Cappelle la Grande 2014 -招待状-

以下、尚広くんからの告知です。
 
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Cappelle la Grande 2014の招待状が届きました。
 
今年は日本から6名が招待されます。
条件は例年通り、期間中の宿泊費(ホテルボレル・ツインルームx3)、大会参加費、会場での食事、パリorブリュッセルからのバスを、主催者 が負担してくれます。
 
大会期間は31日〜8日です。詳細な情報については
http://www.cappelle-chess.fr/en2/default.php
をチェックしてください。
 
招待選手として参加を希望される方は、113日までに中村尚広(rye_naohotmail.com @を半角に変えてください)までその旨をお知らせください。相談や大会の様子についての質問でも構いません。
 
参加希望者が6名を超えた場合は、基本的にはFIDEレイティングの上位者を優先しますが、最近の大会での成績や将来性なども加味して判断したいと思います。
 
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Cappelle la Grande 2014 -現況-

今年3月のCappelle la Grandeでの国際オープントーナメントについてです。
 
今回の取りまとめは中村尚広くんが行ってくれることになりました。ただ、告知等はこのページで行うようにします。
 
現在、尚広くんがオーガナイザーと交渉中です。今年から招待枠が4から6へ増強されるようなことも昨年の参加者から聞いています。(ただし、オーガナイザーとの口約束なので本当かどうかはこれから確認が必要)
 
なお、トーナメントの詳細については大会HPや過去の記事を参照して下さい。

Cappelle la Grande 2013 -Sjugirov wins-


                                                                   Photo by Ishizuka Mirai

今年のCappelleも閉幕。優勝はロシアのGM Sjugirovでした。

 

日本から参加の皆さんもお疲れ様。皆、レイティング以上の戦績を残せたことは何よりだと思っています。今回は追っていないようで、実は毎日、結果は見ていました。ただ、ゲームは見ていないのと、旅のネタ話は聞いていないので、そこについては帰国後の皆さんの報告を待っています。

 

次のCappelle la Grande International Chess Open201431日〜8日です。来年は招待枠が4枠→6枠になるという情報が入ってきています。2年前に私がオーガナイザーにリクエストして断られた招待枠の増強が、ようやくここにきて実現ということです。ここ最近、枠を余らせずに多くの日本人プレーヤーをCappelleに送り込んできた私の努力が少し実ったかなと、ちょっと自己満足。


Do you know Jean Bart ?

今年もCappelle開幕まであとわずかとなりました。

 

いつものことですが、プレーヤーの皆さんには期待しています。今回、毎日追いかけることはできなさそうですが、結果は常にチェックしています。いいゲームができたら見せてくださいね。

 

小島くんは今日のハンガリーでの重要な1戦で0.5P落とし、3つ目のIMノームに届かず。そしてCappelleのあとはすぐに帰国ということです。少なくともIMになってから帰国するものだと思っていたのですが、何か他の誘惑に負けたのでしょうか? Cappelleでノームを取れれば問題ないのですが...

 

さて、そんなCappelle前ですが、本日は日本プレーヤーの宿泊するダンケルクの英雄について、少し歴史をお勉強しましょう。

 

 

WRITTEN BY

Kanda Daigo

 

 

ジャン・バールJean Bart 1650-1695をご存知ですか?

 

カペル・ラ・グランド大会の宿泊施設がある北フランスのダンケルク市には、目抜き広場の中央にこの人の銅像が立っています。

 


 

観光案内所にも、彼の姿を描いたグッズが置いてありましたし、カーニバルにあわせたイラストもありました(2012229日撮影)。

 


 

が、いかんせん、どこにも説明がありません。地元では有名すぎて、説明の要を感じないのでしょう。仕方ないので、本屋さんに紹介してもらった伝記を一冊読みました(*)。それによると・・・

 

ジャン・バールは17世紀の後半に活躍した私掠船(しりゃくせん)の船長でした。

 

時は近世、嵐の時代。二大海運国のオランダとイギリスが大西洋の覇権を競い合い、三度にわたって戦火を交えました。イギリス=オランダ戦争(蘭英戦争)です(第一次1652年〜54年、第二次1665年〜67年、第三次1672年〜74年)。フランスは姻戚関係(王太子の嫁がイギリスの王族出身)から、イギリス側について参戦します。

 

当時、腕っ節の強い漁師たちは、戦争が始まると、命がけの「出稼ぎ」に行くのが習いでした。銃火器を積んだ改造船に乗り込み、軍の別動隊として海に乗り出し、敵の商船を襲って積み荷を奪う。それが「私掠」です。フランスの法律では、

1戦時に限り、また敵国の船舶に限り、私掠を認める。

2船舶を拿捕(だほ)したら積み荷を全て封印し、乗員と共にすみやかにフランス領の港に曳航(えいこう)すべし。

3乗員は捕虜と見なす。積み荷は、10%を国王に納め、残りは当該私掠船の船主と乗組員のものとする。

と定められていましたJacques Duquesne, pp.74-75.3が出稼ぎの報酬となります。

 

首尾よく成功すれば大きな儲けが期待されますが、とても危険な仕事です。海上で敵国の商船を見付けたら、注意深く、少しずつ距離を詰める(戦艦などが護衛についているかどうか、見極めながら)。ある程度まで近付いたら、砲火をかいくぐり(戦時には商船にも大砲が備わっていました)、素早く操船して敵の船首か船尾に回る(大砲は船腹の両側に付いているので、その射程圏の外から近付くため)。十分に接近したら敵船にカギを引っかけ、ロープを伝って乗り込み、護衛の兵士と白兵戦を繰り広げる。最後に敵船の船長を殺すか捕虜にして、勝利。正規軍さながらの海戦です。

 

港湾都市ダンケルクはこの時代、スペイン領、オランダ領、イギリス領と支配者が転々と変わった挙句、ようやく1662年にフランス領となりました。ジャン・バール12歳の時です。列強各国がこのように次々と触手を伸ばしたのも、港を領地にすれば交通の拠点を抑えられるだけでなく、周辺の漁師たち、戦時には頼もしい別動隊となる男たちを得るというメリットもあったからです。

 

ジャン・バールが船主から実力を認められ、船長に引き立てられたのは弱冠22歳の時でした。その1672年、第三次蘭英戦争がぼっ発すると、私掠船で大西洋に乗り出して神出鬼没、めざましい功績を挙げました。1674年にはオランダ海軍の軍艦「ネプチューン」号を拿捕し、その功績により「海軍大尉」の称号を与えられます。

 

こうしてジャン・バールは雇われ船長を振り出しに、立身出世の階段を駆け上がり、やがては私掠船団を率いる旗艦の艦長となります。1689年には、時のフランス国王ルイ14世から「貴族」の称号を授与されます。そして1695年、ダンケルク港に駐留するフランス海軍の艦隊司令官に任命されるまでになりましたが、惜しくもその年、病に倒れ、45年の波瀾の生涯を閉じました。

 

ジャン・バールが生きたこの時代は未だ「国」の意識が薄い時代でした。当時のダンケルクはフラマン語(現在はベルギー北部の公用語)の地域であり、ジャン・バールは生涯、フランス語をほとんど話せず、航海日誌等はすべて書記がフランス語に翻訳したとか。ですから彼はフランス人ではなく、「ダンケルク人」、まさに「郷土の英雄」なのです。

 

[*参考]Jacques Duquesne, Jean Bart, Seuil, 1992.

ちなみに、どこの国にもマニアはいるようで(笑)、ジャン・バールについて、これでもかっ、と言うくらいに情報を満載したブログも見つかりました。

<Jean BART>, http://jb.collection.free.fr/Accueil/Accueil.html


Cappelle la Grande 2013 -Invited Players-

招待選手を決めるのに色々ありましたが、本日、公式ページを確認して、日本の招待選手4名を確認することができました。

 

http://www.cappelle-chess.fr/fr2/default.php?page=3898

 

今回の招待選手は次の4名です。

 

小島 慎也(2349,FM)

小林 厚彦(1997)

石塚 美来(1790)

三村 健介(1770)

 

あと、日本から橋本あづみさんが一般参加します。

鬼コーチFM小島慎也のもと、皆さんが少しでもこの大会で力をつけて来てくれることを願っています!

 

大会は2/23-3/28日間です。


Cappelle la Grande 2013 -Invitation-



Cappelle la Grande
での国際オープントーナメントの招待状が届きました。

 

今年も4枠です。条件も例年通りで、期間中の滞在費(ツインルーム×2)、食費(3食)、大会参加費、パリ(orブリュッセル)からの移動費が向こう持ちです。トーナメント期間は2013223日〜32日です。

 

招待選手として参加を希望する方は、12/8までに私に連絡をください。ここのコメント欄に書き込んでもらっても構いません。大会について不明点などがありましたら、私か過去の大会参加経験者に問い合わせてみてください。

 

なお、参加希望者が4名を超えた時の招待選手の決定方法ですが、まずはFIDEレイティング順に上から4名とします。FIDEレイティング保持者が4名に満たなかった場合はJCAレイティング順とします。ただ、この決定方法はあくまで原則であり、今回は最近の大会でのパフォーマンス、将来性なども加味して総合的に判断したいと思います。


Cappelle la Grande 2012 -Round9-

WRITTEN BY

Kanda Daigo

 

中村(尚)、カテゴリー優勝!310日(土)、第9ラウンド]

最終第9ラウンドはこうなりました。

 

南條 =/= Bokros, Albert (2472,IM)

篠田 1-0 Lantoine, Gauthier (1630)

 

PAPP, Petra (2296) - NOGUCHI, Koji (2040)

1.e4 c5 2.Nf3 g6 3.d4 Bg7 4.d5 Nf6 5.Nc3 O-O 6.e5 Ne8 7.h4 d6 8.h5 dxe5 9.hxg6 hxg6 10.Bh6 Bxh6 11.Rxh6 Kg7 12.Qd2 Nd6 13.O-O-O Rh8 14.Rxh8 Qxh8 15.Nxe5 Nd7 16.f4 Nf6 17.g3 Bf5 18.Be2 Qh2 19.g4 Nfe4 20.Nf3(23) Qf2(29) 21.Qd3(22) c4(22) 22.Nxe4(16) cxd3?? (23) [22…Bxe4ならば黒やや良し野口] 23.Nxf2 dxe2 24.Re1 以下略1-0

Janev戦同様、チャンスはあったのですが、相手よりも時間を使わず、勝負所で雑になったのが悔やまれます。対戦したGMIMは皆、勝負所でしっかり時間を使い、必死に勝ちを取ろうとするところが自分には一番勉強になりました。」(野口さん談)

 

Doluhanova, Evgeniya(2269,WGM) - NAKAMURA, Naohiro (2000)

1. e4 c6 2. d4 d5 3. Nc3 dxe4 4. Nxe4 Bf5 5. Ng3 Bg6 6. h4 h6 7. h5 Bh7 8. Nf3 Qa5+ 9. Bd2 Qc7 10. Bc4 e6 11. Qe2 Nf6 12. Ne5 Bd6 13. O-O-O Nd5 14. Rhe1 O-O 15. Qg4 Kh8 16. Qf3 Bxe5 17. dxe5 Nd7 18. Qe2 a5 19. f4 Nb4 20. Bxb4 axb4 21.Qd2 Nb6 22. Qxb4 c5 23. Qb3 Nxc4 24. Qxc4 b5 25. Qb3 c4 26. Qb4 c3 27. bxc3 Rfc8 28. Qb3 Ra4 29. Ne2 Rca8 30. Kd2 Rxa2 31. Rc1 Qc5 32. Nd4 R8a3 33. Qb4 Qxb4 34. cxb4 Rd3+ 35. Ke2 Rxd4 0-1

Caro-Kann Classicalで、今までほとんど指されていない妙手を選択して、早々に定跡を外しました。私が格下だからか、いきなりキングを狙って来ましたが、何もなく凌いで、Qサイドの反撃につなげました。ポーンを2つ切って攻めにいったところで、相手からミスが出て勝ち。」(中村尚さん談)

 

総合成績は

南條(2280)=5.5p(423), performance=2355

中村(尚)(2000)=5.5p(423), perf.=2236

野口(2040)=4.5p(333), perf.=2188

篠田(1906)=4.5p(441), perf.=1913

神田(1933)=3.5p(341), perf.=1830

 

南條さんはその実力を遺憾なく発揮しました。GM四人とIM一人に当たりながら5.5ポイントを挙げて二つ勝ち越し、カテゴリー賞金95ユーロを獲得しました。performance2355と、レイティングを大幅に上回る素晴らしい成績です。FM誕生の日もそう遠くないことでしょう。

 

中村(尚)さんもお見事でした。総合5.5ポイントでカテゴリー(2000-2099)優勝です。壇上に呼ばれ、トロフィーが授与されました。賞金250ユーロを獲得。大会スタート時のレイティング2000ですからこのカテゴリーで一番低い位置にいながら、全員をごぼう抜きして一位!昨年のカペルの雪辱を果たすべく、一年間、積み重ねて来た努力が大輪の花を咲かせました。拍手!!

 

このお二人が余りにも素晴らしい戦績を残したので目立ちませんが、実は野口さんも特筆ものの好成績でした。GMIMFM一人ずつ、WGM二人にWIM一人と対戦。9試合中6人がタイトル保持者という厳しい当たりなのに総合成績が五割の指し分けで、レイティング100以上も上回る高いperformanceを叩き出しました。6ラウンドのFantasticなゲームは日本の棋界で長く語り草となることでしょう。指し盛りの勢いそのままに、全日本選手権での活躍が大いに期待されます。

 

篠田さんも勝率五割に到達し、かつレイティング以上のperformanceで、「招待選手として最低限の結果を残せたから、ホッとしています」と慎ましい感想。でも実際は、カテゴリー賞金25ユーロを獲得しましたから十分に健闘したと言えます。毎年カペル大会には日本人が多く参加して来ましたが、過去において、同じ年に3人が賞金を獲得したことがあったでしょうか?皆さん、おめでとうございます!!

 

私はご覧のとおり、不甲斐無い成績でした。一から出直しです。

 

他人を知る

大会の始まる三日前、私は下見を兼ねて会場に行きました。折しも運営ボランティアの人たちが長テーブルを並べるなど、設営の真っ最中でしたので、邪魔にならぬよう、遠くから見学していると、ジャージ姿のおじさんが「こんにちは!」と気さくに声をかけて来ました。過去の大会写真を見ていたので、すぐに誰だか分かりました。地元のチェスクラブの会長であり、大会運営委員長でもあるグヴァールGouvart, Michelさんでした。

 

彼の話によれば、このカペル大会の目的は「他人を知ること」だそうです。今の世の中、至る所で人と人とが“衝突”している。戦争や内戦といった文字通りの戦いもあれば、言葉と言葉をぶつけ合う外交の角突き合いがあり、国の中での住民同士のいがみ合いもある。形はさまざまだがその原因は共通で、自分と意見の違う相手を“知らない”からだ。知らないから、疑心暗鬼で簡単に“敵”になって衝突する。こんな悲しい状況を何とかしたい、という思いでチェスの大会を立ち上げたのだそうです。チェスを通じて「他人を知る機会を作りたいんです」、と。

 

こうして始まったカペル・ラ・グランド大会、1985年の第一回の参加者は68人でした。それが年々、回を重ねるごとに参加者が増え続け(と言いますか、グヴァールさんたちが努力して増やし続け)、十年後の1995年には500人の大台を超えました。スイス式9ラウンドという競技のことだけを単純に考えれば、人数が多すぎるかも知れませんが、ゲームすることだけが目的ではないのです。いかなチェス大国フランスでも、参加者が500人規模の大会は皆無です。また、今年の参加者497人の内、フランス人は「たった」265人しかいません。参加者の半数近くが外国人なのです。「他人を知る」という方針で大会が企画されていることを雄弁に物語っています。

 

大会が始まって二日目、ゲーム開始のしばらく前に席についてぼんやりしていると、年配の男性から「日本の方ですか?コインを譲ってくれませんか?」と話しかけられました。外国の硬貨を集めているのだそうで、手持ちの100105円玉をあげたら、とても喜んでくれました。数日後、会場でまたこの男性を見かけたので、どうです?と聞いたら、「今日はブラジルのコインをもらえた」と嬉しそうに話していました。この男性はきっと、自宅でコインを眺めることで外国旅行を楽しんでいるのでしょう。チェスの試合には出ないこの男性にとってもまた「他人を知る」機会となっています。大会がもたらす相乗効果と言えましょう。

 

来年もまた多くの日本人がカペルに参加し、老若男女、さまざまな国の選手と盤をはさんで対戦し、チェスを続ける喜びを体験されますよう願ってやみません。数次にわたり長々と書き連ねたレポートにお付き合いいただき有難うございました。日本人選手の記録を残す貴重な機会を提供してくださった馬場五段に深く感謝いたします。(了)

 

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訂正:カペルのレポート中に2か所、誤字がありました。訂正してお詫びいたします。

R4のミニコラム

【誤】フランスのIMイアンPayen, Arnaud 2336さん。

【正】フランスのIMイアンPayen, Arnaud 2336さん。

R6のミニコラム

【誤】勝っていました!WIMのドルハノヴァ

【正】・・・WGMのドルハノヴァ


Cappelle la Grande 2012 -Round 8-

WRITTEN BY

Kanda Daigo

 

日本vsハンガリー、男女混合戦39日(金)、第8ラウンド]

チャリンと刃の先が触れ合う音がしたかと思ったら、もう斬られていました・・・

 

前夜遅くに発表されたペアリングを見たら、第8ラウンドの私の相手はパップPapp, Petra(2296)さん。不勉強の私は知りませんでしたが、ハンガリーの若手女子のホープでした。

http://ratings.fide.com/card.phtml?event=739049

 

1993年生まれなので未だ10代の彼女は、2009年に16歳以下のハンガリー女子選手権で優勝し、同年の16歳以下の女子世界選手権に出場して8位となりました。翌2010年には欧州女子選手権に出場。こちらは年齢制限が無く、元世界チャンピオンらが参集する大会(優勝はクラムリン)でしたので79位でしたが、それでも5.5pt/11ときっちり五割の星を収めていますから、ただ者ではありません。そして、なんと、昨年のカペル大会ではWGMのノームを一つ獲得しています。仕事の関係でこの第8ラウンドが最後の試合となる私にとって、最後に最高の相手と当たりました。とても大きな「プレゼント」です。

 

日本に帰国してから調べたら、更にもう一つ、衝撃の事実(と言うと大袈裟ですが)が判明しました。カペル大会ではエントリー時そのままに「WIM」と表示されていましたが、実はそのひと月前、27日から15日にモスクワで開かれたアエロフロート・オープンBクラスに出場したパップさん、自身三つ目となるWGMノームを達成していて、FIDEHPでは既に「WGM」と表示されていました。私はWGMと指していた!

 

当日、会場にて「大物と当たりましたね。うらやましい」とか、「人間は誰でもミスしますから、大丈夫、きっとパップだってミスしますよ」と日本人同僚たちから激励され、背中を押されて試合に臨みました。



                                                           Photo by Nakamura Naohiro
  

KANDA, Daigo (1933)

PAPP, Petra (2296)

Cappelle la Grande 2012(8)

 

ChessBaseに載せられているゲームを見ると、1.d4に対する黒番のパップさんは、ほぼ全てダッチ防御のレニングラード変化を指しています。これは嬉しい。黒で指されて困るラインを白でぶつけ、パップさんの指し方を「盗もう」と勇んで臨みましたが・・・

 

1.d4 d5

がっくり。スラヴかぁ・・・

 

2.c4 c6 3.Nf3 Nf6 4.e3 e6 5.Bd3 Ne4 6.Nbd2 f5

でもやはりダッチ防御のポーン型がお好みのようです。

 

7.0-0 Nd7 8.b3 Bd6 9.a4(86) 0-0 10.Ba3

ここまでずっとノータイムで飛ばして来たパップさんが、ここで少し時間を使いました。ちらっと見ると、両手を額に当て、顔を隠すようにして、うつむいて考えています。プロ棋士たちの大会写真でよく見かける思考のポーズなので、「うわぁ、私を相手にして考えているよ〜」と舞い上がりました(苦笑)。まぁ、試合中にこんなことを感じるようでは、そもそも勝負になりませんね。局後の感想戦でパップさんは「a4からBa3でピショップ交換を目指す手法は、ある手だが、その先の白の指し方が難しい」と教えてくれました。実際、難しさを肌で感じるゲームとなります。

 

10... c5(89)



 

11.Rc1 ?(77)

時間を使って考えた上で指した手ですが、良くありません。正着は11.cxd5 exd5 12.Bb5 Ndf6 13.dxc5 Nxc5 14.Rc1 Nce4 15.Bxd6 Qxd6 16.Nd4 (Fritz)で、a3の黒マス・ビショップをさばき、d5に黒の孤立ポーンを残してそれを標的にしよう、という発想で指すべきでした。

 

11...b6 12.cxd5(73) exd5 13.Qc2(68) Bb7 14.Rfd1(66) Qe7(86)

白はどこかでNf3-e5と跳ねねばならないのですが、どう準備したらいいか分からぬまま、漫然と指し手ばかりが進みます。その間にどれだけ事態が深刻化しているか、私は気付いていません。

 

15.Bb5(60) Ndf6(80) 16.h3(57)

Fritzの局面分析によれば、既に黒がかなり優勢(1.27)

 

16...a6 17.Bf1 Rae8(74)

黒が何を狙っているか、ここまで進んでも私は未だ気付きませんでした。とにかくNf3-e5と跳ねたい一心で指した途端・・・終わりました。

 

18.Bb2(49) Nxf2(69) 0-1

 

代償なくポーンを取られ、陣形もつぶれ形ですから、リザインは当然でしょう。最善は18.Re1と守る手でしたが、以下18...g5 19.Ne5 g4(Fritz)となって明らかに劣勢。もっと前の、中盤の作りに問題がありました。また、パップさんは局後に「18.Ne5と指して来るかと思った」と言っていました。18.Ne5 Bxe5 19.dxe5 Qxe5 20.Nf3と進めば白はポーンを一枚損しますが、悪いながらも駒をさばいてマギレを求めようという、とても実戦的な指し方です。こんな手すら読んでいる所にパップさんの豊富な実戦経験がうかがえます。

 

試合前には、「記念になるから、ボコボコにされて泣きベソかいている姿も写真に撮っておいてね」と同僚に軽口を叩いていた私でしたが、ボコボコにされる時間も無かった(泣)。力量が段違いですから負けるのは仕方ないとしても、もう少し歯ごたえのあるゲームをしたかったというのが率直な感想です。

 

ぶざまな負けで沈み込んだ気持ちを、野口さんが一新してくれました。ハンガリーのWGM、ルドルフRudolf, Anna (2323)さんと渾身のドローです。

 

NOGUCHI, Koji (2040)

RUDOLF, Anna (2323)

Cappelle la Grande 2012(8)

 

1.c4 e5 2.g3 Nf6 3.Bg2 d5 4.cxd5 Nxd5 5.Nf3 Nc6 6.O-O Nb6 7.d3 Be7 8.Nbd2 O-O 9.a3 a5 10.b3 Be6 11.Bb2 f6 12.Qc2 Qd7 13.e3 Rfd8 14.d4 exd4 15.Bxd4 Bf5 16.Qb2 Bg4 17.Bxb6 cxb6 18.Nc4 Qf5 19.Nd4 Qc5 20.h3 Bd7 21.Rac1 Ne5 22.Nxe5 Qxe5 23.b4 Qd6 24.Qb3+ Kh8 25.Bxb7 Rab8 26.Bg2 axb4 27.axb4 Qxb4 28.Qf7 Be8 29.Qe6 Qd6 30.Qg4 Qe5 31.Nf3 Qd6 32.Nd4 Qe5 33.Nf3 Qh5 34.Qe6 Bc5 35.Rfd1 Qf7 36.Qe4 Qe7 37.Qg4 Bd7 38.Qh5 Ba4 39.Rxd8+ Rxd8 40.Nd4 g6 41.Qg4 Bd7 42.Qd1 Qd6 43.Nb3 Ba4 44.Qxd6 Bxd6 45.Nd4 Be5



 

46.Ne6 Rd1+ 47.Rxd1 Bxd1 48.Bc6 Bb3 49.Nd4 Bc4 50.Nb5 Kg7 51.f4 Bb2 52.Kf2 f5 53.Nd6 Bd3 54.Kf3 Ba3 55.Nb5 Bc5 56.Nc3 Bb4 57.Bb5 Bc2 58.Ne2 Be4+ 59.Kf2 Kf6 60.Nd4 Bc3 61.Nf3 h6 62.Ng1 g5 63.fxg5+ hxg5 64.Nf3 g4 65.hxg4 fxg4 66.Nh2 Kg5 67.Be2 Bf5 68.Bb5 Be5 69.Nf1 Bc3 70.Nh2 Be5 71.Nf1 Bc3 72.Nh2 Be5 73.Nf1 Kf6 74.Nh2 Be6 75.Be2 Kg5 76.Bb5 Bc3 77.Nf1 Bb2 78.Nh2 Bc1 79.Nf1 Kf5 80.Bd3+ Ke5 81.Nh2 Bf5 82.Be2 Ke4 83.Nxg4 b5 84.Bf3+ Kd3 85.Ne5+ Kc3 86.g4 Bh7 87.Bd5 Ba3 88.g5 Bc2 89.Nd7 Be7 90.Nf6 b4 91.Ne4+ Bxe4 ½–½

 

中盤のねじり合いからエンディングに進み、白の野口さんがB+Nで、黒はB+B、二枚ビショップの威力を頼りに防御線を突破しようとするルドルフさんと、がっちり受け止める野口さんのやり取りは、そばで観戦していて見応えがありました。ルドルフさんが一手指すたびに「なるほど!こうやって手を作るのか!」と私は感心し、しかしよく見直すと「だけど、その先をどうやって勝つの?」と首をかしげていると、野口さんが迎え討って押し戻し、「そうだよね。これはドローだろう」と思うと、すかさずルドルフさんの二の矢、三の矢が飛んで来ます。勝利を目指すWGM の執念がビンビン伝わりました。結局、80手まで書ける棋譜用紙一枚では足りず、二枚目に達し、250面のボードが並ぶ会場で文字通り最後の一試合となる大熱戦となりました。

 

局後、野口さんは「この局面はドローだろうと思っていても、読んでいない指し手が来ると、ドキッとしますよねぇ。」としみじみ感想を披露してくれました。「でも、受け切れたので、自信になりました」とも。プレイヤーとして大きな財産を得たゲームだったようです。観戦者にとっても至福の時間でした。



                                                           Photo by Nakamura Naohiro
 

昨日までは加速スイス式でしたが、この第8ラウンドから単純スイス式になったため、対戦者のレイティング差が大きい組み合わせが続出します。南條さんの相手は1751、中村(尚)さんの相手は1479でした。勝ったお二人にとっては事実上の「休憩日」でした。

 

篠田さんの相手はマルタさん。苗字は・・・読めません(泣)。Prezezdzidecka, Marta (2250)さん、ポーランドのWGMです。白番で1.d41.c41.Nf3とを使い分ける人なので、黒番の篠田さんはヘッジホッグ(ハリネズミ)を採用することにしました。昨年のカペルで知り合ったフランス人のIMペイアンさんが、昼食を一緒に食べながらヘッジホッグの戦い方を教えてくれたそうです。また、今年のカペルで知り合ったドイツ人のIMスプリンガーさんからは「女性プレイヤーはエンドゲームがヘタなことが多いから、エンドゲームに持ち込め」とのアドバイスをもらって、いざ、出陣です。

 

「準備はしていましたが、実はヘッジホッグを指すのはこの試合が初めてだったのです。普段よりも少し長くオープニングに時間を掛けてしまいましたが、形は上手く作れていたと思います。また、少しでも長く集中して試合に向かうため、この試合ではトイレ以外にはほとんど席を立ちませんでした。」

「お互い明らかにオーバーペースで時間を使い、時間追加である40手になるだいぶ前、25手目頃には既に全然時間がありませんでした。両者の時間が無くなるのとは裏腹に、どんどん局面はシャープになっていきました。相手のミスにも助けられ、割といい感じに試合を運べていたと思います。時間が追加される直前までこちらの良くなる手がありましたが、結局、残り1分のチェスで自分の力ではそれを見付けられませんでした。判断を誤り、時間が追加された時には既に遅し。そのまま負けてしまいました。」

「オープニングの時点でもっと時間を節約できていたら・・・と思う心もありますが、しかしこの試合の時の経験不足な自分では、あれよりも短時間でこの試合を作ることは出来なかっただろうと感じています。経験不足やタイムトラブルでの弱さを痛感しましたが、一方で自分も十分このレベルの相手に戦える、という自信を密かに付けた一局ではありました。結果は残念でしたが、内容は決して悪いものではなかったと思います。」(篠田さん談)

 

WGMに善戦した篠田さん。貴重な経験を積んだようです。

 

そしていよいよ明日は最終日。ここまで色々なことがあったカペル2012でしたが、果たして日本人選手団は「終わり良ければ、すべて良し」となるのでしょうか?[続く]


Cappelle la Grande 2012 -Round 7-

WRITTEN BY

Kanda Daigo

 

プレゼント、あれこれ38日(木)、第7ラウンド]

38日(木)の試合直前、篠田さんがちょっと嬉しいハプニングに見舞われました。

 

彼にとって前日の勝利は、実は余り気分の良くない勝ちでした。勝勢の局面で相手が考え込んだので、気分転換に会場のあちこちを見学してから席に戻って来てみると、相手がいない。そうか、もう指してどっかに行ったのか、と思って自分も考え始めると、「あれっ?」、ナイトが一枚足りない!あるはずの所に、無い!困惑した篠田さん、慌ててアービターを呼び、事情を説明している所へ相手が戻って来て、リザインの意思表示。なんだよ、それ・・・気付かなければ、誤魔化そうとしたのか?

 

白星が付いたけれどもすっきりしない、もやもやした一日を過ごした篠田さんでしたが、翌8日(木)の試合前、その問題の人物が近寄って来て「昨日はごめんなさい。これはお詫びの印です」と言って、ワインを一本くれました!

 

一方的な負けゲームで頭に血が上ったおじちゃん、つい魔が差してしまったけれど、一晩寝て冷静になってみれば深く反省したのでしょう。中国の格言に「過ちて改めざる。これを過ちと言う」があります。過ちを何とか償おうとした努力に免じて、前回のレポートでは敢えて「紳士」と書いた次第です。

 

気分がすっきり晴れた篠田さん、この日の相手はルフィニャックRouffignac, Marie(1657)さんです。私が第5ラウンドで負けかかり、辛くもドローにした相手を、篠田さんは全く寄せ付けずに完勝しました。これで勝率五割に到達!

 

南條さんはル・パップLE PAPE, Valery (1987)さんに楽勝。格下相手とのゲームが続くので、連勝したとは言え、南條さんはやや欲求不満気味の様子でした。ちなみに、この人の苗字を翻訳すると「法王」です。スゴイ名前ですね!

 

野口さんはブルガリアのGMジャネフJanev, Evgeni (2484)さんと対戦。以下の図は、戦いが始まる直前の局面です。


 

                Position after 17...Qd8-e7

 

ここから白のジャネフさんは18.d4 cxd4 19.f4と強引に中央をこじ開けて来ました。eファイルが開けば、ルークが黒クイーンを縦ピンするのでd5のナイトを落とせる。そこに賭けた、思い切った手です。狙いを看破した野口さんは19...Rbd8と一歩も引かずに強く応戦します。続く20.fxe5に対し、20...Ne3を効かせれば黒が優勢となったようですが、実戦では20...Bxe5と単に取ったため、白のパンチ21.Rxe5が炸裂します。以下、盤上のあちこちで駒がぶつかり合う激戦となりました。全棋譜がhttp://www.chessgames.com/perl/chessgame?gid=1659707に掲載されています。

 

22...Rxd6 ?が間違いで、白が主導権を取りました。代えて22...d3なら黒のセンターが厚く、黒優勢だったと思います。また、25.c4 ?もおかしく、25...Rd7 !なら黒優勢です。試合中は全く気付かず、ノータイムで25...Nxc4とやってしまいました。」(野口さん談)

 

この一局、GMの底力を感じた所はどこでした?の問いに対し、野口さんは「特にありません」とキッパリ答えてくれました。「3.g315分使い、18.d4のところでは残り27分と、Janevは無理をして勝ちに来ている印象があります。レート400以上差があるので、なめてしまうのはしょうがないですね。無理をとがめられなかったところに敗因がありました。GMIMといっても間違えないわけではなく、日本人が彼らを神聖視してしまう傾向が弱まればいいのに、と思っています。」と、ゲームを静かに振り返ってくれました。

 

中村(尚)さんはフランスのIM SIMON, Olivier (2323)さんと対戦しました。「Caro-Kann Advance Short Variationになりました。複雑なミドルゲームで、1ポーンを切ってアタッキングチャンスをつくりました。攻めが決まったと勘違いして勝ちにいったら、やや読みにくいタクティクスのカウンターを食らって負け。正確に指していれば強制ドローでした。悔しい試合のひとつです。」

 

最後に私です。昨日まで連日、四苦八苦する姿を哀れに思ってくれたか、チェスの女神様が「プレゼント」をくれました。13手目で相手のルークをタダ取りです。いくら調子の悪い私でも、さすがにこれは勝てます。ちょっと拍子抜けする不思議なゲームでしたが、でもとにかく勝ちは勝ちで、この結果、今大会で初めて勝率五割に到達。喜びのあまり、会場でまだ戦いを繰り広げている日本人の同僚たちを見捨て(ごめんなさい!)、バスに飛び乗りダンケルクに戻った私は、町で一番と評判のケーキ屋さんでケーキを買い込み、部屋で一人、祝杯ならぬ祝ケーキをしたのでありました(笑)。

 

翌日、もっとビッグな「プレゼント」が贈られることを、この時の私は未だ知りませんでした。

(続く)


Cappelle la Grande 2012 -Round 5 & 6-

WRITTEN BY

Kanda Daigo

 

南條遼介vsゼレビュークY.36日(火)、第5ラウンド]

この日は、何と言っても55番ボードが最大の話題でした。南條さんがウクライナのスーパーGMゼレビュークZherebukh, Yaroslav(2642)と対戦です。

 

一昨年のカペル2009の優勝者(!)であり、昨年9月のワールドカップ・ハンティ=マンシスク大会にて、一回戦でエリアノフ(2697)を退けたばかりか、三回戦最大の番狂わせ、「18歳のゼレビュークが、世界王座挑戦者決定戦に出場したマメジャロフに勝った」を演じて一躍世界の注目を集めた棋士です。

出典:<World Cup R3 Tiebreaks: Navara wins, and Mamedyarov falls to Zherebukh>

http://www.chessbase.com/newsdetail.asp?newsid=7510

 

過去に日本人選手が国際大会で対戦したプロ棋士の中でも屈指の“大物”ですが、南條さんは堂々と渡り合います。黒番ゼレビュークのダッチ防御に対してシャープな攻撃ラインを選び、主導権をずっと握り続けた末に指した27.Rd4、「試合中はこれで決まったと思っていましたが、読み抜けがあり」、57手で投了。最後は残念な結果となりましたが、観戦者が周囲をぐるりと取り囲み、固唾を呑んで見守る大熱戦でした。詳しい解説はこちらです。http://chessplayer.jugem.jp/?eid=746

 

 

篠田さんの相手はドュヴェルヌDuverne, Jean-Marie(2144)さん。中年のフランス男性です。序盤で間違えて非勢となり、頑張ってだいぶ盛り返したけれど、「基本は勝ちが無い、ドローを目指すだけの疲れるゲーム」となったあげく、終盤で手番が回って来たから負けになるという、「まるでエンドゲームのスタディのような面白い局面」となってリザインしたそうです。結果は残念でしたが、でも試合内容は濃く、次に期待が膨らみます。

 

野口さんの相手はラフィーユLafeuille, Bernard(1870)さん。「木の葉」という面白い苗字です。腕に覚えのある地元フランス人を、しかし野口さん、軽く一蹴しました。いよいよエンジン全開です!

 

中村(尚)さんの相手はフェレイラFerreira, Jorge Viterbo(2339)さん。ポルトガルのFMです。第3ラウンドの対ガラ戦と全く同じ戦型となり、相手が一手一手に時間を使いながら、考えながら指したのに対し、中村(尚)さんは「序盤からサクサクと指せました」。そのため一時は持ち時間に40分以上も差がついたようですが、「中盤以降、勝ちに行くための方法が分かりませんでした。とりあえず負けないような堅い駒組みをしていたら、駒の交換が進んでしまい、けっきょく白黒ともに手が作りにくい閉じた局面になったので、ドローに落ち着きました」。指し方の分からない難局を、しかし負けない。中村(尚)さんの実力を示す一局でした。

 

私の相手はフランスの13歳のお嬢さん、ルフィニャックRouffignac, Marie (1657)さんでした。U12のフランス選手権に二回(2009,2010)出場したりしていますので実戦経験は豊富そうですが、どうやらあまり定跡には明るくないようで、シシリアン防御から黒の私が難なく主導権を取りました。正直に言って、「やはりまだ若いな。1657の子なんだな」と思ってしまいましたが、その楽観が災いの元でして、「ここが決め所」と思って踏み込んだ手が実は大悪手で、たちまち白の全軍が躍動し、私のキングに殺到して来ました。敗色濃厚でしたが、最終盤でルフィニャックさんが間違えたため、かろうじて首の皮一枚つながってドローとなりました。

 

しかしそれにしても、「なんで一手であんなに悪くなるんだ?」と腑に落ちなかったので、宿舎に戻ってからFritz君に局面解析をお願いしましたら、なんと「白が指しやすい」(0.64 by Fritz)とおっしゃる。あらま。冷静な目でもう一度、じっくり局面を見直すと、なるほど、と一応うなずけました。均衡した局面で“決めに出た”のが暴発だったわけです。実戦では「盤面を見て考える」のが肝心で、相手のレーティングなど、他の要素を考慮に入れるのは禁物だと改めて思い知りました。いい勉強になった(はずの)ゲームでした。

 

野口、2382FMを撃破37日(水)、第6ラウンド]

大会六日目の第6ラウンドは、日本選手団にとって最高の一日となりました。5人で41分の4.5ポイントを取ったのです!

 

特に素晴らしかったのが野口さんです。フランスの39歳のFMカリストリCalistri, Tristan(2382)さんと対戦。66番ボードなので、日本選手のこの日の最高位です。ゲームは野口さんお得意の、フィアンケットした総力戦となりました。駒と駒があちこちで複雑にぶつかり合う中、27手目にルークを切り飛ばしました。盤面の緊張が一気に高まり、断崖絶壁の綱渡りです。将棋解説でよく言われる「一手指した方が優勢に見える」難解な局面で、野口さんは二回目のサクリファイスを敢行!四時間を超える激戦をついに制して勝ち名乗りを挙げました!!ルークを切ってビショップを取る交換損が一局に二回ある試合なんて、私は見たことがありません。「これまで勝った相手の中で一番レーティングが高かった」そうで、自己ベストを更新するというおまけつきの大金星でした。馬場さんの総括「Fantastic Noguchi-san!!」はまさに至言です。http://chessplayer.jugem.jp/?eid=747

 

 

南條さんの相手はマルツェフMaltsev, Leonid(1907)さん。二日目に私が注目したウクライナの少年です。下位の相手には危なげなく勝ちを重ねる強い少年も、好調の南條さんが相手ではひとたまりもありません。「今日は“仕事した”気はしません」という楽勝でした。

 

篠田さんは銀髪のフランス「紳士」(1682)を“秒殺”しました!対局開始してから一時間ほどたった頃に見学に行ったら、もう盤と駒が片付けられていたので驚きました。時間にたっぷり余裕ができたお蔭で「今日は強い人たちのゲームをゆっくり観戦できました」と語る篠田さん、ひたむきにチェスに打ち込む姿はとても頼もしく、これからますます強くなる人でしょう。(ちなみに、なぜ相手が「紳士」なのかは、明日のレポート参照)

 

私の対戦相手はフランスの中年男性モーパンMaupin, Gervais(1731)さんでしたが、篠田さんとは対照的に、冷や汗をかかされました。序盤から主導権を取ったものの、思い切って踏み込んだ手がまたもや悪手。まったく、バカにつける薬はありません(泣)。1ポーン損に加えて相手の猛攻撃を食らいましたが、懸命に踏んばっている内に相手がミスを重ね、ビショップ対ナイトのエンディングに突入。74手で辛くも逆転勝ちしました。もしも負けようものなら日本選手団最高の日に水を差す羽目となり、いわゆる“日本に帰れない”身となる所でした。危なかった・・・

 

中村(尚)さんはウクライナの32歳、ゾズリアZozulia, Anna(2342)さんとドロー。日本人選手五人の中で「そうかぁ、俺だけドローかぁ」ととても残念がっていましたが、相手はWGMですよ!こんな相手とドローにしたのが“悔しい”と言うんですから、今大会の彼がいかに高いレベルで指しているかを如実に示します。ゲームは「準備通りのKing’s Indian Fianchettoに持っていくことが出来ましたが、相手のうまい指しまわしで、() Q+R+B+B (相手)Q+R+R+2P のやや不利なエンドゲームに突入しました。しかしダブルビショップが予想以上に堅く、カウンターチャンスを見せることが出来たため、ドローになりました。」

 

試合後、会場に併設された食堂で夕食が供され、大会ボランティアのおじさん、おばさんがいつも甲斐甲斐しく給仕してくれます(フランス式にスープ、メイン、デザートを順番にテーブルに出す方式)。選手の顔色とか雰囲気からその日の結果が分かるんでしょうか、今日は特に冗談とか、あれこれ話しかけて来る気がしました。特に篠田さんは「飲むとすぐに顔が真っ赤になるカワイイ坊や」として、おばさんたちのアイドルになってました!

 

こうして日本人五人は意気揚々と宿舎のホテルに引き揚げました。大会も残りわずか3試合。さぁ、もうひと頑張り!

[六日目に続く]

 

****************************************************
ミニコラム:永遠のヒーロー

 

カペル・ラ・グランドのようなビッグな大会に出る楽しみは、自分が試合することに加え、これまで雑誌の顔写真でしか見たことの無かったプロ棋士を生で見られることです。将棋に例えれば、大会に出たアマ初段が自分の試合中にふと顔を上げると、向こうの方で瀬川四段vs田丸八段、先崎八段vs畠山七段の竜王戦が行われている、という感じでしょう。いくらボードが遠く離れているとは言え、プロと同じ屋根の下で盤を並べて試合するなんて、アマチュアにとっては夢のような体験です。

 

チェスを始めてから30年このかた、シシリアン定跡の黒番ではシュヴェシニコフ変化(B33)を愛用して来た私にとって、ラトヴィアのシュヴェシニコフGMは永遠のヒーローです。1950年生まれなので御年62歳。最近のカペル大会の写真で見つけて注目していましたが、今回、初めてご本人を拝見。「この人なんだ・・・とうとう会えた・・・」と、間近で見詰める私の眼には星がキラキラ輝いていたはずです(笑)。

 

初日の第1ラウンドが開始してから四時間近くたった頃、そのシュヴェシニコフGMが対局場で(周囲のゲームがもう終わっていることもあり)小声で局後の検討をしていましたので、見に行きました。対戦相手の女性が節目の局面を一つずつ、最終盤から中盤へとさかのぼりながら変化手順を丹念に調べて行き、シュヴェシニコフGMもそれにいつまでも付き合います。

 

後で結果表を見てビックリ。相手の28歳のお嬢さんが勝っていました!WIMのドルハノヴァDolukhanova, Evgeniyaさんでした。2009年のウクライナ女子チャンピオンで、昨年アルメニアに移籍した人です。いくら初戦には番狂わせが多いからって、よりによって・・・と私はとても口惜しかったのですが、日本人が敵討ちしてくれました。最終日の第9ラウンドで中村(尚)さんがドルハノヴァさんを破ったのです GMに勝った人に勝った!!

 

余談ですが、シュヴェシニコフさんの名前はEvgeny、ドルハノヴァさんはEvgeniyaなので、同名です。日本語で言えば「正男vs正子」の勝負でした。

 

参考:ドルハノヴァさんのプロフィル

http://ratings.fide.com/card.phtml?event=14112035

アルメニアへの移籍を報じる記事

http://www.chessdom.com/gm-dragan-solak-and-wgm-evgeniya-doluhanova-change-federations/


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