Part 14では前回に引き続き、1.d4 d5 2.c4 c6 3.Nf3 Nf6 4.Qc2!?の一変化をご紹介します。
□Tran Tuan Minh (2203,VIE,FM)
■Kojima Shinya (2312,JPN,FM)
First Saturday March 2010 (6)
私が見る限り、ベトナムや中国、イスラエルといった国は、若いプレーヤーがトッププレーヤーの試合をよく勉強し、時には共同で研究することでオープニングの知識を高めています。私がハンガリーで試合をしたTran Tuan Minhは1994年生まれの非常に若いプレーヤーであり、Nguyen Ngoc Truong Sonと同じオープニングを使ってきました。おそらく私とNguyenのドレスデンでの試合も研究済みだと思います。
1.d4 d5 2.Nf3 Nf6 3.c4 c6 4.Qc2 dxc4 5.Qxc4 Bg4!?
今回、5…Bf5に代わりご紹介するのは、こちらの手です。ビショップをナイトに当てつつ展開することで、Nbd2と指させることを目的とします。すると白は黒マスビショップをどう展開するか、一工夫必要になります。
6.Nbd2
ここは6.Nc3!? Nbd7 7.e4 Bxf3 8.gxf3 e5と進め、ポーンストラクチャーが乱れることを承知で、センターの厚みで勝負するのも一つの手です。また黒は、6.Ne5?!と指されても、6…Be6と退いてクイーンを攻撃しつつf7を守れるので、特に問題はありません。次回のPart 15ではf3のナイトとg4のビショップについて詳しく解説をする予定です。
6...Nbd7 7.h3!?
おかしいアイディアではありませんが、初めて見る手でした。5…Bf5の変化と同様、キングサイドにフィアンケットを組んでキャスリングするのが一般的です。
7.g3 e6 8.Bg2 Be7 9.0–0 0–0 10.Qb3 Qb6 11.Nc4 Qa6 (11…Qxb3!?)12.Bg5 h6 13.Bxf6 Bxf6 14.e3 Rad8 15.Rfc1 Bxf3 16.Bxf3 e5 17.dxe5 Nxe5 18.Nxe5 Bxe5= ½–½ Hellsten –Bareev EU-Cup 19th Rethymnon 2003
7...Bh5 8.g4!?
この手には少し驚きです。白はビショップを追い返しつつ、Bg2の準備を進めることができますが、b8-h2のダイアゴナルが弱くなってしまう、というデメリットを抱えます。特にf4のマスは、黒のピースに侵入されないよう注意を払わなければいけません。
8…Bg6 9.Bg2 e6 10.0–0 Nd5 11.Qb3
このクイーンを退く手は5…Bf5の変化でも見られました。ここではb7を攻撃するだけでなく、c4のマスにナイトを動かせるようにしています。
11…N7b6
11...Nf4!? 12.Qxb7 Nxe2+ 13.Kh1 Qc8 14.Qxc8+ Rxc8 と進める変化は、c6が弱くなるのを嫌って指しませんでしたが、白のd4も弱いため、形勢は互角だと考えられます。
12.Nc4 Nxc4 13.Qxc4 Bd6 14.Ne5!
b8-h2のダイアゴナルを閉じることで、黒マスの弱さをサポートする良いアイディアです。
14…0–0 15.Nxg6?!
この手は変だと感じました。白にとって怖い黒のピースは、白マスよりも黒マスのビショップです。そのため、e5にはナイトを残しておき、黒マスビショップのダイアゴナルを閉じたままにしておくほうが自然です。15.e4 Nb6 16.Qc3と指せば白がやや優勢で試合を進められたでしょう。
15...hxg6 16.f4!?
これも評価の難しい手です。f4のマスは守りましたが、a7-g1のダイアゴナルや、キング周辺の守りを弱めてしまいます。また、黒マスビショップをどのように使うのか、という問題も残ります。
16…Rc8 17.Qb3
17.e4 Nb6 18.Qb3 c5 と進んでセンターを厚くされても、cポーンを突くことができれば、黒は十分な反撃ができるでしょう。
17...Qc7 18.e3 Rfd8
白にe3を突かせることで黒マスビショップの働きを悪くし、c5を突く準備としてルークをセンターに回しました。この時点ですでに黒が十分だと考えていましたが、次に全く予想していない手を指されます。
19.e4!?
f4を守るために3段目に留まったeポーンが、次の手で前進してきました。始めは何事かと目を疑いましたが、よくよく考えてみれば白の狙いを理解することができます。そもそも一手前に白が18.e4?と指さなかったのは、18…Nxf4 19.e5 Ne2+ 20.Kf2 Nxd4 21.exd6 Nxb3 22.dxc7 Nxa1と進んで駒損になるからです。しかし、18…Rfd8と指した後の19.e4ならば、c7のポーンがd8のルークに当たることとなります。しばらく時間を使って考え、ナイトを退くのでは面白みがないので、ピースを捨てる決断をしました。
19…Nxf4! 20.e5 Ne2+ 21.Kf2 Nxc1!?
この局面では黒は何らかのピースを捨てざるを得ませんが、どれを捨てるのがベストなのかは判断の難しいところです。私は白の黒マスビショップが強力なディフェンダーになると考え、c1を取ることにしました。
a)21...Bxe5!? 22.Kxe2 (22.dxe5 Qxe5 23.Be3 Qg3+ 24.Kxe2 Qxg2+ 25.Rf2 Qxh3 26.Qc4=) 22...Bxd4 23.Bf4=
b)21…Nxd4 22.exd6 Rxd6 23.Qc4=
22.exd6 Qxd6 23.Rfxc1?!
ここではすぐにピースを取り返すしかないように見えますが、23.Qc3!という手がありました。
以下23…Qxd4+ 24.Qxd4 Rxd4 25.Raxc1 Rd2+ 26.Kg3 Rcd8! (26...Rxb2 27.Rcd1) 27.Rb1 ならば、3ポーンピースで形勢不明です。
23...Qxd4+ 24.Kf1 Qf6+ 25.Qf3
黒は白キングが不安定であることを利用し、b2を取って4ポーンピースにします。
25...Qxb2 26.Kg1 Rd2 27.Rf1 Rc7 -/+
このような局面では4ポーンピースという駒数だけでなく、お互いのピースとポーンがどのような働きをしているか、また狙われる駒はないか、に着目すると良いでしょう。黒はポーンが7つ残っていますが、落ちないように注意する必要があるのはf7とb7なので、7段目にルークを一つ置いておけば安全です。
28.Rad1 Rcd7
ここは欲張ってa2を取ってはいけません。28…Qxa2? 29.Rxd2 Qxd2 30.Rd1!と進み、dファイルを奪われてしまいます。するとc7のルークが試合に参加しておらず、キングも危険なため、一転して白が優勢になります。
29.Rxd2 Qxd2 30.Rf2 Qd4!
ここでは30…Qd1+でクイーン強制交換ができますが、黒はこれを急ぐ必要はありません。7段目に置いているルークのおかげで、黒はf7をさほど気にせずとも大丈夫です。ならばクイーン交換は、クイーンサイドのポーンをなるべく進めてからにすべきです。
31.Kh2 c5 32.Qg3 a6 33.Bf3 b5 34.Kg2 Qd6!
ここまでポーンを進めた後、クイーンを交換すれば、黒は特に不安なくポーンを進めることに集中できます。
35.Rc2 Qxg3+ 36.Kxg3 c4 37.a4 Rd6 38.Kf4 Kf8 39.Ke3 Rd3+ 40.Ke2 Rb3 41.Bb7
黒はキングを前進させつつ、キングサイドでもポーンを進めればどちらにせよ勝勢ですが、ここでのルーク交換は黒の勝ちを早めてしまいます。
41…Rxh3 42.Bxa6 Rh2+ 43.Kd1 Rxc2 44.Kxc2 bxa4 45.Bxc4 Ke7
こうなれば、黒はaポーンを取らせている間にキングサイドのポーンを進めて勝ちとなります。
46.Kd3
46.Bb5 a3 47.Kb3 f5 48.g5 e5 49.Kxa3 Kd6 50.Kb3 e4 51.Kc3 Ke5 52.Be8 Kf4 53.Bxg6 Kxg5 54.Be8 Kf4 55.Kd2 Kf3–+
46...f5 47.g5 Kd6 48.Kc3 e5 49.Bf7 e4 50.Kd4 a3 51.Ba2 Kc6 52.Bf7 Kb5 53.Ba2 Kb4 54.Bf7 e3 0–1
f5にあるプロテクテッドパスポーンのおかげで、黒はeポーンを捨ててもa2でビショップを取り、キングサイドにキングを戻して勝ちとなります。
55.Kxe3 Kc3 56.Kf4 Kb2 57.Ke5 a2 58.Bxa2 Kxa2-+
5…Bf5と5…Bg4のどちらが優れているかは、一概には言えません。次回扱う予定のKing’s Indian Attack対策のSlav組みの解説の中で、Bf5とBg4の違いについて多少触れるつもりですので、それも参考にしたうえで考えていただきたいと思います。また、私は5…Bf5をPlay the Semi-Slav (QUALITY CHESS,2008 )で、5…Bg4をPlay the Slav (EVERYMAN CHESS,2008) で勉強しました。このラインに興味のある方はぜひ読み比べてみてください。