Slav Defenceの世界-part15- by 小島慎也

Bg4! Introduction



今回は白が
d4c4を遅らせた上で、フィアンケットを組んできた際に利用できるSlavの組み方を扱いたいと思います。私のお勧めする黒の組み方のポイントは、早い段階でBg4と指して、白マスビショップを展開するものです。part15はその導入編として基本的なアイディアをご紹介し、棋譜を交えた解説は次回行います。

 

1.Nf3 d5 2.g3 Nf6 3.Bg2 c6 4.0–0 Bg4!



 

私がこのセットアップを初めて見たのは、2003年柏オープンの松井−塩見戦だったと記憶しています。中学3年生だった当時は、この手が持つ狙いをあまり考えませんでしたが、たくさんの試合を見て自分でも指すうちに、段々とこの手に対する理解が進むようになりました。そこで、この手を初めて見る人が思い浮かべる可能性のある疑問を、以下の3つのようにまとめてみました。

 

(Q1) なぜピンでもないのに、ナイトにビショップを当てるのか?

(Q2) 4…Bf5と何が違うのか?

(Q3) 白が次に5.Ne5と指せば、ナイトをセンターに進められるうえ、ビショップをアタックすることができるので、白にとって都合が良いのではないか?

 

これら3つの疑問に対する私の見解は以下の通りです。

 

(A1) 黒が4…Bg4と指す狙いは、白マスビショップをポーンチェーンの内側に閉じ込めることなく、アクティブに使うことにあります。黒は4…e6と組むこともできますが、その場合はキャスリング後に、白マスビショップの活用方法に頭を悩ませることでしょう。またf3のナイトは、4…Bg4の時点ではピンではありませんが、白がKing’s Indian Attackの駒組みd3-Nbd2-e4を取った場合にピンとなります。さらにはピンにならずとも、f3のナイトに圧力をかけることで(時にはBxf3と取ることで)e5,d4のマスを多少なりともコントロールすることができます。

 

(A2) 日本で4…Bf5の試合と言えば、Dresden Olympiad ルーマニア戦でのVajda-Sano戦を思い出すかもしれません。ポーンチェーンの外でビショップを使うという点では、4…Bg44…Bf5も同じです。しかし、私は4…Bf5を好みません。なぜならば、白がdポーンをd3で止めるか、d4まで進めるか、まだ分からないためです。Mishaの言葉を借りれば、「黒の4…Bf5に対して白はd3-Nbd2-e4と組み、黒はh6-Bh7とビショップを退くだろう。


                          Vajda,L-Sano,T

                          Dresden Olympiad(3)


このような駒組みはよく指されるが、黒の白マスビショップは一時的に
out of playになってしまう。」とのことです。私もこれが嫌であるため、4…Bf5を指しません。ただし、白が早い段階でd4までポーンを進めているならば、黒はビショップをf5に置いても構わないでしょう。



 

h7-b1のダイアゴナルを支配する白マスビショップは非常に強力です。特にe4のマスに利いているため、黒が将来的にNe4と跳びこむサポートになるでしょう。

 

最後のQ3に対する回答は非常に重要で、このポジションでの大きなポイントだと言えるでしょう。

 

(A3) e5は確かにf3のナイトにとって、次に跳ぶ良いマスだと言えます。しかし、あまりに早い段階で跳びこむのはどうでしょうか。5.Ne5 Bh5 6.d4 Nbd7 と進めば、黒は容易にナイトをぶつけ、ナイトを1枚交換するチャンスを得ます。

 


 

このようなピース交換は、スペースの狭い黒にとってありがたいことです。ピースはセンターで良い働きをする、というのは重要な基本ですが、すぐにそのピースを消されてしまうのでは意味がありません。白がナイトをセンターに進めるべき適切なタイミングは、d4-Nbd2-b3-Bb2などと組み、十分に準備をした後だと言えるでしょう。

 

以上がQ1~3に対する私なりの回答です。他にもこういった要素が考えられるのではないか、こういったことが疑問だ、と意見のある方はコメントをよろしくお願いします。


Slav Defenceの世界-part14- by 小島慎也

Part 14では前回に引き続き、1.d4 d5 2.c4 c6 3.Nf3 Nf6 4.Qc2!?の一変化をご紹介します。

 

Tran Tuan Minh (2203,VIE,FM)

Kojima Shinya (2312,JPN,FM)

First Saturday March 2010 (6)

 

私が見る限り、ベトナムや中国、イスラエルといった国は、若いプレーヤーがトッププレーヤーの試合をよく勉強し、時には共同で研究することでオープニングの知識を高めています。私がハンガリーで試合をしたTran Tuan Minh1994年生まれの非常に若いプレーヤーであり、Nguyen Ngoc Truong Sonと同じオープニングを使ってきました。おそらく私とNguyenのドレスデンでの試合も研究済みだと思います。

 

1.d4 d5 2.Nf3 Nf6 3.c4 c6 4.Qc2 dxc4 5.Qxc4 Bg4!?




今回、
5…Bf5に代わりご紹介するのは、こちらの手です。ビショップをナイトに当てつつ展開することで、Nbd2と指させることを目的とします。すると白は黒マスビショップをどう展開するか、一工夫必要になります。

 

6.Nbd2

 

ここは6.Nc3!? Nbd7 7.e4 Bxf3 8.gxf3 e5と進め、ポーンストラクチャーが乱れることを承知で、センターの厚みで勝負するのも一つの手です。また黒は、6.Ne5?!と指されても、6…Be6と退いてクイーンを攻撃しつつf7を守れるので、特に問題はありません。次回のPart 15ではf3のナイトとg4のビショップについて詳しく解説をする予定です。

 

6...Nbd7 7.h3!?

 

おかしいアイディアではありませんが、初めて見る手でした。5…Bf5の変化と同様、キングサイドにフィアンケットを組んでキャスリングするのが一般的です。

 

7.g3 e6 8.Bg2 Be7 9.0–0 0–0 10.Qb3 Qb6 11.Nc4 Qa6 (11…Qxb3!?)12.Bg5 h6 13.Bxf6 Bxf6 14.e3 Rad8 15.Rfc1 Bxf3 16.Bxf3 e5 17.dxe5 Nxe5 18.Nxe5 Bxe5= ½–½ Hellsten –Bareev EU-Cup 19th Rethymnon 2003

 

7...Bh5 8.g4!?

 

この手には少し驚きです。白はビショップを追い返しつつ、Bg2の準備を進めることができますが、b8-h2のダイアゴナルが弱くなってしまう、というデメリットを抱えます。特にf4のマスは、黒のピースに侵入されないよう注意を払わなければいけません。

 

8…Bg6 9.Bg2 e6 10.0–0 Nd5 11.Qb3

 

このクイーンを退く手は5…Bf5の変化でも見られました。ここではb7を攻撃するだけでなく、c4のマスにナイトを動かせるようにしています。

 

11…N7b6

 

11...Nf4!? 12.Qxb7 Nxe2+ 13.Kh1 Qc8 14.Qxc8+ Rxc8 と進める変化は、c6が弱くなるのを嫌って指しませんでしたが、白のd4も弱いため、形勢は互角だと考えられます。

 

12.Nc4 Nxc4 13.Qxc4 Bd6 14.Ne5!




b8-h2
のダイアゴナルを閉じることで、黒マスの弱さをサポートする良いアイディアです。

 

14…0–0 15.Nxg6?!

 

この手は変だと感じました。白にとって怖い黒のピースは、白マスよりも黒マスのビショップです。そのため、e5にはナイトを残しておき、黒マスビショップのダイアゴナルを閉じたままにしておくほうが自然です。15.e4 Nb6 16.Qc3と指せば白がやや優勢で試合を進められたでしょう。

 

15...hxg6 16.f4!?

 

これも評価の難しい手です。f4のマスは守りましたが、a7-g1のダイアゴナルや、キング周辺の守りを弱めてしまいます。また、黒マスビショップをどのように使うのか、という問題も残ります。

 

16…Rc8 17.Qb3

 

17.e4 Nb6 18.Qb3 c5 と進んでセンターを厚くされても、cポーンを突くことができれば、黒は十分な反撃ができるでしょう。

 

17...Qc7 18.e3 Rfd8

 

白にe3を突かせることで黒マスビショップの働きを悪くし、c5を突く準備としてルークをセンターに回しました。この時点ですでに黒が十分だと考えていましたが、次に全く予想していない手を指されます。

 

19.e4!?




f4
を守るために3段目に留まったeポーンが、次の手で前進してきました。始めは何事かと目を疑いましたが、よくよく考えてみれば白の狙いを理解することができます。そもそも一手前に白が18.e4?と指さなかったのは、18…Nxf4 19.e5 Ne2+ 20.Kf2 Nxd4 21.exd6 Nxb3 22.dxc7 Nxa1と進んで駒損になるからです。しかし、18…Rfd8と指した後の19.e4ならば、c7のポーンがd8のルークに当たることとなります。しばらく時間を使って考え、ナイトを退くのでは面白みがないので、ピースを捨てる決断をしました。

 

19…Nxf4! 20.e5 Ne2+ 21.Kf2 Nxc1!?

 

この局面では黒は何らかのピースを捨てざるを得ませんが、どれを捨てるのがベストなのかは判断の難しいところです。私は白の黒マスビショップが強力なディフェンダーになると考え、c1を取ることにしました。

 

a)21...Bxe5!? 22.Kxe2 (22.dxe5 Qxe5 23.Be3 Qg3+ 24.Kxe2 Qxg2+ 25.Rf2 Qxh3 26.Qc4=) 22...Bxd4 23.Bf4=

b)21…Nxd4 22.exd6 Rxd6 23.Qc4=

 

22.exd6 Qxd6 23.Rfxc1?!

 

ここではすぐにピースを取り返すしかないように見えますが、23.Qc3!という手がありました。

以下23…Qxd4+ 24.Qxd4 Rxd4 25.Raxc1 Rd2+ 26.Kg3 Rcd8! (26...Rxb2 27.Rcd1) 27.Rb1 ならば、3ポーンピースで形勢不明です。

 

23...Qxd4+ 24.Kf1 Qf6+ 25.Qf3

 

黒は白キングが不安定であることを利用し、b2を取って4ポーンピースにします。

 

25...Qxb2 26.Kg1 Rd2 27.Rf1 Rc7 -/+

 



このような局面では
4ポーンピースという駒数だけでなく、お互いのピースとポーンがどのような働きをしているか、また狙われる駒はないか、に着目すると良いでしょう。黒はポーンが7つ残っていますが、落ちないように注意する必要があるのはf7b7なので、7段目にルークを一つ置いておけば安全です。

 

28.Rad1 Rcd7

 

ここは欲張ってa2を取ってはいけません。28…Qxa2? 29.Rxd2 Qxd2 30.Rd1!と進み、dファイルを奪われてしまいます。するとc7のルークが試合に参加しておらず、キングも危険なため、一転して白が優勢になります。

 

29.Rxd2 Qxd2 30.Rf2 Qd4!

 

ここでは30…Qd1+でクイーン強制交換ができますが、黒はこれを急ぐ必要はありません。7段目に置いているルークのおかげで、黒はf7をさほど気にせずとも大丈夫です。ならばクイーン交換は、クイーンサイドのポーンをなるべく進めてからにすべきです。

 

31.Kh2 c5 32.Qg3 a6 33.Bf3 b5 34.Kg2 Qd6!




ここまでポーンを進めた後、クイーンを交換すれば、黒は特に不安なくポーンを進めることに集中できます。

 

35.Rc2 Qxg3+ 36.Kxg3 c4 37.a4 Rd6 38.Kf4 Kf8 39.Ke3 Rd3+ 40.Ke2 Rb3 41.Bb7

 



黒はキングを前進させつつ、キングサイドでもポーンを進めればどちらにせよ勝勢ですが、ここでのルーク交換は黒の勝ちを早めてしまいます。

 

41…Rxh3 42.Bxa6 Rh2+ 43.Kd1 Rxc2 44.Kxc2 bxa4 45.Bxc4 Ke7

 

こうなれば、黒はaポーンを取らせている間にキングサイドのポーンを進めて勝ちとなります。

 

46.Kd3

 

46.Bb5 a3 47.Kb3 f5 48.g5 e5 49.Kxa3 Kd6 50.Kb3 e4 51.Kc3 Ke5 52.Be8 Kf4 53.Bxg6 Kxg5 54.Be8 Kf4 55.Kd2 Kf3–+

 

46...f5 47.g5 Kd6 48.Kc3 e5 49.Bf7 e4 50.Kd4 a3 51.Ba2 Kc6 52.Bf7 Kb5 53.Ba2 Kb4 54.Bf7 e3 0–1

 



f5
にあるプロテクテッドパスポーンのおかげで、黒はeポーンを捨ててもa2でビショップを取り、キングサイドにキングを戻して勝ちとなります。

55.Kxe3 Kc3 56.Kf4 Kb2 57.Ke5 a2 58.Bxa2 Kxa2-+

 

5…Bf55…Bg4のどちらが優れているかは、一概には言えません。次回扱う予定のKing’s Indian Attack対策のSlav組みの解説の中で、Bf5Bg4の違いについて多少触れるつもりですので、それも参考にしたうえで考えていただきたいと思います。また、私は5…Bf5Play the Semi-Slav (QUALITY CHESS,2008 )で、5…Bg4Play the Slav (EVERYMAN CHESS,2008) で勉強しました。このラインに興味のある方はぜひ読み比べてみてください。


Slav Defenceの世界-part13- by 小島慎也

今回から二回連続で1.d4 d5 2.c4 c6 3.Nf3 Nf6 4.Qc2!?という変化をご紹介したいと思います。Slav PlayerSlavに対して何を指そうか迷っている人には、ぜひ参考にしていただきたいと思います。

 

Nguyen Ngoc Truong Son (2567,VIE,GM)

Kojima Shinya (2272,JPN)

38th Olympiad Dresden 2008 (4)

 

この試合は短手数でドローになったため、ドレスデンでの日本チームの試合の中でも、さほど注目されなかったと思います。しかし、私にとってはベトナムの強豪からポイントを奪った貴重な一試合です。

 

1.Nf3 d5 2.d4 Nf6 3.c4 c6 4.Qc2!?




この手の狙いはシンプルに
c4を守り、dxc4に対してクイーンでポーンを取り返せるようにすることにあります。序盤でクイーンを動かしすぎるな、という原則には反しますが、4.e3と異なり黒マスビショップのダイアゴナルを閉じてしまわないことがポイントです。

 

4…dxc4

 

ここでは他にも2つほど代表的な変化があります。

 

a)4…e6 5.g3 Nbd7 6.Bg2 Be7 7.0-0 0-0 8.Nbd2 b6 9.e4と進めばCatalan Closedの一変化になります。これは私も白で何度か指したことがあります。

 

b)4…g6!? 5.Bf4 Bg7(5…Bf5 6.Qb3) 6.e3 0-0 7.Nc3 Na6 8.Be2 c5 9.0–0 cxd4 10.exd4 dxc4 11.Bxc4 Bg4= ½–½ Romanishin-Kasparov URS-ch49 Frunze 1981

 

5.Qxc4 Bf5

 

黒はポーンチェーンに閉じ込めることなくビショップを展開でき、大きな不満はありません。もう一つの変化である5...Bg4は、次回扱います。

 

6.g3

 

白はキングサイドにフィアンケットを組むことで、黒マスビショップの位置を確定させる前にキャスリングすることができます。しかも、c4はすでに取り返しているため、安心して白マスビショップをg2に配置することができます。

 

6…e6 7.Bg2 Nbd7 8.Nc3 Be7 9.0–0 0–0 10.Re1 Ne4

 

白にe4を突かせてしまうと、スペースアドバンテージを与えてしまううえ、黒の白マスビショップも使いづらくなってしまうため、ここはきっちりとe4を止めます。

 

11.Qb3 Qb6 12.Nh4!

 



このラインでの特徴的な手です。一見すると、
e7のビショップが利いているh4にナイトを跳ばすのは、取られた際にポーンストラクチャーが乱れるため、12.Nh4は妙な手に思えます。しかし、ナイトを取ってしまうと黒はe4のナイトをキープすることができず、白はセンターの厚みで優位に試合を進めることができます。

 

12…Qxb3!?

 

Nguyen Ngoc Truong Son4.Qc2を好むことは事前に調べていたので、Mishaと共に準備をしていた手です。ここでは他にもいくつかの変化があります。

 

a)12…Bxh4 13.gxh4 Nef6 14.e4 Bg6 15.Qxb6 axb6 16.Bf4 Rfe8 17.Rad1 b5 18.Bd6 e5 19.d5 Nh5 20.Bf1 f6 21.b3 Nf4 22.a4 bxa4 23.bxa4 Bf7 24.Rb1 Ra7 25.Red1 Rc8 26.Ne2 Nxe2+ 27.Bxe2 cxd5 28.exd5 Nf8 29.Bb5 Raa8 30.Be7 Ng6 31.d6 Nxe7 32.Bd7 Nc6 33.Rxb7 Nd4 34.Bxc8 Rxc8 35.Rdb1 Rf8 36.Rb8 Be8 37.a5 Nf3+ 38.Kf1 Nd2+ 39.Ke1 Nxb1 40.a6 Bc6 41.a7 Kf7 42.d7 Ke7 43.Rxf8 Kxd7 44.a8Q Bxa8 45.Rxa8 h5 46.Ra7+ Ke6 47.Rxg7 Kf5 48.Rg3 1–0 Aronian –Anand Morelia/Linares 2007 個人的にはこの試合でAronianが勝利を収めたことで、12.Nh4は大きく注目されるようなったのだと考えています。

 

b)12…Bb4!? 13.Nxf5 exf5 14.Qc2 Qxd4 15.Bxe4 Bxc3 16.Rd1 Qxe4 17.Qxe4 fxe4 18.Rxd7 Bf6 ½–½ Nguyen,N-Zhang,Ziyang Manila Pichay Cup 2008

 

13.axb3 Bb4 14.Bxe4!?

 

この手は驚きでした。14.Nxf5 exf5 15.Bxe4 fxe4 16.Bd2と端に跳んだナイトを消すほうが自然に思えます。

 

14...Bxe4 15.Ra4!

 

この手以外では15…Bc2と指され、b3のポーンが落ちてしまいます。

 

15…Bxc3 16.bxc3 c5!=




ビショップの退くマスを確保し、黒に不満の無い展開です。しかし、
c5が突けるかどうかは慎重に読みました。

 

17.dxc5 Nxc5 18.Rc4 b6

 

b4でナイトを追い払い、ビショップ取りがスレットになっているため、ナイトを守る方法は18…b6以外ありえません。

 

19.Ba3 Bd5 20.Bxc5 bxc5 21.Rxc5 Bxb3 22.Ra1 h6

 

ここではまずバックランクメイトを外しましたが、試合後、Misha22...Rac8! 23.Rxc8 Rxc8 24.Rxa7 h6=という手がよりシンプルだと指摘されました。確かにa7を取らせてしまってもすぐにc3を取り返せるならば、黒には何も問題はありません。

 

23.Ra3 Rfb8 24.f4 Bd5 25.Kf2 Rc8 26.Rca5 Rc7 27.Nf5

 

この手にはひやりとしました。ずっと使えていなかったナイトがここにきて参戦するとなると、多少厄介です。しかし、しばらく考えた後、ドローで構わないのであればナイトとビショップを交換してしまえば良いことに気付きました。

 

27…exf5 28.Rxd5 g6 29.Rda5 Rac8 30.Rxa7 Rxa7 31.Rxa7 Rxc3= ½–½




黒にはダブルポーンがありますが、
f5のポーンはeポーンの前進を止める役割を果たしており、白にはパスポーンを作るプランがありません。加えて、お互いに狙えるポーンもありません。規定の30手も超えたためドローオファーをしてみたところ、すぐに手が差し伸べられ、ドローとなりました。

 

さて、4.Qc2の特徴は何であるかと言えば、この試合を見ても分かる通り、白が使いづらいピースを抱えることなく、穏やかに試合を進められることでしょう。これはSemi-SlavBotvinnikAnti-Moscowのような激しい変化を嫌うプレーヤーにとってはありがたいことです。しかしそれは一方で、ゆるい手を指せば黒に簡単にイコアライズされてしまう、ということでもあります。1.d4を指すプレーヤーには様々な変化を勉強し、お気に入りの指し方を見つけてほしいと思います。


Slav Defenceの世界-part12- by 小島慎也

また前回からずいぶんと間が空いてしまいました。今回はAnti Slavの一変化を取り上げ、その対策をご紹介します。これはQueen’s Gambit Playerでも使うことのできるアイディアですので、Slav Player以外にも読んでいただきたいと思います。

 

Guerreiro,N(2076,POR)

Kojima,S(2307,FM)

Cappelle la Grande 2010(2)

 

1.d4 d5 2.Nf3 Nf6 3.Bf4!?

 

ビショップをf4で使う試合は、1.d4のメインを外すアイディアとして時々見られます。白はe5のマスを将来的に活用できれば、アドバンテージを取れるでしょう。しかし、黒はd5のポーンに圧力をかけられていないことを利用し、普段白が使うようなアイディアで手を作れば、特に大きな不満はないと考えています。

 

3…c5! 4.e3 Nc6 5.c3

 



この形は
Slav Defenceの世界 Part5でご紹介した1.d4 d5 2.c4 c6 3.Nf3 Nf6 4.e3 Bf5 5.Nc3を逆にしたものと似ています。


 

 

しかし本譜の変化ならば、黒が白マスビショップをポーンストラクチャーの外で使える可能性が残っています 。よくReversed ~~といったように、黒のオープニングを白で一手早く使えば単純に白が優勢になると考えている人もいますが、一手遅れていることによるメリット(このラインであれば、ポーンをまだ突いていないのでビショップが使いやすい)もあるのです。

 

5…Qb6!

 

白黒にかかわらず、クイーンでbポーンを狙うのは、相手がクイーンサイドのビショップを早い段階で動かしてきた際に有効なアイディアです。黒はSlavの一変化を白で指していると考えても、単にAnti Slavの一変化を指していると考えても良いすが、Slavを白でも指すことができるならば、この局面での黒の手の作り方を理解しやすいのは間違いないでしょう。

 

6.Qc1

 

この手は初めて見ました。私の知っていた変化は6.Qb3 c4 7.Qc2 Bf5! 8.Qc1と進み、わざと黒にcポーンを突かせてd4への圧力を弱めるというものです。黒としては白マスビショップをb1-h7のダイアゴナルで利かせることができるならば、大きな不満点はないでしょう。本譜でも同じアイディアを使います。

 

6...Bf5 7.Be2 e6 8.h3

 

8…Nh5からのビショップとナイトの交換を避ける準備です。黒もこのような交換を嫌うのであれば、7…h6と指すでしょう。

 

8…h6 9.Nbd2 Be7 10.0–0 0–0 11.Nh2?!




このナイトのマヌーバリングは妙です。白はクイーンが
b2を守るために不自然なマスにいるため、クイーンサイドのルークが使えていないことがメインの問題であり、それを解決するように指すのが自然です。11.dxc5から局面を開き、どこかでc4突きを狙うほうが良いでしょう。

 

11…cxd4 12.exd4 Rac8=/+

 

クイーンがc1という若干不自然なマスにいることを利用してd4を狙います。ここで初めて多少の優勢を確信しました。

 

13.Ndf3 Rfe8!




この試合で最も頭を使った手です。白が
e4のマスのコントロールを失ったことで13…Ne4が指せそうですが、本譜の手で待たれると白には指せる有効な手がほとんどありません。aポーンを突けばb3のマスが弱くなり、bポーンを突けばc3が弱くなります。そしてクイーンはb2の守りから離れられず、どちらのナイトも動けばポーンが落ちてしまいます。もちろんh6を切るのもやりすぎです。

 

14.Rd1 Ne4 15.Ng4

 

白は14…Ne4のおかげでようやくg4にナイトが跳べるようになった、と考えたかもしれませんが、これこそ黒の望む展開です。15.Nf1からナイトを組み直すほうが良いでしょう。

 

15…Bxg4 16.hxg4 e5

 



これこそ
13…Ne4と急がなかった理由です。ルークがf1から動くのを一手待ったおかげで、黒はf2を狙えるようになっています。もちろんe8のルークは手待ちだけでなく、e5をつくサポートの役目も果たしています。

 

17.Nxe5?

 

ここは17.Be3! exd4 18.Nxd4 Bc5! と指していれば、ピースのポジションの良さで黒が優勢ながら、白は試合を続けられたでしょう。本譜では白には全く望みがありません。

 

17…Nxe5 18.Bxe5 Bg5 19.Qc2

 

19.f4 Bh4!(f6)-/+,19.Bf4 Bxf4 20.Qxf4 Qxb2-/+

 

19…Rxe5-+




20.Bc4 Rxc4 21.dxe5 Nxf2 22.Rxd5 Nxg4+ 0–1

 

1.d4プレーヤーの中にはメインラインの勉強を嫌い、ColleStonewallを指すプレーヤーも多くいるでしょう。確かにそれらも悪い選択肢ではありませんが、黒がきちんと勉強をしていれば、特にオープニングで不満を感じることはないと思います。1.d4の試合では、d4c4にポーンを並べ、スペースとセンターのマスを確保によりアドバンテージを得ることが、白にとって重要であると私は考えます。そんなことが改めて実感できる試合でした。


Slav Defenceの世界-part11- by 小島慎也

ずいぶんと間が空いてしまい申し訳ありません。前回の予告ではd5-c6-Bg4のセットアップを紹介すると告知しましたが、予定変更です。今回はSemi-SlavShabalov Gambitの特集をお送りします。このオープニングは昨年の北京WMSGで対戦したフィンランドのGM Nyback(ニューバック)が得意とし、彼との試合では貴重なアドバイスを頂きました。加えて今年のチーム選手権では2試合ほどShabalov Gambitの試合を見かけました。まだまだ日本ではマイナーな変化ですが、注目している人がいるならば私が学んだアイディアを参考にして頂きたいと思います。

 

Nyback,Tomi (2634,FIN,GM)

Kojima Shinya (2272,JPN)

Beijing World Mind Sports Games Pair Rapid 2008(2)

 

1.d4 d5 2.c4 c6 3.Nf3 Nf6 4.Nc3 e6 5.e3 Nbd7 6.Qc2 Bd6 7.g4!?



 

この変化は麻布時代に、部報に載っていた中村(龍)−中郡戦で初めて目にし、非常に驚いた記憶があります。白のアイディアはg4-g5でナイトをf6からどかすことにあり、黒の7手目のアイディアは全てこれに対応するものです。

 

7…h6

 

私は今のところこれがベストだと思っています。白にg5をすぐには許さず、f6のナイトはしばらく安泰です。他のアイディアとしてはd5にナイトが跳ぶためのマスを作る7…dxc4e4にナイトが跳ぶためのマスを作る7…Bb4,思い切ってポーンを取る7…Nxg4が存在します。チーム選手権での慶應チームにとっての大一番、吉村−大竹戦では7…Nxg4でしたが、私はこれはやや黒のリスクが高く、最初の3つの選択肢をお勧めします。ちなみにWMSGではチームメイトの井上さん、山田君と共にShabalov Gambit対策を話し合いましたが、私が7…h6、井上さんが7…dxc4、山田君が7…Bb4と見事にばらばらでした。

 

8.Bd2

 

白はロングキャスリングの用意をします。8.Rg1,8.h3なども良い手だと思います。

 

8…dxc4

 

黒はここで早めにアクションを起こします。Meranと同じ感覚で白マスビショップが動いてからdxc4を考えていると攻め合いに遅れてしまいます。きちんと確認していないのではっきりとは分かりませんが、チーム選手権の中村(龍)−結城戦ではここで8…e5 9.cxd5 cxd5と進み、白がcファイルを基点に攻撃のチャンスを得たのではないかと思います。Semi-Slavでは黒からのe5つきは白マスビショップを活用する優秀なアイディアですが、タイミングが難しいものです。

 

9.Bxc4 b5 10.Be2

 

ここはf3のナイトをサポートするためにd3ではなくe2に退きます。

 

10…Bb7 11.e4 Be7!?

 



これも
Semi-Slavの常識からは少し外れた手です。他のラインではほとんど白のe4にはe5を返し、ポーンフォークを防ぎます。しかしここでは11…e5?! 12.dxe5 Nxe5 13.Nxe5 Bxe5 14.f4で白が攻勢に立ちます。

 

12.g5 hxg5 13.Nxg5 c5!?

 



私が昨年、対
Nyback戦のために準備したのがこのアイディアです。b5のポーンを捨ててビショップのダイアゴナルを開きます。

 

14.dxc5 Nxc5 15.Bxb5+ Nfd7

 

チェックを防ぎながらg5のナイトを攻めます。

 

16.Rg1 a6 17.Be2

 

17.Bxd7+ Qxd7でもd3のマスが弱いため黒にはポーンの代償があるでしょう。


17.e5!? axb5 18.Nxf7 Qb8! (18…Kxf7?? 19.Qg6+ Kf8 20.Qxg7+ Ke8 21.Qxh8+ +
-) 19.Nxh8 Nxe5

 


                               ANALYSIS  DIAGRAM

 

こちらの局面は非常にアンクリアーです。こういった局面を好む方はお試し下さい。

 

17…Ne5

 



こちらが黒の目指したポジションです。黒が
1ポーンを捨てた狙いはナイトをうまく組み替え、d3のマスへと進入することにありました。

 

18.Rd1 Ncd3+ 19.Kf1 Nxf2?

 

ここまではうまく指しながら、このナイト切りで試合を台無しにしてしまいました。試合後、この局面で19…Rxh2と指してはどうかとNybackに指摘されました。これは私も試合中に読んだのですが、20.Be3と指され、f2を守られながらd3のナイトが狙われてダメだと結論付けました。しかしこの読みには大きな落とし穴があります!

 

19…Rxh2! 20.Be3 Bxg5 21.Rxg5 Qxg5!!(ここでクイーンを一時的に捨てます!

22.Bxg5 Rxf2+ 23.Kg1 Nf3+! 24.Bxf324.Kh1?? Rh2#Rxc2 25.Rxd3 Rxb2


 

                               ANALYSIS  DIAGRAM


駒数は
2ピース vs 2ポーンルークとなり、形勢判断は非常に難しいところです。h2はどこかで取らなければいけないと思いつつ、クイーンを一時的に捨てるアイディアが出てこなかったため、実行に移せませんでした。

 

20.Kxf2 Bc5+ 21.Kg2 Qf6 22.Rf1 Qh6 23.Bf4 Be3 24.Bxe5 Qxg5+ 25.Bg3 1-0

 

Shabalov Gambitは非常に興味深く、また難解なオープニングです。いくつか試合を見ても7.g4!?のアイディアをきちんと説明するのは難しいものです。メインのオープニングに使うには多少リスクが高いと思われる方は、ブリッツやラピッド専用のオープニングとして研究してみても面白いかもしれません。WMSGのペアブリッツではGM,IMが申し合わせたかのように皆Shabalov Gambitを使ってきたため、大変な苦労をしたのも今では懐かしい思い出です。


Slav Defenceの世界-part10- by 小島慎也

Part10では白が1.d4,2.c4と組んでこない場合でもd5-c6-Nf6Slavの駒組みで対応できる例を紹介します。

 

Vo Thanh Ninh (2340,VIE)

Kojima Shinya (2323,JPN,FM)

Ho Chi Minh,Zonal 2009(8)

 

1.c4 c6



 

1.c4の対策に悩むプレーヤーは少なくないと思います。この初手はなかなか不思議なもので、あらゆるd4のメイン定跡に手順前後する可能性を残しながら(つまり白が2.d4と指してくる)、d4はつかずにg3b3と組んでくる可能性もあります。また黒としては2.d4と指してくることを期待し、自分の得意なd4対策になるよう初手を返すこともできますし、1...e5,1...c5のような1.c4独自のラインにすることも可能です。私も少し前までは1...e5を指していましたが、今回は思い切って1...c6を試してみました。しかしSlavを指すので単純に1...c6を返そうとすると落とし穴にはまる可能性があります。

 

2.g3

 

Slavの駒組みが応用できないケースが2.e4です。これはCaro-Kann Defence Panov Botvinikになります。Slavd4対策として用意している人が1...c6と指すかどうかは、このPanovにされても構わないと考えているかどうか、がポイントだと思います。私は1.e4に対してCaro-Kannを指したことはありませんが、Caro-Kannの中でもPanovだけ勉強して1.c4 に備えてきました。実際ベトナムで行われたゾーン選手権の2RではフィリピンのGM Mark ParaguaPanovになり、その試合は以下のように進みました。1.c4 c6 2.e4 d5 3.exd5 cxd5 4.cxd5 Nf6 5.Nc3 Nxd5 6.Nf3 Nc6 7.d4 Bg4 8.Qb3 Bxf3 9.gxf3 e6 10.Qxb7 Nxd4 11.Bb5+ Nxb5 12.Qxb5+ Qd7 13.Qxd7+ Kxd7 14.Nxd5 exd5 15.Be3 Bb4+ 16.Ke2 Rhc8= Paragua,M (2487)-Kojima,S (2323)

Ho Chi Minh,Zonal 2009(2)

 

2...d5 3.Nf3 Nf6 4.Bg2 dxc4!?



 

この試合のために前日に用意した手です。センターをキープしたまま、白マスビショップを出したければ4...Bf54...Bg4Semi-Slavのように組みたいならば4...e6でも良いでしょう。

 

5.0–0

 

先日行われたチーム選手権の薄葉さんとの試合では 5.Qc2 g6!? 6.Qxc4 Bg7 7.0-0 0-0と進みました。

 

5...Nbd7 6.Na3 Nb6 7.Qc2 Qd5!?

 

g2にビショップがいるので危ないように見えますが、すぐには有効なディスカバードアタックがないためこの手でポーンを守ります。黒としてはポーンを守りきることにこだわらず、ポーンを返した際に満足なポジションになることを目指します。

 

8.Qc3!?

 

私のデータベースではこの手は見つかりませんでした。しかしNe5からc4のポーンを取り返そうというアイディアは理解できます。

 

8...Ne4

 

この手は時間をかけて指しました。c4をすぐに返す8...g6も考えましたが、取り返された後にセンターにポーンを伸ばされてしまい、白が優勢に試合を進められそうです。少し形は変になりますが黒はまだポーンをキープしておきます。

 

9.Qe3 Nd6 10.Nd4 Nf5!?



 

この手も時間をかけました。8手目の段階では10...Qc5と指すつもりでしたが、11.b4!?が気になりました。11...Qxb4ならばNac2-Ba3 or Bb2 ですし、11...cxb3ならばルークがcファイルに回ってきます。どちらにしてもポーンの代償がありそうだと判断し、より安全なクイーン交換を選択しました。

 

11.Bxd5 Nxe3 12.Bxf7+

 

白はここでポーンを取り返します。12.Bxc6+ bxc6 13.dxe3 Bd7= も考えられます。

 

12...Kxf7 13.fxe3+ Ke8 14.Nf3?!

 

この手は不自然に思えます。d4はナイトにとって悪い位置ではなく、わざわざ退く必要があるのか疑問です。14.b314.d3でお互いのダブルポーンを解消し、展開の良さvsダブルビショップで勝負すべきではないでしょうか。

 

14...g6! 15.d3 Bg7!?

 

試合中、より自然に思える15...cxd3と進んだ局面の優劣は良く分かっていませんでした。黒はダブルビショップですが、白のセンターが厚みを持って活きると思ったためです。しかし15...cxd3 16.exd3 Bg7 17.d4 Bf5 で黒が良いようです。e3-d4と黒マスにポーンを固めれば白マスビショップの利きが通り、d3-e4と白マスに固めれば黒マスビショップの利きが通るためです。

 

16.d4 Bg4 17.Bd2 c5

 

白に18.Rac1からc4を取られてはたまりませんのでここで仕掛けます。

 

18.Bc3 Rc8 19.Rad1?!

 


 

黒の次の手を見落とした明らかなミスです。私の試合中の読みは19.Rac1で以下、19...cxd4 20.Bxd4 Bxd4 21.exd4 Rf8=と進んでお互い満足でしょう。本譜の悪手により、試合中初めて自分の優勢を確信しました。

 

19...Nd5! 20.dxc5

 

この手はやや予想外でした。e3を守る20.Kf2には20...Bh3からNf6-Ng4+を考えていました。

 

20...Nxc3

 

もちろんこれでも黒優勢ですが、20...Bxc3 21.Rxd5 Be6! という手順がありました。確かにこれならばb2もすぐに取ることができ、cポーンが強力なパスポーンとなります。

 

21.bxc3 Rxc5 22.Rb1 b6 23.Nd4 Bh6

 

d4はがっちりブロックされているのでビショップのダイアゴナルを切り替えます。ビショップはより良いダイアゴナルへ、はビショップ好きな私のモットーです。

 

24.Nac2 e5 25.Nb5 Ke7 26.Nxa7 Ra8 27.Nb5 Bxe2 28.Rfe1 Bd3 29.Nba3 Rca5



 

ようやくはっきりと黒が駒得になります。ルークの進入を許しますが、やはりルークより2ピースです。

 

30.Rxb6 Rxa3 31.Nxa3 Rxa3 32.Rb7+ Kf6

 

もちろん2ピースとルークを交換する以前にf1を抑えていることは確認済みです!

 

33.g4

 

33.Rxh7 Bg7! だと唯一の反撃要員であるルークが閉じ込められてしまいます。

 

33...Rxa2 34.h4 Bf8 35.Rb6+ Kf7 36.Rb7+ Be7 37.g5 Ke6



 

Kf5-Kg4と白キングに迫るチャンスを窺います。局面はエンディングと呼べる状況ですが、黒からは十分メイティングスレットが作れます。7段目でルークが白キングの動きを縛っていることが大きなポイントです。

 

38.Rc7 Bd6

 

h7を取らせてもキングが上がれば勝ちとの判断です。

 

39.Rxh7 Kf5! 40.h5

 

時間の増える40手目で嫌な手を指してきました。キングサイドのポーンを全て消せば黒勝勢には変わりないですがダブルルークによる抵抗が続きます。私も持ち時間ぎりぎりまで考え、勝ちを読みきりました。

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Slav Defenceの世界-part9- by 小島慎也

Part9では、今まで皆さんがあまり見たことのないかもしれないSlavのラインを紹介します。私はこれをSemi-Slavとともにメインウエポンとしてこの1年半程使っています。

 

1.d4 d5 2.c4 c6 3.Nf3 Nf6 4.Nc3 dxc4 5.a4 e6!?

 



 
この5…e65…Bf5に比べれば圧倒的に指される頻度は低いでしょう。一見するとわざわざビショップを閉じ込めるのは不自然に思えます。

 

6.e3 c5 7.Bxc4 Nc6

 


 

この局面を見てQueen’s Gambit Accepted の一変化に似ていると気がつく人もいるでしょう。それは以下の局面です。

 

1.d4 d5 2.c4 dxc4 3.Nf3 Nf6 4.e3 e6 5.Bxc4 c5 6.Nc3!? a6 7.a4 Nc6

 


 

上記のSlavで現れた局面と比較すると、黒がa6を突いているかいないか、だけの違いですね。しかし同じ8手目白番なので、Slavでは黒が一手損をしているようにも思えます。(Slavではc6-c5と二手かけてcポーンを進めたのに対して、Acceptedではc7-c5と一手でcポーンを進めているためです)ところがそれは少し違います。なぜならばSlavの局面では、黒がa6を突いていないにもかかわらず、白はa4を突かされている(b4のマスが弱まっている)と考えられるためです。そこで黒はa6-b5とクイーンサイドのポーンを伸ばすのではなく、Nb4-Nfd5dポーンをブロックするアイディアが有効だと考えられます。

 

8.0-0 cxd4 9.exd4 Be7

 


 

典型的なIQPの局面です。白はスペースアドヴァンテージ、利きの良いダブルビショップを持ちますがd4のポーンが多少弱いことに注意する必要があります。黒はd4のポーンとd5のマスを気にしつつ、(白からのd5ブレイクは強力です)白マスビショップをどう活用するか考えます。それでは私の試合を1つ紹介します。

 

Zude Eric (2409,GER,IM)

Kojima Shinya (2205)

Cappelle La Grande 2008 (6)
 

この試合は私が初めて5…e6!?を公式戦で指した思い出深い試合です。いきなりIMに指すのは随分思い切っていますが、「このオープニングはもう少し勉強してから試合で使おう」と考えているといつまでも先延ばしにしてしまいがちなので、実戦で使うことも勉強の一環と割り切って指してみると良いでしょう。

 

1.d4 d5 2.c4 c6 3.Nc3 Nf6 4.Nf3 dxc4 5.a4 e6 6.e3 c5 7.Bxc4 Nc6 8.0–0 cxd4 9.exd4 Be7

 


 

5…e6!? のラインでは他にも多少変化があるのですが、私が指した試合はほとんどがこの形になっています。5…e6!?の基本形と言えるでしょう。さてここからですが、白としてはまず開いたeファイルを抑えるのが適切に思えます。どちらのピースでしょうか。

 

10.Qe2

 

Zudeは長考の末、こちらの手を選びました。おそらくd4を取られても大丈夫かどうか、そして10.Re1と比較しどちらが良いか考えていたのでしょう。10.Re1も良い手だと思います。

 

10.Re1 0–0 11.Bg5 Bd7 12.Qe2 Nb4 13.Rad1 Bc6 14.Ne5 Nfd5 15.Nxc6 bxc6 16.Bc1 Qa5= Gonda,G (2145) – Kojima,S (2225) Japan Chess Championship 2008

 

10…0–0

 

10…Nxd4?! 11.Nxd4 Qxd4 12.Nb5 Qd8 13.Bf4 は黒にとって非常に危険です。

 

11.Bf4?!

 

ここでd4を捨てるのはやや足りていないように思えます。11.Rd1とルークが回ってポーンを支えておくのが良いでしょう。

 

11.Rd1 Nd5 12.Bd3!? Ncb4 13.Bb1 b6 14.Ne5 14...Bb7 15.Ra3!?

Iinuma,P (2020) - Kojima,S (2277) Japan Chess Championship 2009

 

11…Nxd4 12.Nxd4 Qxd4 13.Be5 Qc5 14.Rfd1 b6

 


 

黒は展開の遅れが気になっていましたが、最後のマイナーピースを配置する準備ができました。このラインでは、黒は白マスビショップを Bd7-Bc6 or Be8 か、b6-Bb7 のどちらかの方法で展開します。どちらを選択するかは白の出方を窺いつつ決めれば良いでしょう。

 

15.b4?!

 

ここで白はさらにポーンを捨ててきましたが、これはやりすぎです。

15.Rac1 Bb7 16.Bb5 ならば黒のクイーンはいける場所が少なく、難しい局面だと思います。

 

15…Qxb4 16.Bd4

 

白は黒クイーンのいける場所を失くし、駒得を狙っていることは明らかです。しかし黒にはうまい対処法がありました。

 

16…Bb7! 17.Rab1 Qd6!

 


 

dファイルは白がルークで支配していますが、敢えてそこにクイーンを退きます。ディスカバードアタックで取られたピースは取り返す方法があります。

 

18.Bxf6 Qc6!

 

もちろんこの一手です。g2でのメイトを狙うことでその隙にピースを取り返そうという算段です。白は普通にg2を守るようでは2ポーンの代償はありません。

 

19.Bd5

 

19.Nd5 Bxf6 20.Bb5 Qxd5!? 21.Rxd5 Bxd5 でも黒が良いでしょう。

 

19…exd5 20.Bxe7 d4

 


 

複雑な駒の取り合いが続きます。黒はルークを無視して再びメイトスレットを作ると同時にc3のナイトを狙います。

 

21.Qg4

 

この手はg2を守りつつf8を取った際、Qxg7がメイトになるため黒にdxc3-c2を実現させない、という意図があります。f8のルークは取らせてしまっても黒が優勢ですが、ここでは私はルークを取られないよう知恵を振り絞りました。

 

21…f5 22.Qh3

 

白はg7のメイトを残そうとしても 22.Qg4 h5で駄目です。23.Qg5?? Rf5! はクイーンが落ちてしまいます。

 

22.dxc3 23.Rbc1

 

こうなれば黒は2ポーンアップでパスポーンもあるため、勝勢は揺らぎようがありません。23.Bxf8 c2 でも当然黒勝ちです。

 

23…Rfc8 24.Bb4 c2 25.Rd2 Qxa4 26.Qxf5 Qxb4 27.Rd7 Qb2 0–1

 

 

カペルは上位者からポイントを取るのが厳しいトーナメントですので、この勝利は大きな価値がありました。初めて5…e6を指したこの試合で流れをつかんだか、このオープニングではFIDE公式戦で43ドローと大きく稼いでいます。次回は1.c4に対してどう対応するかを取り扱いたいと思います。


Slav Defenceの世界-part8- by 小島慎也

さて随分間が空いてしまいましたが、part8では1.d4 d5 2.c4 c6 3.Nf3 Nf6 4.e3 a6 を紹介したいと思います。白が5.Nc3と指せば何度か紹介しているChameleon Slavになるので、黒はもちろんその用意が必要です。白としてはChameleonのメインを外すならばNc3を指さないことです。

 

1.d4 d5 2.c4 c6 3.Nf3 Nf6 4.e3 a6 5.Bd3!?

 


 

5…Bg4

 

この手は後に紹介する5…b5よりも優秀だと考えています。

 

6.Nbd2

 

6.Qb3!? Bxf3 (6…Qc7 7.Ne5 Kojima,S(2225)-Ota,Y Japan Ch, 2008) 7.gxf3 Qc7 8.cxd5 cxd5 9.Nc3 e6 10.e4 Nc6

 

6…Nbd7 7.Qc2

 

黒が一気にe7-e5とするのを防ぐためにここでクイーンのピンを外しておきます。

 

7…e6 8.0-0

 

8.b3 Bxf3!? 9.Nxf3 Bb4+ 10.Ke2 Qe7 Kojima,S(2272)-Buhman,R(2541,GER,GM) Dresden Olympiad 2008

 

8…dxc4!?

 


 

この手は新しいアイディアです。従来の、白がb3-Bb2と組んでe5のマスを抑え、e4からセンターを開く展開はわずかですが白に固いアドヴァンテージがあると思います。

 

9.Bxc4 Be7 10.e4 0-0 11.Bd3

Carlsen,M(2776)-Karjakin,S(2706), Corus A, 2009

 

白がやや良いですが、黒を持っても楽しんで指せる局面だと思います。

 

 

Kojima S (2277)

Krumm J (2040,GER)

Thailand Open Chess Championship(5)

 

1.Nf3 d5 2.d4 Nf6 3.c4 c6 4.e3 a6 5.Bd3 b5!?

 

こちらは5…Bg4に比べれば人気が低く、勝率も悪い手です。その理由はなぜなのか、私なりに考えてみました。この手順だと白はNbd2と指す可能性が高く、そうなるとビショップはb3-Bb2と組むしかありません。そのためc4に圧力をかける手がそこまで有効なのか(b3のポーンもd2のナイトもc4を支えています)そして必要なのか(黒がb7-b5とポーンを伸ばさずとも白はb3-Bb2と組むでしょう)という疑問が出てきます。加えて、c3にナイトがいないためにb5-b4としてナイトを攻撃する狙いも作れません。以上が私の考える、白がNc3を遅らせた際にb7-b5が有効でない理由です。

 

6.b3 Bg4 7.Nbd2 e5?!

 


 

この手はかなり悩んだ末、あまり良くない手だと読みきりました。黒は7...e6 8.Qc2 Nbd7 9.Bb2 Bh5と指し、白マスビショップの交換を狙うべきでしょう。

 

8.dxe5 dxc4 9.Be2! c3?!

 

ここで白の優勢を確信しました。私の読みでは9...Nd5!? 10.bxc4 Nc3 11.Qc2 Nxe2 12.Kxe2で黒にポーンの代償が多少あるでしょう。

 

10.exf6 cxd2+ 11.Qxd2!

 

クイーンを換えたエンディングは明らかに白が良いので、白は躊躇なくクイーンをぶつけます。

 

11…Qxf6

 

11...Qxd2+ 12.Nxd2 Bxe2 13.Kxe2± ポーンストラクチャーが良いため白の優勢です。

 

12.Bb2 Qh6 13.Qd4

 

13.a4!? も面白い選択肢です。

 

13...Be6 14.Rd1 Nd7 15.0–0±

 


 

展開の差により、すでに誰の目にも白の優勢は明らかです。黒はポーンを捨てて勝負をかけてきましたが、安全に指しきって勝ちを収めました。

 

15…Be7 16.Qxg7 Qxg7 17.Bxg7 Rg8 18.Bb2 Bd5 19.g3 a5 20.Nd4 a4? 21.Nxb5 Kd8 22.Nc3 axb3 23.Nxd5 cxd5 24.Rxd5 Rxa2 25.Bb5 Rxb2 26.Rxd7+ Kc8 27.Rxe7 Rg5 28.Ba4 Rc5 29.Rxf7 Ra5 30.Rc1+ Kb8 31.Bxb3 1–0

 

 

今回でSlavのサイドライン、1.d4 2.d5 2.c4 c6 3.Nf3 Nf6 4.e3 の紹介を終わりにしたいと思います。次回は私が指す一風変わったSlavのメインラインを紹介し、その後は読者の皆様からのご要望に応じて記事を書き続けたいと思います。


Slav Defenceの世界-part7- by 小島慎也

今回は番外編ということで、今月行われた快速選手権から一試合紹介をしたいと思います。私は快速選手権には参加しませんでしたが、見学に行ったちょうどその時に、この試合が行われていました。

 

Uehara Shinpei (1906)

Yamada Kohei (2036)

全日本快速選手権2009(3)

 

1.d4 d5 2.c4 c6 3.Nf3 Nf6 4.Nc3 e6

 

実はこの2人、両者ともSemi-Slavプレーヤーです。自分が黒で使う定跡に白で挑むのは気が進まないという人もいますが、自分が使う定跡だからこそ、しっかり研究していれば嫌な変化も分かるものです。チェスが強いことはもちろん、その定跡をどれほど理解しているかが、同じ定跡使いが対戦した際の明暗を分けると私は考えます。

 

5.e3 Nbd7 6.Bd3 dxc4 7.Bxc4 b5 8.Bd3 Bb7

 

Semi-Slavの紹介でさらりと扱ったMeranです。白は黒マスビショップを使うためにe4を黒は白マスビショップを使うためにc5を将来的につくことが予想できます。

 

9.e4!?

 


 

early e4と呼ばれる、なかなか面白い変化です。これを嫌うために8…a68…Bd6を指す人もいるのではないでしょうか。9.0-0 a6 10.e4 c5 11.d5 Qc7 Meranのメインだといえるでしょう。

 

9…b4

 

上記のメインと同じアイディアで9.a6?!とすると、10.e5 Nd5 11.Nxd5 cxd5 と進み白マスビショップの働きに大きな差が生じるため、黒としては好ましくありません。Meranではb4までポーンをついてナイトを追い払うのも、黒がc5をつくための1つのアイディアです。

 

10.Na4 c5 11.e5 Nd5 12.0-0

 

私はearly e4には、黒が覚えなくてはいけない変化が3つあると考えています。

12.dxc5 Nxc5 13.Nxc5 Bxc5 14.0-0 h6 (14…0-0? 15.Bxh7+! Kxh7 16.Ng5+ Kg6 17.Qc2+) 15.Nd2 0-0 (15.Qc7!?) 16.Ne4 Bd4 (16…Be7?! 17.Qg4) 17.Nd6 Bc6 18.Bh7+ Kxh7 19.Qxd4 f6 は重要な変化の1つです。

 

12…cxd4 13.Re1

 

13.Nxd41ポーン捨てるアイディアは、研究が随分され白がそんなに良くならないことが判明していますが、黒としては勉強しておく必要があります。13.Nxd4!? Nxe5 14.Bb5+ Nd7 15.Qh5 (15.Re1!?) 15…N5f6 16.Nxe6!? Nxh5 17.Nxd8 Rxd8 18.Re1+ Be7 19.Nc5 Bc8 20.Bg5 f6! Vasquez,R (2523) - Vallejo Pons,F (2666) Tripoli Tripolis, 2004, Chess Informant 91

 

先ほど述べた覚えるべき変化の最後の1つが、本譜の13.Re1です。

 

13…Be7!?

 


 

この手は私もSemi-Slavを指していた時期に注目していました。このラインを初めて見る方は普通の手に思われるかもしれませんが、メインの13…g6に比べれば、ほとんど指されていないといっても過言ではないでしょう。その理由は黒のナイトがf6からどかされているためにキングサイドの守りが薄く、黒としてはフィアンケットを組んだほうが手堅いため、と考えられます。しかし最近の試合を見る限りでは13…Be7でも黒は指せそうですし、白の用意を外すという意味でも使えそうです。

 

14.Nxd4 a6?!

 

ここでは必要のない手です。恐らく山田君は13…g6 14.Bg5 Qa5 15.Nxd4 a6! と混同したのだと思います。

 

15.Qg4! g6 16.Bh6!

 

良くある手筋ですが、上原君はうまく指したと思います。黒はキャスリングできないのが痛手となります。

 

16…Qa5 17.b3 Nc7

 

黒はキャスリングできない以上、アクティヴにピースを出していくべきだと私は思うのでこのナイトが退く手はやや不自然です。

 

18.Qf4

 

e5を守る手として、私の第一感は18.Qg3でした。ビショップを退く可能性を残し、d3,g2も守っています。本譜の手はf7,f6を睨んでいるため、より攻撃に重点を置いた手だといえるでしょう。18.Be4 も良かったと思います。

 

18…Rd8 19.Rac1 Nc5 20.Nxc5 Bxc5 21.Qf6 Rg8 22.Bg5!?

 


 

22…Rd7

 

私はどうしてd4が取れないのか分かりませんでしたが、22…Rxd4 23.Red1! という返しがありました。狙いは24.Bb5+です。22…Rxd4 23.Red1! Nd5 (23…Kf8 24.Bxg6!! Rxg6 25.Qh8+ Rg8 26.Bh6+ Ke7 27.Qxg8 Rxd1+ 28.Rxd1 Bd5 29.Bg5+ Kd7 30.Rc1! で白勝ちです。△Qd8+ - Qd6+) 24.Rxc5! Nxf6 25.Rxa5 Nd7 26.Rd2で白勝勢です。黒はa6が狙われている上、g8のルークが使えていません。

 

23.Be4?

 

上原君は大きな勝ちのチャンスを逃しました。23.Bb5! Nxb5 (23...axb5 24.Rxc5 Qb6 25.Rec1) 24.Rxc5 Qb6 25.Nxb5! axb5 (25…Qxc5? 26.Nd6+) 26.Rc2 で白がほぼ勝ちでしょう。

 

23…Be7 24.Qf3?

 

24.Qxe7+! Rxe7 25.Bxb7 とクイーンを捨てても白が指しやすそうです。エクスチェンジは確実に取り返せますし、なによりg8のルークが働けていません。

 

24…Bxg5?

 

24…Bxe4 25.Qxe4 Bxg5 ならピースの代償は何もありません。

 

25.Bxb7 Rxd4

 

25…Bxc1? 26.Bc6

 

26.Qc6+ Kf8 27.Qxc7 Qxc7 28.Rxc7=

 

お互いミスの応酬はありましたが、快速の試合なので仕方がありません。最後は上原君の大ポカで勝負がついてしまったので、優勢に試合を進め、勝ちのチャンスもあった上原君にとっては苦い結果でしょう。

 

28…Kg7 29.g3 Rb8 30.Bxa6 Rd2 31.Bc4 Bd8 32.Ra7?? Bb6 33.Re7 Bxf2+ 34.Kf1 Bxe1 35.Kxe1 0-1


Slav Defenceの世界-part6- by 小島慎也

part6では私が黒番で昨年から指し続けている4…Bg4を紹介したいと思います。正直なところ、自分の研究をどこまで明かしてよいのか悩みましたが、日本で勝てないようでは海外で勝てるはずもありませんし、白番でも指す可能性があるので是非皆さんにも4…Bg4対策を考えていただきたいと思います。

 

1.d4 d5 2.c4 c6 3.Nf3 Nf6 4.e3 Bg4

 


 

この手は4…Bf5と異なり、黒からビショップナイトの交換を仕掛けようという意図があります。g6での交換ではgファイルにダブルポーンができてしまうので、黒はそれを嫌います。

 

5.Qb3!?

 

この手は南條君との試合で2回ほど経験がありますが、昨年後半までは私自身も、そして世界中のSlavプレーヤーも高い関心を示していなかったと言えます。ところが昨年Topalovが考案した新手によって状況は一変します。

 

5…Qb6 6.Nc3 e6 7.Nh4!?

 


 

それがこのナイトを盤の端に跳ばす手です。狙いはh3-g4から4…Bf5と同様にg6でビショップナイトの交換をすることです。昨年の北京WMSGから指される回数が増えているように思えます。ちなみにまだ私は白で4…Bg4を指されたことがないのですが、白でも是非この7.Nh4を指してみたいと考えています。

 

7…Bh5 8.h3 Be7

 

いくつかアイディアがありますが、ここではg4-g5に備えてd7をナイトが退くマスとして残しておきます。

 

9.g4 Bg6 10.Nxg6 hxg6 11.Bg2 g5

 

黒からg5をつく手はこのラインでは時々見られます。ここでは白からg5をつくことを防ぎ、f6のナイトを安定させます。

 

12.c5 Qxb3 13.axb3 Na6!

 


 

13…Nbd7?! 14.b4! だとb4-b5としてダブルポーンを解消した上、黒のクイーンサイドに弱点が残るので、白がやや優勢で試合を進めることができるでしょう。14.Bd2 Nc7= Wang Yue (2739) - Aronian,L (2750) XXVI SuperGM Linares ESP (5) 2009

 

この5.Qb3のラインは白がクイーン交換を考慮したうえで、ダブルビショップのわずかな優位で勝ちを目指すものですので、そういった指し方が苦手な人は次に紹介するメインを考えてみると良いでしょう。

 

Nanjo Ryosuke

Kojima Shinya

全日本選手権2009(9)

 

1.d4 d5 2.c4 c6 3.Nf3 Nf6 4.e3 Bg4 5.Nc3 e6 6.h3 Bxf3 7.Qxf3


 

 

こちらが4…Bg4のメインの変化であるといえるでしょう。ビショップが好きな人にとっては、早々にビショップでナイトを取るアイディアは受け入れがたいかもしれません。しかし黒の残った駒は展開が容易であるのに対し、白は他のライン同様、黒マスビショップをどう使えばよいのか、という問題が残されています。

 

7…Nbd7 8.cxd5!?

 

これは多少珍しい手です。今まで指した試合の全ては8.Bd3でした。黒はどちらで取り返す手も考えられますが、e4のマスを将来的にコントロールするため、eファイルを開きます。

 

8…exd5 9.Bd3 Bb4

 

この手も先述のe4をコントロールするアイディアの一環です。

 

10.0-0 0-0 11.Bd2 Re8 12.Rae1!?


 

 

黒マスビショップを活用するためにe4をつこうとするシンプルなアイディアですが、d4のポーンが孤立するという問題があります。私にとっては12.Rfc1からクイーンサイドのポーンを伸ばすほうが自然なアイディアに思えます。

 

12…Nf8

 

Ruy Lopez などを勉強していないとこのようなナイトの組み換えは理解しづらいかもしれません。ここではナイトはe6を目指し、d4をアタックすると共にNg5-Nge4を狙います。

 

13.a3 Ba5 14.b4 Bc7

 

4…Bg4の変化では黒のビショップはd6に置いてd6-h2のダイアゴナルを睨むか、このようにb4からc7に戻ってきて同じダイアゴナルを睨むかがほとんどです。白の伸ばしたクイーンサイドのポーンはスペースを得たとも考えられますが、a5から崩される可能性もあるので一長一短です。

 

15.e4 dxe4?!

 

ここは焦らずナイトを先に出しておけば本譜より指しやすかったと思います。15…Ne6! 16.Be3 dxe4 17.Nxe4 Nxe4 18.Qxe4 g6

 

16.Nxe4 Nxe4

 

16…Qxd4? 17.Bc3

 

17.Rxe4 Rxe4 18.Qxe4 Qd6 19.g3 Bb6 20.Be3 Qd5


 

 

白はd4に弱点があるとはいえダブルビショップですので、黒としては無理をせずクイーンを交換するのが安全な選択肢だと思います。

 

21.Qxd5 cxd5 22.Bf5 Ne6 1/2-1/2

 

23.Bxe6 fxe6 でイコールですので、ここでドローにしました。

 

以上で4…Bg4の紹介を終わりにします。黒の指し方のポイントとしては4…Bf5と同様に白にダブルビショップを持たせた代償をどこに求めるか、が重要であると考えられます。私もまだまだ実戦不足でこのラインについての理解がそれほどではないので、これからも勉強を続けたいと思います。


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