White to move
今日はチェス曜日のblogで目にとまったポジションです。川中さんも「ドローっぽい局面」と言うように、私もそう感じました。マテリアルはイコールですし、白黒両方ともポーンストラクチャーに弱点はありません。駒の位置にも差はないように見えます。しかし、ここに面白いタクティクスが潜んでいました。
1.b4
川中さんによると、「罠のつもり」。1...Qxc3? には2.Rc1! でc6のナイトが落ちるということです。もちろん、一発狙いですから川中さんはこの手に「?!」をつけています。私は即座に「?」をつけました。白のクイーンサイドのポーンストラクチャーを著しく傷つけるからです。「自分から弱点を作らないこと」というのはチェスにおいては鉄則で、この手はそのルールに反します。
代わりに私は1.h4!? を考えました。バックランクメイトを防いでおくことは悪いことではありませんし、Nf3-g5からQxh7#の準備にもなっています。さらに、g3-Kg2とすれば白のキング周りは一歩前進です。「何をやっていいか分からない時は駒のポジションを少しでも良くすること」というのは日本コーチのMishaがよく口にするアドバイスです。「イコールに見えるポジションの時は無理して仕掛けるのではなく、小さな前進をすること」ということです。
しかし、ここで満足して局面の検討を終わらせると先はありません。もう一度1.b4を考えました。世の強いマスター達はこういう明らかにルールに反するような手も切り捨てないで考えます。
1...Qb5
昨晩、このポジションを検討している時、私は2.c4を考えました。クイーンを端っこに追いやり、黒キングへダイレクトなアタックを作ります。
2.c4 Qa4 3.Rxd8 Rxd8 4.Ng5 g6 5.b5! (d8のルークを浮かせる) 5…Nd4 (5...Ne7 6.Nxe6! fxe6 7.Qxe6+ Kf8 8.Qf6+ Ke8 9.Re1 Rd7 10.Qh8+ Kf7 11.Qxh7+は白攻勢) 6.Qh4 h5
7.Nxf7!
白クイーンがd8のルークに利いているのでこのナイトは取れません。一瞬のうちに黒キング前が崩壊し、これは白が勝つ形です。
しかし、ここで白勝ちと結論付けてはいけません。3…Rxd8の代わりに3…Nxd8もあります。
3...Nxd8!
4.Ng5 g6 (4…f5!?) 5.Qh4 h5 6.g4!?
白は黒のキングサイドを崩しにいきますが、黒には十分なディフェンスがあります。
6...f6! (6...Qxa2? 7.gxh5 gh5 8.Qxh5 Qc2 9.Kh1!はgファイルからのアタックが厳しい) 7.Ne4 g5! 8.Qxh5 Kg7
これでどちらにもチャンスがあると思います。
昨晩はここで「1.b4もありだな」と結論付け、満足して眠りについたのですが、今朝あらためてポジションを眺めていると、驚愕の事実に気が付きました。
2.a4!
昨晩は2.c4しか考えていませんでしたが、この手がありました!
2...Qxa4 3.Ra1 Qb5 4.c4!
なんと、c6のナイトが落ちます! つまり、1.b4はピースアップにつながるコンビネーションの第一歩であり、1.b4?!でも1.b4?でもなく、1.b4!! だったのです。
自分の第一感は時に信じ、時に疑ってみる必要があるということですね。