WRITTEN BY
Yamada Kohei
最後に
オープンセクションはウクライナが悲願の優勝を果たしました。前回大会で最終ラウンドを負け、表彰式に現れなかったIvanchukの6連勝でチームが勢いに乗り、10Rでフランスを3.5-0.5と圧倒しそのままゴールイン。終始大会をリードした印象でした。地元ロシア1が2位と面目を保ち、3位にはイスラエルが入りました。ひそかに僕が応援していたハンガリーは競争相手イスラエルに負けたのが大きく4位。5位、6位は中国、アルメニアと前回大会の入賞チームが入りました。大会前半好調だったベトナムはグルジアに0.5-3.5と圧倒され、以降やる気がなくなったのか(?)引き分けが続き最終ラウンドでイランに負かされ52位に沈みました。
また何と言っても話題になったのは47位(121位から!)に入ったザンビアでしょう。まさか我々もザンビアがここまで上がるとは夢にも思いませんでした。最終ラウンド、勝ちが見えたところでプレイングエリアを歩きまわっていたときに、ザンビア−トルクメニスタン戦を見に行ったのですが、ちょうどKelvinがリザインしたところだったので、後でそのマッチに勝ったと知ってびっくりしました。
札幌チェスクラブ出身(!?)のGM Anish GiriはBoad 4でパフォーマンス3位。彼がBoad 4というチーム構成もなかなかすごいですが、Karjakin、Efimenkoに続く成績でのボードプライズでまた株を上げたといっていいでしょう。ボードプライズでやや驚きだったのは地元ロシア2の若手GM Ian NepomniachtchiがBoad 1で3位入賞したことでしょうか。1990年生まれのプレイヤーですが最近頭角を現してきて12月のRussian Superfinalで優勝を果たしました。個人的には今注目のプレイヤーです。またBoad 2は6.5/8でパフォーマンス2895のSutovskyが1位。Gelfandがおとなしかった分、活躍が目立ちました。ドレスデンでは若手に代表の座を譲りましたが、今大会で改めて存在感を見せつけた格好です。
ウーマンセクションはHou Yifan、Ju Wenjunの調子がよく中国優勝もあるかと思っていたのですが、ふたを開けてみればロシア1の圧勝でした。地元ということもあり負けられないプレッシャーの中、パーフェクトスコアでの優勝です。閉会式でも一番盛り上がったのは女子の表彰の瞬間でした。しかし世界女子選手権で大活躍したRuan Rufeiはこのときメンバーに入ってなかったわけですから、中国の層の厚さも侮れません。次のイスタンブールは優勝候補筆頭でしょう。強豪グルジアは、タイブレークでキューバ、アメリカ、アゼルバイジャンなどを上回って3位入賞でした。
ボードプライズはKosintseva姉妹が独占。Boad 1、2で勝率70%超えという驚異の勝率でした。個人的には日本チームの部屋の向かいだったラトビアのBoad 3、WGM Berzina Ilzeが9.0/11で入賞していたのに驚きました。メンバーをみるとBoad 3はかなり激戦区だったようですね。
日本は男子が96位、女子が104位。女子のほうは初出場のメンバーが二人おり、経験不足から苦戦した感はありますが、次回大会ではぜひその二人がチームの中心となって戦ってほしいと思います。男子のほうは言い訳できる戦績ではなく、前回大会の成績を大きく下回ったことも含め、反省しなければならないことはたくさんあると思います。実際に戦ってみて、ヨーロッパ、アメリカのレベルはまだ遠く、急成長するアジア、アフリカのレベルも決して無視してはいけないところまで来ているということを感じました。
今回、オリンピアードに出場したことで、技術的に吸収したものはたくさんあります。オープニングレパートリーの構築、準備から中終盤のプランの組み立て方、読みの技術など数え上げればきりがありません。しかし何よりも収穫だったのはチェスに対する意識が大きく変わったことでしょう。個人レベルでいえば、やはり2200〜2300クラスの相手は倒しに行き、2400+からはしっかりドローを取る。そういうことを普段のトレーニングの時から意識する必要があるということを痛感しました。また今大会は日本のチェスがヨーロッパやアジアのレベルに少しでも近づくために、何をしなければならないか、ということを考えるきっかけにもなりました。この問いに対する答えはまだ見いだせずにいますが、これは僕だけの問題ではありませんから日本のチェスプレイヤーのみなさんとともに考えていこうと思っています。ドレスデンでの躍進と、今大会での不振を糧に、イスタンブールの日本チームにはライバル国に引けを取らない戦いをしてほしいと思います。2年あれば日本のチェスのレベルはもっと上がると信じています。
最後になりましたが、この場を借りて感謝の気持ちを述べさせていただきたいと思います。
まずは大会中、技術精神両面からチームを支えてくれたコーチのMisha、一生懸命応援をくれて心の支えとなってくれた通訳のアーニャ、そして日本で(あるいは海外で)我々を応援してくださったチェスファンのみなさん、本当にありがとうございました。
また今回、オリンピアードのレポートを書くきっかけを与えてくださった神田さん、アップロードの場を提供してくれた馬場さん、ありがとうございました。このレポートが日本チェス界の発展に少しでも役立ってくれれば、これ以上の喜びはありません。
そして2週間をともに戦ったチームメイトのみなさん、ありがとうございました。また海外で一緒に戦える機会が来るのを楽しみにしています(ほんとは一人一人にコメントもらおうかと思ったのですが、流石に無茶ぶりがすぎるので、やめましたw)。
最後に長々と駄文に付き合ってくださったこのレポートの読者の皆様、お付き合いいただき本当にありがとうございました。毎回悩みながらのレポートで、勢いだけで乗り切った感はありますが楽しんでいただけたなら幸いです。
2011年1月 山田弘平