なWijk aan Zeeデビューであった2004年のトーナメントから1ゲーム紹介します。当時はまだCグループでしたが、10.5/13Rで優勝。

 

Carlsen,Magnus (2484)

Ernst,Sipke (2474)

Corus-C Wijk aan Zee 2004 (12)

 

1.e4 c6 2.d4 d5 3.Nc3 dxe4 4.Nxe4 Bf5 5.Ng3 Bg6 6.h4 h6 7.Nf3 Nd7 8.h5 Bh7 9.Bd3 Bxd3 10.Qxd3 e6 11.Bf4 Ngf6 12.0–0–0 Be7 13.Ne4 Qa5 14.Kb1 0–0 15.Nxf6+ Nxf6 16.Ne5 Rad8 17.Qe2 c5 18.Ng6! fxg6 19.Qxe6+ Kh8 20.hxg6! Ng8




21.Bxh6! gxh6 22.Rxh6+! Nxh6 23.Qxe7 Nf7 24.gxf7 Kg7 25.Rd3 Rd6 26.Rg3+ Rg6 27.Qe5+ Kxf7 28.Qf5+ Rf6 29.Qd7#
[Wijk aan Zee のトーナメントでは、毎日1ゲーム、投票でベストゲームが選ばれますが、このゲームはABグループの他のゲームを押し退け、Prizeを獲得しました。]


The Art of the Endgame

Endgame ManualDvoretsky著)のExerciseを解いていると、たまにStudyに出くわします。

 

                       F.Simkhovich,1927

 

単純に1.Bxc4だと、1...Rb1! で、次にb2ポーンを取られます。もし、c6にポーンがなければそのまま2.Bb5a4ポーンを落としにいけ、ドローに落ち着きます。しかし、このc6ポーンがb5のマスにビショップが来るのを阻み、白に簡単にドローにさせません。「1...Rb1を防ぐためには?」と考えれば、白の初めの2手はそう難しくありません。

 

1.Bg4+ Kd6 2.Bf5!

 

これでb1にルークが来るのを防ぎます。しかし...

 

2...Ra2!




3.Nxa2
に対して3...bxa2でプロモーションが止まりません。放っておくとb2が取られ、白必敗です。白に打つ手はなく、本当にこれで終了でしょうか?

 

Studyは、ここで、ダメだと思って考えをやめず、もう一歩踏み込んで考えると正解にたどり着きます。

 

3.Nxa2!! bxa2 4.Kc1 a1Q+ 5.Bb1



 

クイーンを隅に閉じ込めてしまいます。動きのとれないクイーンは全く無力です。黒はキングで監獄に閉じ込められたクイーンを救いにいきますが、力及ばず。

 

5...Ke5 6.Kc2 Ke4 7.Kc1+ Ke3 8.Kc2 Ke2 9.Kc1 Qxb1+ 10.Kxb1 Kd1 11.Ka2 Kc2 12.Ka1=

 

最近、オランダのGM Timmanが、古今東西の優れたEndgameStudy1冊にまとめた本を世に送り出しました。タイトルはThe Art of the Endgameです。Timman自身、Studyの作者として有名であり、New In Chess Magazineには自身の作品を多く発表してきましたが、この本はその集大成でもあると考えられます。Amazon Japanでの発売はまだ先のようなので、私はまだ手に入れていません。どうしてもすぐ欲しいという方は輸入するのが良いと思います。

 

チェスのちょっと違った魅力をこの本で感じてみませんか?


Grandmaster Repertoire -The Grunfeld Defence-

Quality Chess出版の定跡本であるGrand master Repertoireシリーズを初めて購入しました。イスラエルのGM Boris AvrukhはすでにGrand master Repertoire -1.d4-などこのシリーズで本を書いています。今回は彼の黒番でのメインウェポンであるGrunfeld Defenceについての1冊です。ちなみに、Grunfeld DefenceAvrukhのみならず、イスラエルのトッププレーヤー達(SutovskyMikhalevskiSmirinRodshtein)によって共有されているオープニングです。そして白番のエキスパートには言わずと知れたGelfandがいます...

 

私は本でも雑誌でも手に届くとまずは最後まで飛ばし読みします。そこで気付いたのは、いつまでたってもメインラインが出てこないということ。ハッとして表紙を見てみるとVolume Oneと書いてあるではないですか。どうやらVolume Two以降も買わせようという魂胆のようですw

 

結論から言うと、一部のGrunfeldマニア向けの1冊です。私も長い間、Grunfeldを黒番のメインウェポンにしていますが、全く未知のポジションが随所に表れてきます。この本でGrunfeldを勉強するというよりは、Grunfeldから派生する様々な手の可能性を楽しむほうが良さそうです。

 

内容の一部には、AvrukhNew In Chess Yearbookに書いているSurveyもあります。一例を紹介します。

 

Two Pieces versus Queen

 

Hillarp Persson,T (2543)

Avrukh,B (2657)

38th Olympiad Dresden 2008(6)

 

1.d4 Nf6 2.c4 g6 3.Nc3 d5 4.Bg5 Ne4 5.Bh4 Nxc3 6.bxc3 dxc4 7.e3 Be6 8.Rb1 Nd7 9.Qa4 Bd5! 10.Bxc4 Bxg2 11.Qb3 Bh6! 12.Bxf7+ Kf8 13.Bd5 Nc5! 14.Bxg2 Nxb3 15.Rxb3



 

白黒共にそれぞれの研究ラインに飛びこみ、このキー・ポジションに到達しました。マテリアルは黒のほうが上ですが、白駒のほうがうまく調和がとれている上、キングが安全であり、白にコンペンセーションありとのこと。皆さんはどちらの色を持ちたいでしょうか?

 

15…Rb8 16.Nf3 Bg7 17.0–0 b5 18.Bg3 Rb6 19.c4 bxc4 20.Rc3 Bf6 21.Rxc4 c6 22.Ne5 Bxe5 23.Bxe5 Rg8 24.Rfc1 Kf7 25.d5 cxd5 26.Rc5 Re8 27.Rxd5 Rd6 28.Bxd6 exd6 29.Rc6 Re6 30.Rd4 Kg7 31.h4 Qb8 32.Bd5 Rf6 33.Bb3 [この時点でスウェーデン-イスラエルは1-1であり、残り2ゲームが残っていた。4BRodshtein-Cicakの様子を見ながらリスクを冒して勝ちに行くべきかどうか決めることにした(Avrukh] 33…Kh6 34.Rcc4 Qb5 35.Rc2 Qa5 36.Rcd2 Qc5 37.Rd5 Qc8 38.Kh2 Qc3 39.Kg2 Qb4 40.R5d4 Qb7+ 41.Bd5 Qc7 42.Bb3 Qe7 43.Rg4 Rf5 44.Rdd4 Qb7+ 45.Kg1 Qc7 46.Rgf4 Rxf4 [この時点でRodshteinが勝ち、私のゲームがドローでチームは勝ちになるため、ドローオファーをした。(Avrukh] ½–½


100 Endgames You Must Know

7/24(日)に吉祥寺CCにて小島くんのEndgame Lessonがありました。私はこちらには参加しませんでしたが、夕方頃から行くと吉祥寺CCはいつもより盛況でした。ユニバーシアード代表の佐藤要くんをはじめ、若手が何人かいたので、試しに次のポジションを一緒に考えてみました。

 

                           White to move

 

エンドゲームの本にはだいたい出てくるような重要なポジションですが、これを白が実際に勝ち切るのは簡単ではありません。私はこの日の午前中にこのエンドゲームを学んだはずなのに、覚えていたのは初めの3手で(さらに意味も良く理解していない)、あとはもう忘れていました。しかも、記憶があいまいなことを決定づけるように、はじめ、白のルークをb7に黒のルークをa8に置いて間違って出題していました。そして皆で「どうも白が勝てないなあ」と悩み続けていたのです。初期配置が間違っていることに気が付いたのは、小島くんがエンドゲームの本を持っていて、それにこのテーマが載っていたからでした。

 

さて、このエンドゲームについての具体的な手筋は解説しません。おそらくここで書いても10%理解するのも難しいと思うからです。本当にこのエンドゲームの勝ち方を理解して自分のものにするためには、まずはもっと基本的なところから始めないといけません。

 

                           White to move

 

上のポジションはルセナ・ポジションと呼ばれている有名なルーク・エンディングです。これはBehind the Sceneの読者の方の20%くらいは知っているかもしれません。「ルセナ=ブリッジ(橋)」と覚えている方も多いかと思います。冒頭のエンディングは、簡単に言えばこのルセナ・ポジションを目指せばいいわけです。しかし、そのためにはまずルセナを学ばなければいけません。

 

ルセナについてもあえてここで書きません。どのエンドゲームの本にも載っています。エンドゲームはまずは自分で勉強しないと始まりません。しかし、一人で考えていて分からなくなって嫌になった時は仲間と一緒に考えてみましょう。きっと退屈に見える局面も、多くのアイディアや可能性が埋もれている宝島(?!)に見えてくることでしょう。

 

あと、エンドゲームはできるだけ若いうちに手をつけておいたほうが良いと思います。若いうちは「学んだことがない」という言い訳ができますが、ベテランで基本的なエンドゲームが分からないとちょっと恥ずかしいかもしれません。

年代にかかわらず、エンドゲームに苦手意識を持っている方は、きっと何とかしたいと思う気持ちはあるはずです。
そんな方のために私がおススメするのが、今回のタイトルの100 Endgames You Must Knowです。Botvinnikは、「クラブプレーヤーならエンドゲームのポジションを100コ知っていれば合格だ」と言ったそうですが、その100コが集約されているのがまさにこの本だと言えます。

 

絶対におススメの1冊です。

 

11コ学ぼう」と言いたいところですが、なかなかそんなハイペースにはいかないと思います。それでも1週間に1コなら、何とかできそうな気もしませんか? 1年間継続してやっていけば50コ覚えられます。クラブプレーヤーの合格点に達するのも時間の問題です。

 

 

さて、最後に吉祥寺CCのサプライズ・ゲストの森内さんから出題されたポジションを紹介して終わりにしたいと思います。

 

                          White to move

 

結果はいかに? 仲間内で考えてみるのもまた一興です。


Grandmaster Chess Strategy

現在、北欧出身で活躍中のプレーヤーと言えば、誰もがノルウェーのCarlsenを思い浮かべるでしょう。逆に、Carlsenのインパクトが強すぎて、他のプレーヤーの名前が出てこないかもしれません。

 

一昔前、北欧出身で今のCarlsenと同じように世界の第一線で活躍した、スウェーデンのUlf Anderssonというプレーヤーがいました。1970年代後半から1980年代前半にピークを迎えたAnderssonは、最高で世界ランキング4位まで昇りつめ、その正確なポジショナルプレーやエンドゲームには周りのトッププレーヤーからも定評がありました。

 

本書は、「アマチュア・プレーヤーがAnderssonのポジショナル・マスターピースから学べること」というサブタイトルの通り、Anderssonのゲームからポジショナルプレーやエンドゲームにおける戦略を学びます。しかし、「なぜ今になってAnderssonなのか?」

 

この問いに、著者のJurgen KaufeldGuido Kernという2人の名もなきドイツのマスター(兼トレーナー)はこう答えています。「シンプルで紛れのないAnderssonのポジショナル・スタイルは、教材として適切だ」と。

 

2人はAnderssonのゲームをテーマ別にセレクトし、ポイントを解説しています。テーマは全部で15個。ゲームは全80ゲーム。

 

1. Playing against two weakness

2. An advantage in space

3. Control of the d-file

4. Prophylaxis

5. Playing against the isolated pawn

6. The bishop pair

7. An original exchange of bishop for knight

8. Fighting against the hedgehog

9. The positional exchange sacrifice

10. The positional queen sacrifice

11. The art of defence

12. The Catalan endgame

13. Rook endings

14. Rook and minor piece

15. Minor piece endings

 

だいたいがよくあるStrategyのテーマですが、8章や12章は非常にオリジナルなテーマだと思います。ゲームの解説は非常にコンパクトに書かれていて、すらすら読み進められます。私にとっては何よりも、この本で初めて今までよく知らなかったAnderssonというプレーヤーのプレーを学ぶことができきたことが大きな収穫でした。私もこのようなチェスを勉強しているのですから、特に自身がPositional Playerだと考えている人にとっては必読本です!


 

                                   Ulf Andersson 


締めくくりに、私の好きな
Anderssonのプレーの1例を紹介します。


                       Andersson - Franco

                                 Buenos Aires 1979

                                     White to move

 

Anderssonのプレーの特徴の1つに、クイーンを早めに交換してクイーンレス・ミドルゲームに持ちこむものがあります。このゲームもその1つです。ここから流れるようなプレーで黒を追い込みます。

 

16.Bxb6! axb6 17.Nc4 [美しいナイトのポジションです。黒はこのナイトに一切触れられません。] 17...Bf6 18.a4 Bg7 19.Rhe1 Rhe8 20.b5! [aファイルから食い破るための準備の1] 20...f4 21.a5 bxa5 22.Rxa5 b6 23.Ra7 Bf6 24.Rea1 Re6 25.R1a6! [ピンを利用してNa5-Nc6の狙い]


 

 

25...Rde8 26.Kb3 Bd8 27.Ra8+ Kd7 28.Ra2! [aファイルでの仕事は終わり、センターへ廻します。] 28...Bf6 29.Rd2+ Ke7 30.Ra7 Rc8 31.Rd5 Ke8 32.h3 Ke7 33.Nb2! [cポーンを突く準備をします。] 33...Ke8 34.Nd3 Bg7 35.c4 Bf6 36.c5 bxc5 37.Nxc5 Re7 38.Ra6!




38...Bh8 39.Kc4 Bg7 40.f3 Rb8 41.Ne6! Bf6 42.Rc6 1–0

 

完璧すぎて涙が出てくるようなAnderssonのポジショナル・プレーでした。


ボビー・フィッシャー 魂の60局

FischerMy Memorable 60 GamesKeresPractical Chess Endingsをボロボロになるまで熟読すればJCAレイティング2000は超える」というのは、とある麻布学園チェス部のOBの方が残したアドバイスです。実際、それだけで2000を超える人はいないと思いますが、チェスの文献を手に入れにくかった時代、Fischer60 Gamesは最高のチェス教本だったと言えるでしょう。

 

実は私が初めて手にしたチェスの洋書はこの60 Gamesでした。確か中学2年生の時だったと思います。当時、銀座のイエナ書店にはわずかながら、しかし日本の書店では珍しくチェスの洋書が置かれていました。そこでたまたま見つけ、KarpovBest Gamesと共に購入しました。思えば、これが初めて自分のお小遣いで手に入れたチェス書籍でした。もちろん、「英語もチェスもまだまったく」という状態だったので、何を理解したかは甚だ不明です。しかし、部内の雑誌で先輩が紹介してくれたRossettoとのゲーム(Game5)は、中盤で完全に相手がツークツワンクに陥るという珍しい状況で、今でも印象に残っているゲームです。

 

今回、大胆にも水野さんがこの超有名なチェス書籍を訳し、出版にこぎつけるという偉業を成しえました。また、巻末に渡辺暁さんがこの本についての解説をいれたことで本書はオリジナリティーを増し、単なる訳本という域を出ていると思います。水野さんの訳には暁さんのチェックが入っているということもあり、技術的な解釈で間違っているところはないと言っても良いと思います。

 

解説について私が何か言うところもないので、ここではおそらく多くの方が読み飛ばすor理解に苦しむVarna OlympiadでのBotvinnikとの1戦(Game39)を、少しでも楽しく読むことができるよう、このゲームのBehind the Sceneについて触れたいと思います。

 

======================================

 

Botvinnk (USSR)

Fischer (USA)

Varna Olympiad 1962 (10)

 

196210月のVarna Olympiadでソ連とアメリカが対戦した時のゲームです。当時の世界チャンピオンはBotvinnikで、当時19歳だったFischerはチェス界の若手新鋭でした。

 

1962年はFischerにとって良くも悪くも試練の年でした。まず、Stockholmでのインターゾーナル選手権を優勝し、一躍「時の人」となりました。しかし、このトーナメントの成功もあり、警戒されたFischerは、選手権終了の7週間後からスタートしたCuracaoの挑戦者決定戦では、ソ連のプレーヤー達に完全にハメられました。この時の詳細については以前、Carasao 1962をレビューしたときに書きましたので、そちらを参照に。

 

http://chessplayer.jugem.jp/?eid=234

 

8月にはFischerCuracaoで起きたソ連のプレーヤー達の陰謀を雑誌で批判しました。本局は、そんな緊迫した雰囲気が和らぐ前に迎えたオリンピアードでの1戦でした。

 

1.c4 g6 2.d4 Nf6 3.Nc3 d5 4.Nf3 Bg7 5.Qb3 dxc4 6.Qxc4 00 7.e4 Bg4 8.Be3 Nfd7 9.Be2 Nc6 10.Rd1 Nb6 11.Qc5 Qd6 12.h3 Bxf3 13.gxf3 Rfd8 14.d5 Ne5 15.Nb5 Qf6 16.f4 Ned7 17.e5 Qxf4 18.Bxf4 Nxc5 19.Nxc7 Rac8 20.d6 exd6 21.exd6 Bxb2 22.00 Nbd7 23.Rd5 b6 24.Bf3 Ne6 25.Nxe6 fxe6 26.Rd3 Nc5 27.Re3 e5 28.Bxe5 Bxe5 29.Rxe5 Rxd6 30.Re7 Rd7 31.Rxd7 Nxd7 32.Bg4 Rc7 33.Re1 Kf7 34.Kg2 Nc5 35.Re3 Re7 36.Rf3+ Kg7 37.Rc3 Re4 38.Bd1 Rd4 39.Bc2 Kf6 40.Kf3 Kg5 41.Kg3 Ne4+ 42.Bxe4 Rxe4 43.Ra3 Re7 44.Rf3 Rc7 45.a4

 


 

ここで黒の封じ手となります。これは、試合が長引いたためここで一度試合を中断し、翌日にあらためて再開する、過去のチェス界の慣習です。黒のFischerは、ここで次の手を決めたらそれを棋譜に書き、アービターに渡します。アービターはこの時の局面図と共に両者の棋譜を封筒にしまい、封を閉じます。当然、白のBotvinnikFischerが何の手を封じたかは知りません。

 

このゲームを有名にしたのは、まさにこの封じ手だったと思います。同時に、これがあったからこそ、Fischerにとってこの1局が「忘れられないゲーム」となったのでしょう。この封じ手については、BotvinnikとチームメイトのTalが、ソ連チームサイドからの視点で当時の様子を事細かに書き残しています。少し長いですが、とても面白いのでカットせずに載せます。

 

「私にとってこのオリンピアードで最も忘れられないのはBotvinnik-Fischerの封じ手だ。ソ連とアメリカ、どちらが優勝するかはすでに決まっていたが、このゲームのためにブルガリア国内中から観戦者が集まった。オリンピアード前にFischerがインタビューで「Botvinnikもマッチで倒せる」と言ったことをみんな覚えていたため、このゲームは早くから注目の的となっていた。

 

私とD.Byrneのゲームもちょっと私のほうが良いところで封じ手となったが、このゲームのことは私を含めて誰も真剣に考えていなかった。BoleslavskySpassky、そして私の3人は、自分たちの部屋でBotvinnikの封じ手の局面を考えた。そして当然のことながら同じ局面を分析していたのは我々だけではなかった。トレーナーのBoleslavskyに言われ、D.ByrneにドローオファーするためにDonaldRobertの兄弟部屋に行ったところ、テーブルの上のチェスボードには、Botvinnik-Fischerの局面があった….

 

封じ手の研究はほぼ一夜に及んだ。上の階では、BotvinnikKeresGellerFurman4人が別に研究していた。チームの中で若手だった私とSpasskyは、意見を交換するため、せっせと上階に足を運んだ。

 

朝の5時を回ったあたりでGellerが素晴らしいアディアを思いついた。Fischer2コネクティッド・パスポーンに対して、こちらは2つの孤立パスポーンで戦うというものだ。うまくいけばドローになるというのが我々の結論だった。そしてようやく眠りにつくため下階に向かうとき、最後にBotvinnikはこう言った。「誰かにこのゲームのことを聞かれたら、白のポジションは絶望的だと言ってくれよ!」と。

 

我々は寝過ごし、朝食も食べ損ねた。昼食を食べにレストランに行くと、そこにアメリカチームを見つけた。彼らもまた眠そうであったが、彼らはFischerが勝つことを信じて疑っていなかった。

 

昼食をとったあと、人だかりのできたトーナメント・ホールに入ると、そこには次の構図があった。ステージをゆっくり昇り降りするBotvinnikと、片手で頭を抱えながら必死で考えるFischer。局面はすでにドローだったのだ。」

 

The Life and Games of Mikhail Tal より

 

45...Rc5 46.Rf7 Ra5 47.Rxh7 Rxa4 48.h4+ Kf5 49.Rf7+ Ke5 50.Rg7 Ra1 51.Kf3 b5 52.h5 Ra3+ 53.Kg2 gxh5 54.Rg5+ Kd6 55.Rxb5 h4 56.f4 Kc6 57.Rb8 h3+ 58.Kh2 a5 59.f5 Kc7 60.Rb5 Kd6 61.f6 Ke6 62.Rb6+ Kf7 63.Ra6 Kg6 64.Rc6 a4 65.Ra6 Kf7 66.Rc6 Rd3 67.Ra6 a3 68.Kg1 ½–½

 

ちなみに、ゲームがドローで終わった時の様子は短いながらも映像が残っていました。対照的な2人の表情をよくとらえていると思います。

 

http://www.youtube.com/watch?v=_3TMtIaAlnY

 

ゲームの詳しい解説は本書でチェックして下さい。この1冊があなたにとっても「忘れられない1冊」となることを願っています。


The Complete c3 Sicilian

俗にAlapin Variation1.e4 c5 2.c3!?と呼ばれている、Sicilianのサイドラインの定跡書です。可愛らしいカバーに惹かれ注文しこの本が手元に届くと、まずは本書の分厚さに驚きます。軽い入門書かと考えていたら大間違いで、全574ページがAlapin Variationに費やされています。

 

1. Alapin Variationとは?

 

さて、Alapin Variationとはどういった特徴のオープニングでしょうか? これについては著者(Sveshinikov)の冒頭のコメントに端的に表れています。

 

「黒には2…d52…Nf6という2つのまともな返し手しかないため、白は準備しやすい。その上、白は手堅くシンプルで、それでいてロジカルだ。」

 

また、現在Alapinをこよなく愛し続ける世界のトップGM1人、Tiviakovは、メイン(2.Nf3)と比較した時のメリットをこう言っています。

 

「白でSicilianに対して戦うのは楽じゃない。NajdorfSveshinikovといったラインは最先端の研究がされ、たとえ時間をかけて隅々まで勉強して試合に臨んだとしてもアドヴァンテージを取れる保証はない。そこでオープニング勝負を避け、純粋なチェスの勝負ができるオープニングを選ぶプレーヤーが増えてきている。言わばコンピュータのなかった時代への回帰だ。」

-New In Chess Yearbook 762005-

 

要するに、Alapinは白がSicilianに対して自分の土俵で戦えるオープニングだということです。だいたい、シシリアンプレーヤーがメインラインで行く気満々で1…c5と指したあと2.c3で返されるとそれだけでやる気をそがれます。日本のトッププレーヤーでも、Alapinに対してしっかり対策が取れているのはほとんどいません。私もその1人だと思います。そのため、白のアイディアを学ぶことで黒番の対策をしようということで本書を購入した次第です。

 

2. Sveshinikovについて

 

著者のSveshinikovについても簡単に紹介しておきましょう。

 

1951年生まれのSveshinikovは、まずはその名前を非常にポピュラーなオープニングに残したことで有名でしょう。しかし、現在もまだ数多くのオープントーナメントを渡り歩いている現役のGMです。2009年のCappelle la Grandeでは小島くんと対戦し、黒で打ち破っています。そんなSveshinikovAlapinのエキスパートであったということは、恥ずかしながらこの本が出るまで私は知りませんでした。しかし、「2.c3は自分と家族を40年間食べさせてきたと自信を持って言えるね!」という言葉通り、Sveshinikov1967年、16歳の時に初めてAlapinを指して以来、約40年間に渡ってAlapinを指し続け、実にその試合数600 Alapinを公式戦で指した数は他のGMとはまったく比較にならないでしょう。

 
Evgeny Sveshinikov Cappelle la Grande 2009

3. 本書の構成

 

本書は2つのPartで構成されています。すなわち、2…d52…Nf6です。そしてそれぞれのPartは以下のChapterでまとめられています。

 

1. 歴史的な背景

2. 基本的なプランとアイディア

3. 重要なゲーム

4. エクササイズ

5. 結論

 

私には1.の歴史的な背景のチャプターが新鮮でした。「歴史的にどうAlapin Variationが発展してきたか」という内容はなかなか自分では調べられません。やはり著者のように豊富な知識を持ったプレーヤーでなければ説明できないと思います。

 

4. 感想

 

著者は経験豊かなプレーヤーですから、各世代のトッププレーヤーとの実戦経験や個人的な付き合いがあります。TalPolugaevskyとのゲーム、Kasparovとの秘密のトレーニングマッチ、Tiviakovとのプレゼント交換など、読み物として面白い箇所が多かったです。

 

難点をあげるとすれば、はじめにも書きましたが、分量が多すぎることです。Sveshinikov自身、「Alapinの各変化を説明するには自分のゲームだけでも事足りた」と語っているのに、わざわざStudy Materialとして数多くのAplapinのゲームを紹介しています。おそらく、自身のゲームだけにしておけば本書は半分の厚みになり、ずっとコンパクトにまとまった定跡書となっていたでしょう。

 

この本をお勧めするかどうかは難しいところです。自分がSicilianを指した時にAlapinばかりになるとつまらないですしね! それに、Alapinは簡単に見えますが、しっかりしたPositionの理解とEndgameのテクニックがなければAlapinで勝率が上がることはありません。星3つにしたいところですが、Sveshinikovに敬意を払い、4つで。あとはご自身で判断してください!


The Wonderful Winawer

GM Moskalenkoのベストセラー、The Flexible Frenchの続編です。Frenchの究極のメインと考えられているWinawerバリエーション(1.e4 e6 2.d4 d5 3.Nc3 Bb4)のみで1冊が構成されています。前作と比較して気になったことは以下の2点です。

 

1. ラインの分岐が多くなり、Moskalenko自身の推奨や意見は少なくなっている

2. 白勝ちのモデルゲームは多いが、黒勝ちのモデルゲームが少ない

 

これらは、Moskalenko自身が黒でFrenchを指す時、Winawerバリエーションをメインに戦っていなかったことが最大の理由でしょう。かといって、内容がつまらないわけではなく、Winawerバリエーション独特の戦い方を勉強できる良書だと思います。

 

ところで、このWinawerバリエーションというのはe4プレーヤーでも好みがはっきり分かれるものです。これは、Winawerバリエーションが他に類を見ない独特な世界を作り上げていて、その特徴を理解して指し切るのが難しいからです。そのため、特に若いプレーヤーはWinawerを学ぶ前に、Tarrasch3.Nd2)やAdvance2.e5)やKing’s Indian Attack、もしくは2.Nf3などの比較的分かりやすいラインをメイン・ウェポンにする傾向があります。私もここ10年間、Frenchに対しては排他的にTarraschを選択していました。しかし、昨年から全てのオープニングをメインラインにしようと決め、FrenchWinawerバリエーションに戻しました。

 

次のゲームは、オープニングは成功しなかったものの、終始Winawerの戦いができたゲームだと思っています。

 

Baba Masahiro (2237)

Yoshimura Kenji (1913)

吉祥寺 2011

 

1.e4 e6 2.d4 d5 3.Nc3 Bb4 4.e5 c5 5.a3 Bxc3+ 6.bxc3 Qa5 [6…Ne7と同様、ポピュラーな手です。] 7.Bd2 Qa4 8.Qb1(△Bb5+




9…c4 9.h4 Nc6 10.h5 Bd7 11.g4 0–0–0 12.Bh3 f6 13.f4 Nge7 14.Be3 Rdf8 15.Kd2!?
[ポーンのシェルターに守られているため、キングをセンターに置いて戦うのも1つの手です。] 15…Qa5 16.Ne2




[
私がオープニングの知識として知っていたのはここまでの組み方です。これからあと、どう戦えばよいか分からなくなり、おかしな中盤が続きます。] 16…Rf7 17.Qb2?! Rd8 18.Rhf1 Rff8 19.Qc1 [クイーンはここでは働かないので、キングサイドへ廻します。] 19…Kb8 20.Qe1 Bc8 21.Qg3 Rf7 22.g5?! fxe5?! [22...f5! とされると、白のマイナーピースの動きが封じられます。ポーン交換でf4f5のマスが空くと、だいぶ楽になります。] 23.fxe5 Rdf8 24.Rxf7 Rxf7 25.g6 hxg6 26.hxg6 Rf8 27.Qg5 Nf5 28.Rf1 Qxa3 29.Bxf5 Rxf5 30.Rxf5 exf5 31.Nf4




[
白は1ポーンダウンですが、ナイトがf4という理想的なマスに跳び出せ、チャンスは白にあります。このナイトはd5を狙いつつ、h5に跳んでg7のポーンを落としたり、強力なeのパスポーンを突くサポートをしたりするオールマイティーな働きをします。] 31…b5 [31...Qe7 32.Nxd5 Qxg5 33.Bxg5 Be6 34.Nf4 Bg8 35.e6+-; 31...Ne7 32.Bf2 b5 33.Bh4] 32.Nxd5 b4 33.e6! [このゲームで白のベスト・ムーブだと思います。h2-b8のラインを開け、黒キングへのアタックを作り出します。33.cxb4には33…Nxb4 34.Qe7?! c3+! 35.Nxc3 (35.Ke2 Qa6+ 36.Kf2 Nxd5) 35...Qxc3+! 36.Kxc3 Nd5+など、黒に決定的な反撃があるので、ここは勇気を持ってプレーしなければいけないところです。] 33...bxc3+ [33...Bxe6 34.Qf4+ Ka8 35.Nc7+ Kb7 36.Nxe6] 34.Ke2 Qb2 35.Qxf5 Bxe6! [白に正確なプレーを要求する実戦的な手です。] 36.Qf8+ [36.Qxe6 Qxc2+ 37.Kf3 Qd1+ 38.Kf2! Qc2+ 39.Kg3! でチェックが止まり白勝ちですが、もう少し欲張りました。] 36...Kb7 [36...Bc8 37.Qd6+! Ka8 38.Qxc6+] 37.Qxg7+ Ka6 38.Nc7+ Ka5 39.Nxe6




[
黒に連続チェックを許しますが、チェックが止まることを読んでピースを取ります。] 39…Qxc2+ 40.Kf3 Qd1+ [40...Qf5+ 41.Nf4!] 41.Kf4! Qf1+ 42.Kg5! Qg2+ 43.Kf6! Qf3+ 44.Bf4! [ビショップでカバーしてチェックが止まりました!] 45…c2 45.Qc7+ Kb5 46.Kg7!




[
白キングは敵陣に安住の地を見つけました。また、c1のポロモーション・スクエアーはビショップでしっかり睨んでいます!] 46…Qd5?! 47.Qb7+ Ka4 48.Nc5+ Ka3 [48...Ka5 49.Bd2+] 49.Bc1+ 1–0

Play Winawer Variation!!


calendar
  12345
6789101112
13141516171819
20212223242526
2728293031  
<< May 2018 >>
selected entries
categories
archives
recent comment
recommend
recommend
recommend
recommend
recommend
recommend
recommend
recommend
recommend
links
profile
search this site.
others
mobile
qrcode
powered
無料ブログ作成サービス JUGEM