Capelle la Grande Online 2021の後半はBlitz編です。
トーナメントの流れは前日のRapidとほぼ変わらず、日本時間23:00(中国時間22:00)から開始で、形式は3分+2秒/手のタイムコントロールの11Rスイスでした。ただ、Rapidよりも参加者のレベルが高く、Ivanchuk、Kamsky、Cheparinov、Jovabaなどのビッグネームをはじめ、多くのタイトルホルダーがそろっていました。そしてエントリー締め切りぎりぎりに世界女子チャンピオンのJu Wenjunも参加を表明し、オンラインのオープンブリッツ大会としてはこれ以上ないようなレベルだったかと思います。私はスタートランキング75位でスタート。
初戦勝つと、R.2でいきなりCheparinovと当たりました。
□Baba,Masahiro (FM,2274,JPN)
■Cheparinov, Ivan (GM,2667,BUL)
Cappelle la Grande Online Blitz 2021(2)
1.e4 c5 2.Nf3 d6 3.d4 cxd4 4.Nxd4 Nf6 5.Nc3 a6 6.Bg5 e6 7.f4 h6 8.Bh4 Qb6 9.Qd2 Qxb2 10.Rb1 Qa3 11.e5 dxe5 12.fxe5 Nfd7 13.Ne4 Qxa2 14.Rd1 Qd5 15.Qe3 Qxe5 16.Be2 Bc5 17.Bg3 Qd5
18.Nxc5 Qxc5 19.O-O O-O 20.Bf2 Nc6 21.Nxc6 Qxc6 22.Bd3 e5 23.Be4 Qe6 24.Bd5 Qg6 25.Qb3 Nf6 26.Bc5 Nxd5 27.Bxf8 Nf4 28.Rxf4 exf4 29.Rd8 Be6 30.Qb6 Rxd8 31.Qxd8 Qxc2 0-1
[CheparinovのPoisoned Pawn Variationに飛び込んでいいところなく終了。]
このあと、下には取りこぼさなかったため、GMとの対戦がいくつかありました。
R.7ではCheparinovと同国のGM Enchevと対戦。
□Enchev,Ivajlo (GM,2501,BUL)
■Baba,Masahiro (FM,2274,JPN)
Cappelle la Grande Online Blitz 2021(7)
1.d4 Nf6 2.c4 g6 3.f3 d5 4.cxd5 Nxd5 5.e4 Nb6 6.Nc3 Bg7 7.Be3 0–0 8.Qd2 Nc6 9.0–0–0 f5 10.h4 fxe4 11.h5 Bf5?
[正しい手順を忘れていました。本譜だと12.g4!で困るので、11...gxh5でg6にビショップを引くマスを作らないといけません。]
12.hxg6? Bxg6 13.fxe4
13...Rxf1?
[白のダブルビショップを消し去りd4のポーンも良い形で落とせる、非常に魅力的に見えるエクスチェンジ・サクリファイスで、瞬時に指してしまいましたが、もっと良い手がありました。13...Nxd4! が可能で、14.Bd3 (14.Bxd4 Qxd4 15.Qxd4 Bxd4 16.Rxd4 Rxf1+がポイント) 14...Qd6 15.Nge2 Nxe2+ 16.Qxe2なら限りなく単純な1ポーンアップで黒良しでしょう。]
14.Rxf1 Nc4 15.Qd3 Nxe3 16.Qxe3 Nxd4 17.Nf3 c5 18.Nh4!
[黒の守りの要である白マスビショップを消しにいく良い手です。]
18...Qd6 19.Nxg6 Qxg6 20.Nd5 Re8 21.Rh3 Qa6?
[f1のルークとa2のポーンのダブルアタックで、かなり黒にチャンスありと楽観的に感じていました。それがものの数手後にリザインすることになるとは...]
22.Qf2! Rf8 23.Nxe7+ Kh8 24.Qxf8+! Bxf8 25.Rxf8+ Kg7 26.Rg8+! Kf7 27.Rxh7+
[なんと次にRg6+! でa6のクイーンが取られます。攻撃的で良いと思っていたa6のクイーンの位置が仇になりました。]
1–0
このトーナメントで最も思い出深いゲームとなったのは、ロシアのGM Demchenkoとの対戦でした。
□Demchenko,Anton (GM,2610,RUS)
■Baba,Masahiro (FM,2274,JPN)
Cappelle la Grande Online Blitz 2021(9)
1.e4 c5 2.Nf3 d6 3.d4 cxd4 4.Qxd4 Nc6 5.Qe3 Nf6 6.Nc3 g6 7.h3 Bg7 8.Bc4 0–0 9.0–0 b6 10.Rd1 Nd7 11.Qe2 Bb7 12.Bb3 Nc5 13.Bf4 Qc8 14.Rac1 Nxb3 15.cxb3 Qe6 16.Ng5 Qf6??
17.Nd5!
[これで黒は駒損を避けられません。16...Qd7だったらほぼイコールです。]
17...Qxb2 18.Qxb2 Bxb2 19.Rxc6 Bxc6 20.Nxe7+ Kg7 21.Nxc6 h6 22.Nf3 Rfe8 23.Nd2 Be5 24.Be3 Rac8 25.Nxa7 Rc2 26.a4 Re7 27.Nb5 f5 28.exf5 gxf5 29.Nc4 f4 30.Bxb6 f3 31.Nxe5 dxe5 32.gxf3 Kf6? 33.Be3?!
[33.Bd8! が簡単な1手ですが、ブリッツだと2600GMもこんな手を見逃します。]
33...Rg7+ 34.Kf1 Rb2 35.Rd6+ Ke7 36.Bxh6 Rf7 37.Bg5+ Kf8 38.Kg2 Rxb3 39.Bf6 Kg8 40.Bxe5 Rbxf3
[この黒がいつ投了してもおかしくないような状況で、事件は起こりました!]
41.Bf4??
[41.Bg3を指そうとしたところの明らかなマウススリップです。]
41...R3xf4 42.Rd2 Rxa4
[直前のマウススリップで相手が動揺しているだろう隙に、ここで私からドローオファーしました。実際、局面はほぼイコールで、黒が最善を指すと本譜のような1ポーンダウンのルークエンディングになります。しかし、こんな状況下でも相手はいたって冷静で、ゲームを続けます!]
43.Nc3 Ra3 44.Nd5 Rg7+ 45.Kh2 Rf3 46.Re2 Rh7 47.Kg2 Rfxh3 48.Nf6+ Kf7 49.Nxh7 Rxh7
[こうして1ポーンダウンのルークエンディングになりました。正しく指せばドローですが、実戦そしてほとんど考える時間のないブリッツでは一筋縄にはいきません。ここから長い長い我慢の時間が始まります。]
50.Ra2 Kg6 51.Kg3 Rb7 52.Ra6+ Kg7 53.Kg4 Rb1 54.f4 Rc1 55.Kg5 Rg1+ 56.Kf5 Rb1 57.Ra7+ Kf8 58.Ra6 Kf7 59.Re6 Rb5+ 60.Re5 Rb1 61.Ra5 Rb2 62.Ra7+ Kf8 63.Kg5 Kg8 64.Ra6 Kf7 65.Rf6+ Kg7 66.Rg6+ Kf7 67.Rc6 Rg2+ 68.Kf5 Ra2 69.Rc7+ Kf8 70.Kg5 Kg8 71.Re7 Kf8 72.Kf6 Ra6+ 73.Re6 Ra1 74.Rb6 Kg8!
[オンリームーブ。74...Ke8? だとなぜダメなのかは大抵のエンドゲームの教本に出てきます。]
75.f5 Rf1 76.Rb8+ Kh7 77.Ke6 Kg7 78.Rb7+ Kf8 79.Kf6 Kg8! 80.Rb5 Rf2 81.Rb1 Rf3 82.Rg1+ Kf8 83.Rb1 Kg8! 84.Rb8+ Kh7 85.Ke6 Kg7 86.Rb7+ Kf8 87.Rc7 Rf2 88.Kf6 Kg8! 89.Rg7+ Kf8 90.Rg4 Rf1 91.Kg6 Rf2 92.Re4 Rg2+ 93.Kf6 Rf2 94.Re3 Rf1 95.Rg3 Rf2 96.Kg6 Rf1 97.Ra3 Ke7 98.Re3+ Kf8 99.Rb3 Ke7 100.Rb7+ Kf8 101.Rf7+ Kg8! 102.Rd7
[ずっと白も黒も同じような手を繰り返しているにもかかわらず、3回同時局面にはなりません。Europe Echecsの対局サイトでは、同時局面が3回現れると(=Three-fold repetitionが成立すると)強制的にドローになるシステムなのは、前日のRapid最終戦のドローで分かっていました。にもかかわらず、なかなか我慢の時間が終わりません。白は同じような手を指しているように見えますが、実際はルークをbファイル、cファイル、dファイルと少しずつ変えてきながら同時局面になるのを避け、相手のミスを待ち続けています。実に巧妙な、実戦的なテクニックです。]
102...Rg1+ 103.Kf6 Rf1 104.Rd5 Rf2 105.Rd8+ Kh7 106.Rf8 Rf1 107.Ke6 Kg7 108.Rf7+ Kg8 109.Re7 Kf8 110.Rb7 Re1+ 111.Kf6 Kg8! 112.Rb8+ Kh7 113.Kf7
[ここで初めて白からf7にキングを進め、fポーンをさらに進める準備にかかりました。状況が変わったので黒は注意が必要です!]
113...Rc1!
[この手か113...Ra1しかドローになりません。(Rd1はダメです!)ルークはサイドからチェックできるよう方向転換します。]
114.Rb7 Kh6 115.f6 Rf1??
[49手目から60手以上ミスなく耐えてきましたが、ここでついに負けの手を指してしまいました。115...Ra1でサイドからのチェックを残してまだドローです。]
116.Rb2!
[黒からRa7+がなく、次にRh2+からKg7で白はパスポーンを単純にプロモーションさせられます。13分20秒にも及ぶハードなゲームはここで私の時間が落ちて終了。このラウンド、最後まで残ったボードでした。]
1–0
結局、Cheparinov(2667)、Nasuta(2512)、Enchev(2501)、Demchenko(2610)の4人のGMに負け、あとは下に全勝し、7勝4敗の7Pで最終順位は276人中61位でした。優勝はロシアのGM Fedossevで、500€の賞金を手にしました。
大会の結果やゲームは以下のサイトで見ることができます。
Capelle la Grande Onlineは予想以上に実のある内容で、眠い時間帯の中、参加した甲斐がありました。オンラインならいつでも参加できるので来年も、と思ってしまいますが、やはり実際の会場でのトーナメントは特別な雰囲気があるので、早くOTB開催ができるようにと願っています。